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最強のいる霊能相談所  作者: 4N2
第一章 首吊りカウントダウン
4/8

正体と決意

ユウは六宝に促されるまま、目の前の椅子に腰掛けた。


 「じゃあちょっと話を聞かせてくれるかな?」


 「はい」


 ユウはこれまでの経緯を語った。


 毎日のように見る悪夢。何をしても全く得られない効果。十年前の母の死。それと関連した現在の自分の考え。


 一通り話し終えると、六宝は「なるほどねー。僕が知ってる話と大体一緒か」と頷いた。


 「そもそも何で僕のことを知ってるんですか?」


 当然の疑問だ。ユウにとって、ここがクリアにならないなら、この相手を信用しきることは難しい。


 だが六宝は、疑いの目を向けるユウを全く気にする素振りもなく続ける。


 「まあすぐに分かるよ。そういえば、電話で話してたブレスレットは持ってきてくれたかい?」


 「は……はい。一応」


 ユウはポケットからブレスレットを取り出すと、机の上に置いた。


 六宝はそれを手に取ると、ショーケースを眺める子供のように、目をキラキラさせながら隅々まで観察していた。


 「なるほど。『呪い』というよりは『増幅器』に近いかな」


 そういうと、六宝はブレスレットを手に取り、躊躇なく壁に投げつけた。


 どん、と鈍い音が響き、壁に跡が残ったが、ブレスレットは無傷で床に落ちた。


 ユウの視線はブレスレットに釘付けになった。


 「ふーん。壊すつもりで投げたんだけどねー。対象との結び付きがある限りは破壊不能か」


 六宝はブレスレットを拾い上げると、再び椅子に腰掛けた。


 「結論からいうと、キミの母さんは騙されたわけじゃない。ただ、副作用を聞かされてなかったんだ」


 「どういう意味ですか?」

 

 「神通力って知ってるかい?」

 

 「ん?まあなんかテレビとか漫画で聞いたことはあるってぐらいですけど……あくまで創作の話っていうか。それが何か?」


 「人ってのはね、誰しもが生まれた時には少なからず神通力を持ってるんだ。


 神通力ってのはその名の通り神に通ずる力。極めれば何でも出来る。キミが想像できるような事は全てね。と言っても、一般人が持っている神通力の総量は、100で言えば1にも満たないほんの微量。日常生活に影響するなんてことはほとんどない。


 強いていえば、なんか何でも上手くいくぞー!ってやつと何にも上手くいかない……って奴が出るぐらい。気の持ちようでどうとでもなる差だ。


 ただ、このブレスレットはその力を無理やり増幅させる。願いの一つなんて簡単に叶えられるぐらいにね」


 「なんかあんまり信じられない話ですけど。でも、それでどうして母さんが死ぬことになるんですか?」


 「言ったろ?副作用があるって。


 神通力は神にも匹敵する力。到底普通の人間が扱えるようなものじゃないんだ。


 そんな力を無理やり増幅させられたら、コントロール出来るはずもない。


 スポーツ選手がドーピングで壊れていくのと同じだよ。人の器ってのは、無理をすればあっさり割れる。


 願いを叶えた代償に、命を失ってもおかしい話じゃない」


 話の間、ユウはブレスレットを見つめていた。


 ブレスレットの小さな宝石が光を反射して、まるで生きているかのように輝いている。


 ちらつくのは、薄ら笑いを浮かべていた詐欺師の顔。


 「でも、そんなのおかしいですよ。願いを叶えた反動で死ぬんだとしたら、僕が知る限り母さんの願いなんて何一つ叶って……」


 「うっそーだー。知ってるくせに。だってキミ、寂しがり屋だろ?」


 その瞬間、ユウの背中に衝撃が走った。


 「もうすぐ会えるね」


 そう、確かにこの言葉に聞き覚えはない。


 だが、確かに知っている。


 ユウの額から大量の汗が流れた。

 

 そうではないと信じたい気持ちが、少しでも別の可能性を探そうとする。


 「母さんにかかった呪いが、次は僕を殺そうとしてるってことですか?」


 六宝は興味深そうに、ユウの後ろの何かを見つめている。


 「近いけど違う。代償を払うのは願いを叶えたものだけだ。キミじゃない。それにキミの母さんは死という代償を既に払ってる。


 でも、まだブレスレットの力が残っているってことは、誰かに引き継がれたはずなんだ。キミの母さんが死んだ時に、一番近くにいた誰かに。


 要するに、今のキミの状況は、その誰かの願いってことだ」


 一番近くにいた誰か。あの時母さんの一番近くにいたのは……。


 ユウは記憶を探った。


 五歳の頃に見た母親の最後の姿。


 天井からぶら下がった縄。


 涙も流せず、ただ呆然と見つめていた自分。


 あの時いたのは間違いなくユウと母さんの二人だけ……のはず。


 ずっとそう思っていた。いや、そう思おうとしていた。


 そうしないと、心が壊れてしまいそうだったから。


 「もうすぐ会えるね」


 これは、ユウ自身の言葉だ。


 ユウが、母さんのお腹に向かって何度も言っていた言葉。


 ユウの……弟に向かって。


 「母さんのお腹の中には、弟がいました。母さんが家で一人のことが多い僕のために願っていた、弟が。


 でも……何で今になって……」


 「キミの母さんが死んで、その後を追うようにキミの弟も死んだ。その少しの時間の間に、ブレスレットの力がキミの弟に引き継がれたんだ」


 ユウはその言葉を呆然と聞いていた。


 「キミの弟は死んで、水子みずこになった。水子ってのは他の霊達を引き寄せやすいんだ。汚れのない純粋な魂は、霊達にとっての拠り所になるからね」


 六宝の言葉が頭の中で反芻はんすうする。


 「十年かけて他の霊を取り込み、願いを叶えるだけの力を蓄えたんだろう。だが生まれてもいないキミの弟に願いなんてない。当然だよね。言葉すらろくに知らないんだから」


 ユウの胸は、締めつけられるような感覚に襲われた。


 「彼が唯一知っていたのはキミの言葉『もうすぐ会えるね』だけだった。だからそれが必然的に彼の願いになったってわけだ」


 「このままだと、僕の弟はどうなるんですか?」


 「キミの母さんとは違ってそもそも肉体のない身だ。キミを殺した後、代償として消えるだろうね。天国にも地獄にも行けない。ただ無になるだけだ」


 「そんなこと……させたくないです。方法はないんですか?だってあなた、強いんでしょ?」


 六宝はやれやれと言った表情で、ため息をついた。


 「自分が死ぬかもって時に、とっくに死んだ、見たこともない弟の心配かい?甘いよ。それに、仮に弟を救えたところで、ブレスレットの力はキミに引き継がれる。そうなったらもはや二の舞を越えて三の舞だ。


 悪いことは言わないから、僕に全部任せたほうがいい。僕ならキミの弟ごと、ブレスレットの力も全部消せる。それもほぼノーリスクで。


 霊能師としては、間違いなくこっちをおすすめするよ」


 ユウはうなずきもしなかった。


 ただ、その言葉をいったん胸の内で受け止めてから、静かに切り返す。


 「まず一つ、僕の母さんは霊能師に『おすすめ』されてブレスレットを買わされたんです。結果、僕の家族はみんなこのザマ。おすすめなんて聞くわけない。


 二つ、あなたは弟を救えたところで、と言った。だったら何とかなるってことだ。


 最後に三つ目、僕にはまだブレスレットの借金が三百万も残ってるんです!元を取るまで簡単に消させてたまるか!」


 これは、ユウにとっての打算も裏表もない、本心だった。


 六宝は、そんなユウを見て、大きく笑った。


 「ハッハッハ!いいねー!それぐらい言ってくれれば僕も気が楽だ。キミに弟を救うチャンスをあげよう。僕の目をよく見て」


 六宝は、机を乗り出しながらユウに目を近づけた。


 改めて見ると、緑の目は、綺麗なエメラルドのように透き通っている。


 「この目は見た目のまんま、緑眼りょくがんって言ってね。魂の切れ間を正確に見通すんだ」


 ユウは吸い込まれるように、自然とその瞳に釘付けとなっていた。


 「じゃあ、一回死んでおいで」


 「ん?えっ?いや、死にたくは……」


 言葉の意味を理解する前に、視界がぐにゃりと歪んだ。


 六宝が、ユウの頭を軽く人差し指で押すと、ユウの意識は、体から後方へと離されていった。


 「僕の体が、二つ?」


 さっきまでユウの体だったものは、糸の切れた操り人形みたいに動きを止めている。


 だが、自分自身の意識はある。体をくまなく触ってみるが、しっかりと触れている感触もある。


 「おーい。聞こえるかい?」


 六宝は、ユウの体だったものからひょっこりと顔を出した。


 どうやらユウの姿ははっきりと見えているようだ。


 「キミの体と魂を分離させてもらった。今のキミは意識だけの存在。本体はいわゆる仮死状態ってやつさ。この状態なら、願いの条件を満たせるはずだ。


 てことで、とっとと弟と会っておいで。


 早くしないと、本当に死んじゃうよ?」


 「とっととって言われても、どうやって見つけたら……」


 「大丈夫大丈夫。だってキミの弟はずっといるんだもん。ずっと、キミの後ろに」


 暗く重い空気が背後から流れていた。


 ユウは恐る恐る振り返った。


 そこにいたのは、到底人間とは言えない、黒く禍々しい、何かであった。


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