目的地へと
ベンチに置いておいた新しい服を身につけた。
Tシャツ、革パンツ、革ジャン、ブーツ、全てが黒で統一されている。
シャッターを開き、スポットライトの電気を消した。
真っ暗闇の中、またがらずにバイクのバイクのクラッチをニュートラルに入れ、セルスイッチを押してエンジンを掛けた。
部屋の中が暖かかっただろうか。チョークを引かずとも、一発でエンジンは掛った。
ヘッドライトのスイッチを入れる。ハンドルを握ってバイクを押した。
シャッターを通り過ぎ、サイドスタンドでバイクを止めた。シャッターを下ろす。
時計を見た、午後十時を少し回ったところだった。
右のサイドミラーに引っかけたヘルメットを取り、かぶる。
頭の中に、出雲路橋までのルートを思い浮かべた。
バイクにまたがり、ギアをローに入れる。
アクセルを吹かし、高速回転のまま急激にクラッチをつなぐ、後輪がスピンして、砂煙をまき散らした。
だがすぐに強烈な加速が発生し、マシンは俺を夜の峠道へと運んでいった。
俺の家は八瀬の山道を少し入ったところにあった。街に近いが、静かな環境だ。だが、山間部になるせいか、人はあまり住んでいない。
バイクはマフラーを改造し、大きな音が出ないようにしてあった。水平対向六気エンジン。本来なら地響きがするほどの爆音が発生するのだが、大きな音をまき散らすのは俺の仕事には不向きなのだ。
見慣れた夜の景色が、後方へと飛んでいく。
俺は通常の人間よりも、目が良かった。夜目も利く。
警察が設置したスピード判定機、遠くに見える検問。それだけではない、近くを走っている車両の動き、飛び出してくる恐れのある道、全てを把握することが出来た。
事故を起こさず、最短の時間で目的地に到着する自身がある。
出雲露橋へは、十分と掛からなかった。