ロストの能力
河原にバイクを止め、エンジンを切った。
ヘルメットを脱ぎ、ミラーに掛ける。
夜の河原は暗かった。外灯は一本もない。人影は見あたらなかった。
川沿いに建つ民家の明かりは、ここまでは届いていない。向こう岸の車道の明かりが、川面に映っている。
砂利の混じった土の道をブーツで踏みしめ、俺は少し下流へと下った。
踏み固められた河原の道以外は、沢山の草が茂っていた。寒くなってきたからだろう、草の半分以上はセピア色に枯れていた。
下流からの微風に、枯れ草が揺れている。俺は立ち止まった。
気を集中し、辺りを睨み付けた。
川に向かって右手、土手が急激に下がっている上辺りに、青白い影が現れた。
俺はその影に近寄り、さらに意識を集中した。青白い影が、青白いまま少女の実体へと変化する。
俺の腰辺りの身長の少女は、虚ろな顔で立っていた。
「どこにいる?」
俺は少女にだけ聞こえるぐらいの小さな声で、質問した。
「わからない」
抑揚のない声が、質問に答える。
「何が見える?」
「暗い、池が見える」
「他には?」
「変な形をした建物が見える」
「変な形?」
「うん、大きな船みたいな、変な形」
「・・・・・・、それは池の向こう側か?」
「ううん、池と反対側」
それだけ聞けば十分だった。
俺は気を解いた。少女の影は消えた。
バイクに戻り、少女が教えてくれた場所へと向かった。
宝々池公園。変な形の建物とは、きっと国際会館のことだろう。
少女は宝々池と、国際会館の間にいる。あそこだと、夜に人は近づかない。
森があり、茂みが沢山存在した。
公園へは、5分と掛らなかった。
開散とした公園の駐輪場にバイクを止めて、指定の場所へと向かって走った。
この公園は池を囲む形に散歩道が作られていた。さすがにこの時間に人影は無い。
指定される場所が近づくと、速度を落とした。足音をする砂利道を避け、柵を越えて脇の芝生に入る。忍び足で、だが素早く目標地点に近づいた。
いた。
草むらの中に、赤いスカートの少女が横たわっていた。
池と国際会館が見えている。少女が言った事と一致した。
俺の能力。残留思念を読み、生きていれば、本人とリンクさせる。だが、本人とのリンクは無意識の領域と行うため、本人はリンクされたことすら気が付かない。
この能力を使って行方不明人を探し出し、確保する。
俺の「ソウル・ハンター」と呼ばれる理由はここにあった。
物心ついた頃から持っていた能力。特別なものだとは思ってなかった。だが、人に話しても誰も信じてはくれなかった。俺は能力を隠し、誰にも話すことはなくなった。