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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドラキュラには手を出すな

作者: catana.

この小説は軽度の暴力表現・反社会的表現が含まれているため、R-15とさせて頂きます。



 とても寂れた街だった。ここのところの暗雲続きの空も相まってか、怪奇小説に出てくる寒村のようだった。農耕を主とした街であることは、家々に立てかけられた農具や堆く収穫された野菜が積まれた荷車でわかる。懐古趣味(レミニセンス)も甚だしいな、と私は鼻で笑った。同僚は可笑しくもなんともないようで、ずっと押し黙ったままだけれど。大体荒野の只中にあって、農業が営めるというところから世の理を逸脱している。こういう乾いた土地には牛馬の類がよく似合う。畑を耕す為だろう、小さな牛舎が無いこともないが、牧畜は行っていないようだった。

 これまで辿ってきた道の砂利を、私は靴で踏みにじり音を鳴らす。湿り気のない、スナックを噛むような侘しい音が靴底から聞こえた。

「今回は私に似合いの土地みたいだな」

「………………」

「まただんまりか」

「………………」

同僚は無口で困る。ジョークを飛ばせば笑って受け答えるくらいの気概はないものか。


*     *     *


 その2人は奇妙な風体をしていた。街唯一の酒場なんて奇矯な人が集まって当然だろうけど。『よそ者』であることがさらに妙ちくりんにしていたのかもしれない。

 女性2人組であった。

 1人は澄んだ色をした短い金髪の少女。髪の毛が細いのだろう、まるで天使さまの髪のように柔らかそうで儚げである。瞳もまた澄んだターコイズブルー。真っ白な薄手のワンピースを着て、軽やかにステップを踏むようにカウンター席に歩み寄る。彼女はこの酒場にはあまりに場違いすぎた。酔客は彼女に目を奪われ、注いでいた上等の酒がグラスから零れ落ちるのも構わずに凝視していた。今の今まで飲んだくれ、前後不覚に陥っていたアル中の親爺ですらその女性に目を留め、酒を煽る手を休めたほどだ。そうしてまた、酒の肴とばかりに彼女を見つめながら一杯やりだす。彼女は可憐だった。そして華麗であった。しかしその美しさに一点の曇りがある。それは彼女の表情――この世に何も可笑しみなどないような無表情。目を必要以上に伏せるので、その瞳に映る光は失われている。


 そして、その少女の背を押しながら慌しく駆け込んできたもう一人の女性。

こちらは男どもが一斉に眉を顰めそっぽを向いたほどの“男勝りな”女性であった。髪は整えていないぼさぼさの赤毛。色素が薄いのか、赤というより橙に近い。何より奇妙なのはその格好だ。西部劇に出てくる――あれは何と言ったか――そう、カウボーイ、カウボーイだ。独特の山状になった帽子、薄汚れた同系色のシャツとズボン、くたびれたネッカチーフにウエスタンブーツ。どこからどう見てもカウボーイだ。女性だから正確にはカウガールと呼ぶべきかもしれないが。


 や、やと短く挨拶しながら、その男勝りな女性は少女と同時にカウンター席につく。

「おっちゃん、ここは何がおススメ?」

女性は私の傍らにいるマスターに話しかける。マスターはまず少女の方に話しかけられたかったという顔を隠しもせずに不機嫌な様子で応対する。

「……サンドイッチ。それとも酒のことか」

 女性が昼間から飲むなんてそりゃないだろうという配慮なのか、マスターは先に食事を勧めた。私は女性に対しての印象から、いの一番に酒を頼むだろうと考えていたのだろうけども、今回はマスターが正しかった。

「ああ、私酒は飲めないんだ。飲むのはむしろこっち」

と言って、女性は少女を顎でしゃくった。まさかそんな事はないだろうとこの場の誰もが考えたろうが、その予想を裏切り少女は涼やかな声で言い放った。

「ワインを。とびきりの奴を」

 表情一つ変えずにそう言って。顔が見えるのは私とマスターだけだけれど、席に座り微動だにしない彼女に周りは低くどよめいた。マスターも内心動揺したようだが、すぐにワイングラスを用意し樽の方へと向かった。少女は横目で彼を見送る。


 料理は私の仕事だ。早速サンドイッチのパン、ハム、それとレタスを取り出し、パンにバターを塗りつけていく。

「お嬢さんが作るの?」

両手を組み顎を乗せて、女性は暇つぶしに聞いてきた。カウンター越しに話しかけられるのは慣れているが、今日ばかりは少し緊張する。

「そうよ。マスターはお酒、私は食事」

「そりゃ大変だな。手間はあんたの方が上じゃないのか」

「お給料良くしてもらってるから、こんなの何でもないわ」

「ふうん」

 耳を削いだパンを焼き直し、ハムとレタスを挟む。正方形のパンをナイフで真っ二つににして三角形を2つ作り、これで半分が完成する。

「あなた、名前は?」

ふと、名を聞いてみたくなった。何の気なしに尋ねる。

「ミナ。ミナ・マクバーン。こっちの白いのはトマト」

私は驚きで卵を刻んでいたナイフで指の先を切ってしまった。

「ト、トマト!?それが名前だっていうの?」

切ってしまった痛みを感じるよりも、まず愕然とした声が漏れる方が早かった。私の素っ頓狂な大声に、客たちも目を見開いて2人に注目する。

「ああ、名前だって。なあ?」

「ええ、しかし正確には愛称(ニックネーム)、というものかと」

小首を傾げて少女――トマトはミナに言葉を返す。

 何だ、なーんだ、ニックネーム。私はホッと息をついた。最近常識外れの名前(クレイジー・ネーム)を付けるのが流行っているそうだが、この子もその犠牲になった1人かと他人事ながらドキリとしたので。

「お嬢さんの名前は?」

私の心を知ってか知らずか、ミナは今まで通りの調子で質問してきた。

「サラ」

「サラか、シンプルながらいい名前だ」

「お2人はどういうご関係?その……親戚とか?」

「同僚だよ。ビジネスライクな関係」

「そう」

仕事か。どのような仕事なのだろう。カウボーイのコスプレと美少女。大道芸だろうか。

 しかし、とミナは伸びをしながら切り出す。

「この街は良い具合に懐古主義(レミニセンス)だね。この質感、空気、まさしく19世紀のアメリカ西部開拓時代って感じだ。趣味が良いんだろうね。私に似合いじゃないか?」

「さあ、それはわかりませんけど。褒めてらっしゃるんですか、それ」

 血の付いた左手の指をさっと拭い、私は自分の後ろ側に設置された一昔前の手乾かし機(ハンドドライヤー)に似た機械へと手をつっこんだ。機械から吹き付ける温風に身を委ねると、忽ちに指の傷が治っていく。浅かったのもあるだろうが、10秒と立たないうちに完治した。これは少し古い型の医療用ナノマシンである。値崩れしたものをマスターが安く買い取ったので、最新型にはどうしても劣る。それでも先ほどの傷くらいならば秒単位で治療することができる。


 「おいおい、それで“古めかしさ(トラディショナル)”が随分薄れちまったような気がするが」

「……今どき、絆創膏でもないでしょう。救急キットなんてもの、この店にはありませんから」

 私が勤めている店は外観内観が古臭いながら、最新の設備を多数導入している。医療用ナノマシン、自動ポンプディスペンサー、小型のカクテル作成ロボット。私が入ったばかりに稼働していたホールお手伝い用の自動人形(オートマタ)は数か月前に壊れて使い物にならなくなっているから、今は私1人で厨房もホールも回さなくてはならない。大変だけれど、この仕事は好きだからあまり気にならない。そう胸をはって言うと、ミナは微笑みながら頑張れ、とだけ返した。

 指を治し、幸運にも血のつかなかった卵をマヨネーズと共に和え、同じくパンに挟んでナイフで切る。ハムレタスサンドとエッグサンドの出来上がりだ。

「はい、お待ちどうさまです」

「おお、ありがと」

 私は内心ミナが荒っぽい食べ方をするのを期待していたのだが、見事に外れた。彼女は意外にも三角形の端からちょっぴりを口に入れ、ゆっくりと噛むことを繰り返しながら食べる。よく噛むと痩せると聞いたことがあるが、確かにミナのプロポーションは出るところは出、締まるところは締まった非常に均整のとれたものである。

「お2人は何をしにここへ?」

「領主さんに会いに来たんだ。この街の感じじゃ首長さんといった方がいいのかな。えーと、なんていったか…ともかく管理者がいるだろう」

「ゴールドスミスさんの事?」

「そうそう、ゴールドスミス財団の坊ちゃんね。確か名前は―」

「フィリップよ。フィリップ・ゴールドスミス」

「相当な優男だって聞いたけど、ホント?」

「まあ美か醜かだったら美男でしょうけど。私そういうの興味がないから。街の他の()たちは結構お熱みたいよ」

「そうか。それじゃ、この古めかしさも彼が?」

「ええ、彼の趣味。大昔の映画に憧れてるらしくてね、映画館まで作って当時の作品を上映してるの。私もできた当時見に行ったけど、なんだか退屈で途中で寝ちゃったわ」

「そうかな?私はそういうの好きだからよく携帯情報端末(PDA)で見てるんだけど。あと深夜帯のネットショー」


 「一番良いのを用意しましたが……」

気が付くとマスターが遠慮がちにトマトにグラスを差し出し、手の甲を向けて3つほど指を立ててみせていた。と、すると、あれはうちの店で一番高価なワインだ。そんなに上客が来るような所でもないから、目が飛び出るほど高いのは置いてないのだけれど。前に食い逃げした客が手付かずのまま残していったのを舐めさせてもらったことがあったが、辛みが強いもののとても美味しかった覚えがある。

少女はマスターの表情を気にも留めずにグラスを受け取り、一口含み、口の中で転がした。こくこくと首を縦に振り、確かめるようにして飲み込む。と、次の瞬間グラスに残ったワインを一気にあおった。

おおっ、というどよめきが微かに客の中からしたが、少女は平然とした顔でグラスを机に置き、「美味しかったです、ごちそうさまでした」と小声で呟いた。

 そんな少女をミナは苦笑いしながら見やり、また自分のサンドイッチを頬張る。

 マスターはにこにこしながらそうでしょう、そうでしょうと言い、いつもの薀蓄を語りだした。

「これはですね、今じゃ珍しい天然の葡萄畑で採れた上質な実を加工したものでして。皆近頃は人工の管理畑で作りますでしょう。あれらと比べれば確かな味わいですよ、ええ」

「そう」

そっけなくトマトは短く返すと、また目線を下げて押し黙った。

 いつものことなのかミナは特に気にも留めずに私を呼び止めた。

「サラ、ここらで泊まるようなところはないかな?」

「隣がモーテルよ」

途端に彼女は顔を顰めた。どうしたのかと私が問うと、マスターや他の客に聞こえないように声を潜めて

「飲み屋の隣だろ?うるさいに決まってるじゃないか」

と大仰にため息をつきながら言った。私も一応この店の店員なのだけれど、このくらいでは怒られないと踏んだのだろう。まあ、正解ではある。

「我慢することね。この街で泊まるところなんて隣くらいよ」

「そういう、足りない(・・・・)所まで懐古しなくていいんだけどな……じゃあ、そこにするか」

「ゴールドスミスさんに会うんじゃないの?」

「何事もまずはアポイントメントを取ってから」

「……呆れた。事前連絡なしで来たの?」

私が肩をすくめてみせると、ミナは人当たりの良い笑顔で笑い、少女を小突いて立ち上がらせた。

「お勘定は?ここで?」


 「ちゃんと払っていくとは思わなかったな」

「マスター、失礼ですよ。でもまあ、私もツケとか言い出すんじゃないかと思いましたけど」

しめて3万と少し。昼間の食事にしては高いが、2人はきっちり現金で払って帰って行った。あの分だと今日は隣のモーテルに泊まるのだろう。それにしても妙な人たちだった。

24世紀の世になっても、ああいう人らはそうはいない。


*     *     *


 モーテル。安宿という意味合いの宿泊施設だ。長期滞在者を見越していないためか、今回の宿は電化製品の類を全く置いていない。コンロも、簡易冷蔵庫もだ。飲み物が飲みたければ自販機にでも行って買え、酔いたければ隣の飲み屋に行け、ということだろうか。板張りの部屋にベッドが2つ設置され、天井からは天井扇(シーリングファン)がぶら下がっているだけの簡素すぎる部屋だ。2階であるので1階より眺めが良いくらいが取り柄である。私はゴテゴテした服を脱ぎすて、下着だけの姿になった。トマトはというと、ベッドにちょこんと座り、手で撫でまわして硬さを確かめている。

「もう寝てていいぞー」

 部屋を出ながら、彼女に聞こえるように声を上げてそう告げる。酒を飲んだ後だ、休ませないと身体に障る。

私はというと、荒野を歩んできたときに付着した埃や塵を洗い落とすため、浴室に入りシャワーのコックを捻る。石鹸の類も置いていないのを見て、ある意味徹底しているなと苦笑いが漏れた。別に、湯が貰えればそれでいい。帽子は被っていたものの、髪を洗うとじゃりじゃりと砂が数粒こぼれ落ちた。

「ありゃりゃ」

先に宿で身を清めてから店に行くべきだったかと独りごちた。泥だらけの私の姿は余計に奇矯に映ったろう。どうも、私はその辺が疎くて度々失敗する。

 風呂から上がり、旅行鞄から取り出した真新しいタオルで水滴を拭きとると、そのタオルを首からかけ、ラフな部屋着を取り出して羽織る。そしてそのまま、階下の広間の自販機で飲み物を買い求める。年齢認証のあるアルコール飲料の自販機もあったが、生来の下戸なので手は出さない。炭酸のきつい清涼飲料水を買い、ちょびちょび飲みながら階段をまた上る。

「明日が勝負かねぇ」

部屋に入りお尻でドアを閉めた後、一息ついてまた独り言。今日の晩から準備はしておこうか。


*     *     *


 翌朝。開店前の仕込みと買い物を頼まれた私は、市場(マーケット)で品定めをしていた。さすがに衣食住は懐古しすぎるのもどうかということで、この辺りは現代化が進んでいる。冷却器に入れられた野菜やパック詰めされた肉をカートを押しながら見ていると、不注意から前方の人物にぶつかってしまった。慌てて顔を向けると、果たして昨日の2人組であった。

 「よっ」

片手を上げ陽気に笑うミナと、陰気に佇むトマト。昨日もそうだったが、実に正反対の2人だ。彼女らは買い物かごを腕にかけ、2、3の品物を放り込んでいた。安物だけれどワインもある。またトマトさんが飲むのだろうか。

「ここらの野菜は新鮮そうだね。産地直送ってやつかな」

「多少はそうらしいけど、大体は輸入ものね。そういえば、ゴールドスミスさんはいいのかしら」

「いや、今日訪ねるつもりだよ。そうそう、屋敷は昨日の夜見てみたんだけど、町中の電子貼紙(e-paper)、ありゃなんだ?『女優急募』だの『キミの挑戦を待っている』だの、その他いろいろと」

「映画好きって言ったでしょ。趣味が高じて近頃は自分で撮るらしいわよ。街娘捕まえて、『キミは実にすばらしい!逸材だ!この世の宝だ!』なんて褒めそやすして我が家に泊まらせてまで女優に仕立て上げるらしいんだから」

「そりゃ面白い」

 にやにやしながらミナは私の話を聞いていた。何が面白いのやら。

「私、もう行くわ。今日もお店があるもの」

「うん、頑張れ。私たちは明日か明後日出ていくから」

 そう、と私は踵を返してレジに向かう。彼女の視線が背中に突き刺さっているのを感じた。


*     *     *


 「いきなりアタリかな」

「なぜそれがわかるの」

不意に問いかけられて心臓が跳ねる。見るとトマトが首を傾げてこちらを見ていた。

「び、びーっくりしたぁ!ああああんた突然話すのはやめてよねホント!」

こほんと空咳をして。一息。

「呼んでるなこりゃ。嗅ぎまわってることに気づいてわざと情報を流した……か」


*     *     *


 「で、なんであなたたちが先に帰っているの?」

そう訝しげに問いかけられる。もっともな疑問だ。市場を出たのは彼女の方が先で、私たちは会計もまだ済ませていなかった。道端で不意に呼び止められたのもあったのだろう、彼女は不信感を露わにしていた。いや、それだけじゃあない。

彼女は買い物袋を埃っぽい地面に落としていた。それを気にもせず、私たちから逃げ出したいかのごとく後ずさりをする。どう考えても必要以上に動揺している。昨日までは普通に接していた彼女はもうここにはいない。

「サラ、どうしてそんな怖がるんだ?ミナちゃんだよ」

「ちゃんは聞き苦しいかと」

「だまらっしゃい」

馬耳東風な相方を一喝して、サラを見やる。

 彼女は奥歯を鳴らし、身体を戦慄かせる。両手はその両腕を握りしめ、皮膚に指の先が食い込むほど強く強く握りしめ。

ほうとため息を一つ。やれやれ、ここまで怯えられると話し辛いな。

「サラ、あんたあの店でここ最近、満足に働けてないだろう」

「何を根拠にそ、そんなこと、い、言いがかりも甚だしいわ、ね」

いくらか落ち着きを取り戻したのか、震えながらも彼女は言葉を紡ぐ。

「や、単純な推理なんだけどね。私は探偵じゃないし、これが合っているのかどうかも定かじゃないが」

次は肩を鳴らして。ここ最近凝ってるんだよね。

「サンドイッチのパンと具材だ」

「な、なんて」

「パンと具材だ。いいか?あんたの店では元いたお手伝い自動人形(オートマタ)が故障して、あんたは猫の手も借りたい状況だったはずだ。それなのに、だ。何でホールと厨房を兼任しているような奴が、満足に仕込みもできてないんだ?」

「だ、だから今市場に行って、帰って……」

「買い物はこの際いい。目の回る忙しさが予想されているなら、パンは焼いておくべきだし、卵も刻んだものをある程度用意しておけばちっとは楽になるだろ。だが、あんたはそれをしなかった。や、できなかった」

「な、な」

「全く頭の悪い奴だよ。第一誤魔化したかったんなら、もっとやりようもある。マスターを弄ってやらせておけば良かったんだ。まあ、あの男も家事なんざ出来そうもないからあきらめたのかもしれんが。私たちが急に押しかけてきたのも原因だろうけど」

サラは眼球が零れ落ちそうなほど目を見開いている。息苦しそうに喘いでいる。何かに耐えるように。

「あんたの時間が取れないのは自分のせい(・・)なのにさ」

「一介の街娘を大女優様に仕立て上げた、自分がさ」

「あ、ああ、あああ」

「サラ」



「噛まれたか」



 彼女は飛んだ。跳んだなんてもんじゃない、助走もつけず、優に3メートルは舞い上がった。そして私たちの後方5メートルほどの位置に四足を使って着地する。はしたなくも足を広げ、まるで動物のようにそろそろと歩み寄る。間合いを計っているのか、すぐには襲ってこない。

 素人だ。

「素人ですね」

 トマトが動いた。颯のように踵を返し、足をバネのようにして真っ直線に跳ぶ。こんな時でも、彼女は表情一つ崩さない。一時遅れて私も後ろを振り返る。見るとトマトは臨戦態勢に入り、右腕を真横にして胸の前に持ってくる、という構えを取っていた。あの構えには見覚えがある。確か、1人目の時にもこんな――

「撃たないでください」

 いつも茫洋とした彼女の声が、少しばかり引き締まっているような気がする。彼女は丸腰だ。無抵抗とも言えるその構えはもちろん意味あってのことだが、その意図に気づいて私は声を荒げた。

「腕一本失くすか!?」

当然とばかりに、トマトは向かってくるサラに対して、無防備な右腕を掲げた。

ここを狙えと。ここに向かって来いと。

瞬間、彼女は跳びかかってきたサラに押し倒される。恐るべき膂力に立ち向かう力を持たぬ彼女は怖ろしく無力で。サラに腕を掴まれ人とは思えぬ力で曳かれても、倒れたまま微動だにしない。

「同性愛の趣味はありませんから、それに」

少女はされるがままだ。サラは常人が成せる握力、腕力のそれを遥かに超えている。放っておけば彼女の腕は捩じ切られる。トマトの右手は既に軋みを上げていた。

「女子に、人に手荒な真似はできません」

 ばきりと嫌な音がした。サラが腕を強引に圧し折った音だ。

勝利の雄叫びとばかりに、サラはけだもののように哭いた。犬畜生でも出せないであろう、この世のものとは思えぬ声。大口を開け、舌をだらしなく垂らしたままで器用にも哭いてみせる。

その瞬間、トマトの短くなった右手がサラの口元に突き出された。突然のことで対応できなかったサラは、されるがままに肘関節までの腕を口に入れられる。動揺し必死に腕の端に噛みつくが、トマトは痛がるそぶりをおくびにも出さない。いや、彼女は元から、腕を捩じられた時から全く痛みを訴えていないのだ。いつものまま、無表情のまま。

 腕を噛み砕こうとしていたサラは、その目を見開き身体を1度びくりと跳ねさせた。そしてそのまま仰向けに倒れこみ、けいれん発作を起こす。10度くらいその身を震わせた後、彼女は完全に停止した。目は虚ろに開かれ落ち窪み、所々布が裂け黒ずんだ衣服が痛々しい。


「女優だけに、狸寝入りじゃありませんか」

 被害者に非情な言葉を投げかけるのはいつものことだ。死人に鞭打つとはこういうことをいうのだろう。いや、死んではないが。

「大丈夫、立派に気絶してる」

 一応確認の為に彼女の口に指を入れ、歯茎と犬歯を露わにする。歯茎はみずみずしい桃色、犬歯は人並みのサイズである。あの乱闘では細かなところまで見えなかったが、先ほどまでの彼女はおそらく歯茎は灰色に染まり、犬歯も通常の2倍まで異常に成長していたはずだ。

指でOKのマークを作ってみせると、トマトはふいと顔を逸らして、

「そうですか、感染の具合が軽くて良かったですね」

と言う。ちっとも良かったなという感情を出さないものだから、高度の皮肉にも取れる。

 「腕はどうだ?」

肘から先を失くした少女は、2度3度腕を振り、なんでもありませんと答えた。

「聖水は止まった?」

「飲ませた時点で止めてます。もったいないですから」

トマトの切り傷からは一滴たりとも血が流れない。変わりに無色透明、無味無臭の水が滴り落ちる。それも自らの意志でこれ以上の流出を留めていた。

「3万があっという間に消えましたね」

相変わらずこの子は他人事みたいに。経費で落ちればいいけど、報酬から差っ引かれそうな気もする。

「もっと人目を気にしてよね。こんな大騒動、あっという間に全世界に広まる時代なんだから」

 深いため息をついて私がたしなめると、彼女は心外だとでも言わんばかりに顎を傾け、射るような目線を投げかける。

人がいない(・・・・・)と昨晩言ったのはあなたでしょう。ここにいるのは役者(キャスト)のみと」


*     *     *


どうしてここが知れたのだ。俺は上手くやっていた。そうとも、筋書き通り上手くやっていたのだ。

脚本(ホン)撮影(フィルム)演技(アクト)演出(ディレクト)編集(カット)も何もかもすべてを。

とっておきの時間を邪魔されないように(I.C.E.)まで生み出した。今の俺ならそれも造作のないことだ。

それがどうだ。

突如として現れた奇妙な女2人組によって、氷はいとも簡単に砕かれ、あまつさえ俺の世界を受け入れたのち好き勝手やりだした。そして、そして、嗚呼、なんということだろう。我が愛しの、最愛の大女優(マドンナ)は見るも無残な場末の女(ビッチ)に成り下がった。

くそ、くそ、くそ、くそ、畜生めが!!


ここに集めたのは一流の役者たちだ。しかし、しかしだ。その一流に端役をさせるなどあってはならぬ

断じてならぬ。エキストラだ。そうだエキストラがいるじゃあないか。エキストラなら幾らでも代えがある潰しが効く。売れない役者など所詮そのくらいの価値しかないのだ。

行けよ屑ども。凶悪な怪人たちに惨殺される、無様な町民を演じてみせろ。


*     *     *


 「あーあ」

想定外の事でもなかった。むしろ通過儀礼というか、お約束というか。ただ、毎回敵役の数が増えていくのはいただけない。それに今回はふざけた懐古主義(レミニセンス)のせいで土葬された者も多い。その為増えると臭いもきつい。彼らは身の芯から腐食し溶け切っているのだから。眼窩にあるべきものが無いくせして、方向を違えず私の方へ歩み寄ってくる。

 ここは首長の館前。さながら雇われ傭兵のように屍体どもが群がり、私たちの行く手を塞いでいた。

「死んだら頭のネジ(インプラント)は外してくださいっていう法律ができないかねぇ」

そうすれば、死んだ後まで墓からよっこらしょと起きだして、他人に扱き使われることもなくなると思うのだが。

「ここまで腐って、よー動かせるもんだ」

 私は、ホルダーから抜き取っていた銃を構え、手近な頭蓋に狙いを定めてぶっ放した。

炸裂。破裂。気持ちのよいほどに弾け飛ぶ。良心の呵責などは一切起こらない。

H&KのUSP。古臭い?―黒くて、無駄のないすっきりとした形。私の好きなタイプだ。

 流石にアクション映画ほど気取ってもいられないから、私は両手を添えて一弾一弾丁寧に発射する。

倒したら死体の隅から銃弾獲得なんて、ご都合も働いてくれないので。弾は大事に扱わなくては。

「遅い。まだですか」

「ああ!?」

背中に控えた少女が、不満を述べた。人の気も知らないで良いご身分だな、ええおい!?

「文句言うなら手伝って!も一丁あるから!」

「仕方ないですね」

「頭ね頭!それもインプラントのある脳みそ!」

「はいはい。……えい。えい」

 気のない掛け声とともに轟音が鳴る。彼女が操るのはポンプアクションの散弾銃。弾丸の詰め替えが手間だが、どうせ10秒内に一歩踏み出すか踏み出さないかくらいの奴らだ。焦らなければ十分仕留められる。こんな低位レンフィールドを使うくらいなら、サラくらいの高位レンフィールドを数体放った方が確実なのに。

 どうもケチケチした男らしいな、ゴールドスミスの坊ちゃんは。


「もういいのではないですか」

 死屍累々だった。処理が実にめんどくさそうである。私はまだ熱い銃をホルダーに収め、トマトからショットガンを受け取った。

「もう一発」

気を見計らって飛びかかろうとしていた屍体山の中の一体を受け取った銃で吹き飛ばすと、私は怠さを頭を振って追いやった。

「くたびれたー。まだもう一戦あるとか信じられない」

「敢えて高位を出さなかったのですから、もうその気はないと見ていいでしょう。自分の好いた眷属のことが余程大事な個体と認識できます。とすると、あとは本命だけです」

「あんた戦闘になると途端に多弁になるんだから」


*     *     *


嘘だ、嘘だ、嘘だ!

エキストラは見るも無残に散った。お約束ではある。が、しかしこれほどまでとは。

怪人たちにせめて一太刀浴びせるとか、そういった盛り上げも必要ではないか。

気が利かない、凡庸な役者どもめ!

やはり私直々に指示を出さねば、都合よく立ち回ることもできない。愚劣で、倣うことしかできない阿呆どもが。

そこで私は気が付いた。LIVEカメラのレンズに映りこむ、怪人、否、怪物たちの姿に。


*     *     *


 「やるのですか」

「ああ、もう嫌ってほど体感させてもらったからね。似合いの舞台だったけど、いい加減胸糞悪い」

私はトマトの残った左手を握る。

「しっかり補助、頼むよ」

「了解です」

 私はカウボーイハットに仕込んだ電極の束を自らの頭部に押し付ける。傍目には帽子を目深に被ったように見えるだろう。

《アクセス―》

 イメージとしては幽体離脱。重い肉を離れて、大気という水の中にに溶けてどろどろに混ざっていく。瞼の裏のその奥を見透かして、情報の波を受け止めて、無限の数字を飲み込んで。

《拡張現実―》

 一瞬頭の中が焼け付く。あの忌まわしい記憶が甦り、叫び狂いそうになる。歯を食いしばり、汗を地に垂らす。しかし、水を湛えた少女の手を強く握れば―彼女から冷水が流れ込むかのごとく冷却(クールダウン)する。まだいける。私はまだ泳げる。どこまでも泳いでいける。

《その破壊―》

 偽りの世界を砕くための歪みを見つけた。歪みに手を掛け、壁紙を剥がすように。(I.C.E.)よりは手強いが、大企業のそれと比較すればこんなもの児戯に等しい。私を誰だと思っている。

《破壊を―》

 破壊の力をこの手に。ふざけたままごとを終わらせる力をこの手に。

《遂行、した》


「来た!」


 周囲の風景が歪んでいく。荒野の農村は、24世紀の現代的な街のそれへと変貌した。

いいや、元通りになったのだ。ただそれだけのことだ。

 「お見事です」

相変わらず感心していない様子でそう少女は告げる。そうして顔を上に向ける。そこには塔があった。50階建ての高層ビルディング。ほぼガラス張りのつるりとした何の変哲もないビルが聳え立っていた。

「では、これを登ればよいのですね」

「ああ、そうだ」

 電子空間(サイバースペース)から帰還した私は、荒い息を吐き答えた。まだ補助付きの潜水(ダイブ)は場数をこなしていないせいか、どっと疲れが押し寄せてくる。それでなくとも私は1度潜水(ダイブ)を諦めた身だ。電子空間(サイバースペース)から弾き出された落伍者だ。それでも、諦めきれない意地汚い根性が、私を再びこの場に立たせたのだ。

そしてこの少女の存在が、私を変えた。

少女はへたりこんだ私に手を伸ばし、無感情な声で言い放った。

「行きましょうミナ。クソ野郎がお待ちかねです」


*     *     *


それはまさしく怪物だった。苦心して造りあげたセットをあっという間に砕いてしまうチープな怪物。

「に、逃げるぞ」

ここはもうおしまいだ。街は怪物の猛火に沈み、銀幕は閉じた。

バッドエンド。観客からは非難轟轟。あっけない幕切れに呆然とする者が幾人か。

「ここは最上階だ。追いつけるはずがない」

手駒は残されている。街で出番まで待たせている最高の役者たちだ。

だが彼らをこんな駄作に引きずり出すなど、あってはならないことだ。

その時、複数のLIVEモニターの1つ、エレベーターを映したカメラが2人を捉えた。

馬鹿めが。私の居城がそう易々と扉を開く―


あ?こいつらは私の万全ともいえる警備体制(セキュリティー)をどうやって突破し、邸内に潜り込んだのだ?


モニターの中の赤毛の女―ミナといったか―は、得意げにエレベーターのボタン前で指を鳴らして見せる。すると完全に管理下においていたエレベーターが見る間に降下していく。

ば、馬鹿な!そんなことがあるはずがない!

私は必死に脳に意識を集中させ、潜水(ダイブ)を試みた。だが、だが!何かに阻まれている!

どうしても上手く潜水(ダイブ)できない!何故だ!何故だ!

2人は到着したエレベーターに乗り込んだが、その直前に赤毛の女は監視カメラに向かって人差し指を向けて見せた。親指を立て、人差し指を伸ばしたそれは確かに(ガン)を模していた。

こいつは怪人なんかじゃない。怪物でもない。

魔女だ。正真正銘の魔女だ。銃箒(ガンナーズブルーム)を携えた最強最悪の魔女だ。


「く、くそがぁあああ!俺を馬鹿に、馬鹿にしてえ!虚仮にしてぇえええぇええええええ!」


「そこまで。はーい、撮影終了(カット)。おつかれさーん」


俺はその声で自然と体が強張る。怪人が、怪物が、魔女が来た。上等な木偶を連れたけだものが。


*     *     *


 「よくB級映画ってのを見るんだけどね」

暗がりにモニターばかりが煌々と光る室内。そこにはCG撮影に使われる、緑一色に染められた一角に追い詰められた男の姿があった。

濃い金髪で、なるほどいい男だ。スタイルも悪くないし、モデルをやれるかもしれない。しかし男の顔はみっともなく引き攣り、表情だけで助けを乞うている。

 「カメオ出演ってのが偶にあってね。ああいうの、大好きなんだ」

「特に撮ってる監督がひっそり紛れ込んでたりすると笑っちゃうねホント。ああいうメタは色褪せないネタだな」

「で、あんたはいつこれ(・・)に出たんだ?」

威嚇のため発砲した。弾丸は男の頭すれすれを通り、緑色の壁に穴を空ける。

 「こんな三文芝居に、私が出演するだと!?こんな馬鹿げた筋書きには三文役者が似合いなんだ!」

男の口調には諦めが漂っていたが、それでも私に反抗するように語調を荒げた。

「それであのゾンビーズ?ゾンビも登場させるならもうちょっと凝らなきゃ。安堵してる中で不意打ちさせるとか、個性を持たせるとか」

「それにぜんっぜんだめ。役者は上等なのばっか集めると逆に失敗しちゃうのが多いんだよ」

「ちょっとは卵も混ぜなきゃ、後進が育たないよ」

「うるさいうるさいうるさいッ!」


吸血鬼(ヴァンパイア)


 私が遮るようにその一言を発すると、男は大仰な身振り手振りを止めて押し黙った。

「とある製薬会社が開発した違法ステロイド剤。サンプルとして作られたのは9錠。これは各地にばら撒かれ、有力者の手に渡った……って、はい!後は任せたあ!」

 小難しい説明は苦手だ。両手を合わせお願いのポーズをすると、トマトは私を一瞥して口を開く。彼女は異様に白い肌を暗闇の中で光らせながら、続けて話す。

「ステロイド剤としては正規の効果がある。けれど、問題はその副作用」

一旦その長く美しい睫毛を瞬かせ、そして真っ直ぐ男を見据える。

「現代では必須の脳機能補助装置(インプラント)。老若男女誰もが生まれた時より装着し、その恩恵を日々の生活から都市の営みに至るまで受けることができます。この違法ステロイド剤の副作用は、この脳機能補助装置(インプラント)と隣接する脳の異常な活性化にあります」

都市(シティ)備え付けの電子案内板の音声みたいな平坦さと正確さで、少女は滔々と語る。

「通常シナプスを通じて信号を送りあう脳機能補助装置と脳は、この薬の影響により完全に癒着。その結果服用者に与えられる異能力(PSI)は次の3つ」

 少女は三つ指を突出し、掲げる。

「1つ。広域かつ高度な潜水(ダイブ)を可能にする力。2つ。本来ならば制限が掛けられるはずの他人の脳機能補助装置(インプラント)を外部から操作できる力」


「そして3つ目は、いえ、3つと言っていいのでしょうか。―前者2つを組み合わせることによって、怪奇小説のドラキュラ伯爵さながらに死者も生者も意のままに操ることができる能力。

完全支配(ブレインウオッシング)の能力です」


「それがどうした」

 男は長口上は聞き飽きたとでも言うように顔を両手で覆い、横に振り続けていた。

「ああ飲んださ確かに飲んださ。親父から譲られたのを飲んだんだ。副作用の事も知らされていたよ。それでも俺は飲んだんだ。超常的な力が手に入れば、俺の趣味をもっと大がかりなものにできるってな」

それでもさ、と男はぽつりと漏らした。

「殺されるとは思わなかった」

 男はこう思ったろう。大罪を犯したをしたのはわかっている。だがこれではまるで私刑ではないか。自分がこう考えるのも変な話だが、俺は罰を受ける然るべき場所へと送られるのが筋ではないのかと。

だが。だがしかし。

 「すまんね、殺しは依頼人さんからの仕事(ビズ)だから。達成できないと怒られるんだわ」

非情な事情を私は告げる。これでおまんま食わせてもらってるのだから、私は依頼に従うだけである。

―相方はどうだか知らないが。


 「そうか」

その一言を皮切りに、男が動いた。咄嗟のことで、私は回避に手間取る。

男がどう思っているかは知らないが、この体は一切手を加えられていない。サイバネのない、生身の女だ。

世間では若い部類に入ると自覚しており、先ほど銃をぶっ放して潜水(ダイブ)してみたものの、まだまだ体力に余裕はある。だが、同年代成人男性の瞬発力と比較されるとやはり弱い。

私は容易く己の頭を掴まれた。

頭蓋を砕こうとしているのでも、首根っこから圧し折ろうとしているのでもない。

完全支配だ。彼は、私を支配下に置きたいのだ。

彼の泣き笑いのような、感情が複雑に入り混じった貌を垣間見た気がした。


 ややあって、彼が絶望に満ちた短い呻き声を上げた。

「あ、ああ」

「どうしたよ、監督」

「無い……何も……信号も、通信も、何もかもが…………無い…お前、一体なんなんだ!」

最後の畏怖からくる絶叫の途中で、私は鉛玉を男の眉間にぶち込んだ。硝煙と血の匂いが香る。

零距離で、撃ち損ねることがない、本当に楽な仕事(ビズ)だった。私は明かりの灯っていない空を仰ぐ。

「もうこれで3人目だけどさ、あんたが一番新人(ニュービー)だったのかな」


*     *     *


「茶番は終わりましたね」

「へえ……事後にコメント残すなんて初めてじゃない?」

「…………………」

「また黙るーもういやー」

「…………………」

「……あんたの腕も直さなくちゃいけないしさ、一旦都市(シティ)帰るか。

毎回新しい生傷増やして拠点に帰還して治す(直す)。まるでゲームの登場人物みたいじゃない?」


「演出家のミスであるべき傷が掻き消えてたり、脚本上都合よく全快できませんから。現実はげに厳しいですね」

『ニューロマンサー』片手に好き勝手書かせていただきました。

余韻の残る、設定の多くを説明しきれていないような終わり方で申し訳ありません。

現在この続きは予定しておりません。

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