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最強のいる霊能相談所  作者: 4N2
第一章 首吊りカウントダウン
6/8

無限の偏光

 ユウは弟を強く抱きしめながら、逃げ道を探っていた。


 来た道は閉ざされている。右も左も暗闇の道。


 「どうする?どうする?どっちだ?どっちだ?」


 白蛇の息が近くなって来る。


 迷っている時間は無い。


 その時、弟が泣き声を上げた。まるで僕の方を見てくれと言わんばかりに大きな声。


 ユウは、慣れていない手つきで弟をあやした。


 「あーごめんごめん。揺らしちゃったねー。ん?あれ?」


 気になったのは、少し下のあたり。


 小さく細いへその緒が、右の道へと繋がっていた。弱い風に流され、ふらふらと揺れていて、ひどく頼りない。


 確証はなかった。だが、他に頼るものもない。


 泣いていたはずの弟は、笑っている。


 「これを……伝っていけばいいんだね?」


 ユウは、へその緒の導く方向へと走り出した。


 ぬかるんだ道は、足に重りを付けているかのように一歩遅れて沈み込み、足を引き抜くたびに、液体が絡みついて離れなかった。


 「絶対、生き延びてやる」


 ユウは自身にできる最速で歩を進めた。


 だが、ぬかるみなどもろともせず、スルスルと進む白蛇は、容易にユウとの距離を縮めて行く。


 このままでは、必ず追いつかれる。


 振り返れば、白蛇がすぐそこまで来ていた。血のように赤い舌からは、ご馳走を待つ子供のようによだれが垂れていた。


 白蛇は首を素早く伸ばし、ユウの足に飛びついた。


 「ひっひいいいいいいいい!!!!」


 なんとか横に飛ぶことでかわしたユウだったが、ぬかるんだ道は、綺麗な着地を許さない。


 完全に躓いたユウ。白蛇との距離はもう目と鼻の先。


 ユウは白蛇から弟を隠すように抱きしめた。それが精一杯の抵抗であった。


 「くそぉ。食うなら僕から食え!いやでもどうせならどっちも食わないでください!」


 渾身のお願いも虚しく、白蛇は大きく口を開けた。


 牙は艶めいて光り、喉奥にはどこか知らぬ深淵が渦巻いている。生きたまま飲み込まれる、そのイメージがユウの脳裏をよぎる。


 あー僕、今度こそ死ぬんだ。


 そのときだった。


 へその緒が大きく揺れた。


 「ん?なんだ?……ってぉぉぉおおおおおお!!!!」


 次の瞬間、へその緒がものすごい勢いで引っ張られた。


 まるで見えない誰かに強く手を引かれたように、ユウと弟の体がふわりと宙に浮いた。


 「うわあああああああ!!?」


 白蛇も、その場の空気さえも置き去りにして、ユウたちは闇の中へと一気に引き込まれていく。


 落ちるのでも、飛ぶのでもなく、ただ“引き戻されていく”感覚。


 へその緒は切れることなく、光を帯びながらユウたちを導いていた。


 「よっ!お疲れさん!弟とは会えたみたいだね」


 その先にいたのは、六宝であった。


 へタっと倒れ込みながら一瞬愛想笑いを浮かべたユウであったが、すぐに後方を指差す。


 「六宝さん!やばいんです!なんかでっかくて白い蛇に襲われて。とにかくやばいんです!」


 白蛇はさらにスピードを上げ、こちらに向かってきている。


 六宝は冷静だった。


 「キミの母さんに憑いていた守護霊が、ブレスレットの力で水子になったキミの弟に引き寄せられた霊たちの力で肥大した結果だね」


 ユウは思い出していた。十年前、あの詐欺師も、母さんに白蛇の守護霊が憑いていると言っていたことを。


 六宝は「まあ立ちなよ」と手を差し伸べた。


 「キミは充分頑張ったからね。約束通り、後は僕に任せて」


 でもどうやって。そう言いかけたところで、六宝は右手の人差し指を一本立てて見せた。


 「さっき話したけど、神通力ってのは人間誰しも微量ながら持ってる力。


 僕はその力を一般人の80.62億倍持ってる。


 つまり、絶対息切れしないマラソン選手だとでも思ってくれていいよ。


 そして神通力は魂の力。魂のみの霊たちに干渉するには持ってこいの力ってわけさ。


 僕たち霊能師はこの神通力を様々な形に変化させる。それを僕たちは「涅術」(ねじゅつ)と呼んでる。


 でっ、僕のこの指は、涅術を使って光子を生成するんだ。まあ小さな光の粒だと思って貰えばいいよ。最初は目には見えないぐらい小さいんだけど、どんどん数を増やしながら、光子を結合していくことで、少しずつ大きな光にしていくんだ」


 小さな粒は空中を漂いながら、徐々に数を増していく。それは、次第にユウの目にもはっきりとわかるぐらいの光の球へと昇華されていった。


 「な……なるほど?」


 ユウに化学の知識は無かった。だが、(なんかバカにされそう)と思い一旦そのまま流していくことに決めた。


 「そして僕の中指は、その光に無数の自転を与える。あらゆる角度からあらゆる速度の光をあらゆるタイミングでぶつけ合う事によって生まれるのは無限の偏光」


 光の粒が、回り始めた。上下左右、斜め、予測不能な軌道で自転しながら、まるで無限の回転角度を保つように、空間に乱舞する。


 「そしてこれを、手のひらサイズに圧縮して、小さく小さくしていく」


 目に見えぬほど小さな光子が、無限のスピンで重なり合っている。


 それは徐々に圧縮されていき、小さな太陽のように強い光を放つ丸い球に昇華された。


 「光滅閃花(こうめつせんか)


 六宝は、白蛇に球を投げつけた。


 それは白蛇の体に当たり、吸い込まれるや否や、体内から光を放ち始めた。まるで星の終わる瞬間の爆発、ビッグバンのように一瞬の輝きを放つと、光が消えると共に、白蛇の姿は完全に消滅していた。


 ユウは、あまりの衝撃に口をあんぐりと開けていた。


 六宝は満足気に笑っている。


 「ほら、言ったでしょ?結構強いって」

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