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第8話 強欲のラビエナ

「まったくもう……」


 破った布の切れ端を胸元から太腿まで巻きつけ、小さな赤髪の彼女は頬を膨らませていた。


「ほんと信じらんない!」

「しょうがないだろ? 助けてやっただけでもありがたく思え」

「……まぁ、そこに関しては感謝してるけど……ふん!」


 そう言いつつも腕を組み、ぷいと顔をそらす彼女にノアは深いため息をついた。


「感謝してるなら話を聞かせてもらおう。まず……君はいったい何者だなんだ?」


 問いかけると、しばしの沈黙のあと、彼女の金色の瞳がゆっくりとノアを映す。

 先ほどまでの幼さを帯びた顔立ちが、ほんの一瞬だけ、底知れない威圧を纏った。


「……ラビエナ……強欲のラビエナ」 

「……強欲?」


 気になったったのはラビエナという名ではなく、その枕詞だった。


「そう……私は七魔姫セブテム・プリンセスの一人、その中の強欲」

「……七魔姫セブテム・プリンセス?」


 疑問は減るどころか逆に増える。

 ノアが眉をひそめると、ラビエナは何かを察した様に、苦笑いを浮かべた。


「あーそっか……中界アルテアの住人なら知らなくて当然よね……んーどっから話そうかな……」


 頬を指先でつつきながら、ラビエナは首を傾げた。


「えっとね……まずこのリアゼルには三つの世界があるの」


 ラビエナは身に纏った布切れを直しつつ、指を三本立てた。


「あなたたちが暮らす中界アルテア。私の故郷、魔界グラナティス。そして天界セラフィス。この三つが、世界の理を成してるの」


「…… 中界アルテア魔界グラナティス…… 天界セラフィス?」


 聞き慣れぬ単語に、ノアの眉間はさらに深く寄せられる。リアゼルに三つの世界があるなど聞いたこともない。


「信じられないって顔ね」

 

 ラビエナは口元にいたずらめいた笑みを浮かべた。


「でも事実よ。中界アルテアは広いけど、それでもただのひとつの舞台に過ぎない。上には天界、下には魔界。あなた達はその狭間で生きてるだけ」

「そ、そうは言われても……」

「そうね……じゃあ、一つと根拠となるものをあげる」


 ラビエナはふわりと浮き上がりノアの鼻先まで迫った。


「あなたは世界最強と呼ばれていた……そうよね?」

「……はは、あのざまで最強だなんて、笑えるだろ?」


 世界最強……確かにノアはそう言われていた。

 けれど今、その言葉はまるで悪い冗談のように胸に刺さる。

 

 あの夜、ノアは目の前のラビエナにまったく歯が立たなかった。

 世界最速と謳われた攻撃は、まるで赤子の様にあしらわれたのだから。


「そんなことないわ。あなたは確かに最強だった……それは間違いない。でもそれは中界アルテアに限っての話。中界アルテアは三つの世界の中で最弱なの。魔界や天界にとっては……あなたの力は中の下……いや下の上。あなたが培った全てを易々と踏み越えるような者がたくさんいるわ」

「……君みたいにか?」


 ラビエナは「そう」と笑う。

 その笑みは、彼女の言葉が真実だと信じるには十分すぎるほどだった。


「……魔界には君みたいなのがうじゃうじゃいるのか……」

「いえ、私ほどの力を持つ者は三つの世界の中でも珍しいわ。だからそう落ち込まないで……って言ってももう遅いか……」

「遅い?」


 宙を舞っていたラビエナは寝床に降り立ち、視線を落とした。

 どこか後ろめたさを匂わせるように。


「……あなた、体の調子は?」

「……実はあれからずっと調子が戻らないんだ。馬鹿みたいに体が重くて、何よりスキルや魔法が使えない」


 ラビエナはわずかに目を細める。

 その瞳には、同情とも憐憫ともつかない光が宿っていた。


「そうよね……はっきり言うから、落ち着いて聞いてね?」


 言葉を一度区切り、ラビエナはノアを真っ直ぐ見つめた。


「——あなたはもう……戦えない」

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