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第24話 再び歩いた道には


 ラビエナを肩に乗せ、フードを深く被ったノアはギルドへ続く七番街メインストリートを歩く。

 行き交う人は多く、客を呼び込む店員の声が飛び交かう中、ラビエナがノアの顔を覗き込んだ。


「そんなに深々とかぶらなくてもいいんじゃない?」

「髭も剃ったし、髪も切った。フードを脱いだら、死んだはずの英雄が現れたとパニックになるぞ」

「……それもそうだね」


 ラビエナはノアの肩に座ったまま、足をぶらつかせる。

 そして、五十メートルほど進んだ頃だろうか。彼女はノアの行く先に向かって指を差した。


「ねぇ、あれなに?」


 爪楊枝のような細い指先を視線で辿ると、少し先の方で人や馬車が列をなして止まっている。

 先頭には巨大な檻を積んだ荷車が馬五頭に引かれていた。 

 

 檻は人の背丈の三倍はあろうかという大きさ。その周囲には騎士ナイト槍使い(ランサー)、更には魔術師ウィザード弓使い(アーチャー)等、様々な職業ジョブの者達が檻を囲んでいる。

 彼らの装いは職業によって差異はあれど、全てに同じ紋章が刻まれていた。


 紋章は一本の剣の周りを、渦巻くように天へ昇る龍。それはオリウス王国の王家を象徴する紋章。つまり彼らは王都直属の部隊だ。


 そんな彼らが慎重に輸送する檻の中には身の丈三、四メートルほどの魔族が胡坐をかいていた。

 

 外見こそは人間と変わらない。しかし、その体格と存在感は明らかに人の常識から外れている。

 筋骨隆々の青緑色の体に身に着けているのは粗末な腰巻のみ。

 手足には拘束具である鎖が巻かれ、こうべが垂れていることからどうやら眠っているようだ。


 まるで古代の戦士のような原始的な姿。

 その正体をノアは知っていた。

 

「サイクロプスだ」 

 

 その名を呟く。

 意外だったのが、肩に座る魔族の頂点であるラビエナが驚いたことだった。


「えっ! あれサイクロプスなの!?」

「魔族なのに始めて見たのか?」

魔界グラナティスのはもっと大きいの。でも、どうしてこんなところにサイクロプスが?」

「生態を調べるために三番街に運んでいるんだ。三番街にはこの国一番の研究施設があるからな」

「ふーん……こっちのサイクロプスは強いの?」


 サイクロプスが分類されるレベルⅢモンスターは一般的な冒険者が四~五人で一体倒せるかどうかといった存在。

 単騎で討伐が出来たら熟練冒険者の証である金級ゴールド同等。すなわち以前のノアであれば、とるに足らない相手だ。

 しかし、それを尋ねて来たのは元々は常識外の存在であるラビエナ。彼女の物差しで測るとなれば話は変わってくる。

 

「ラビにしてみたら俺と大差ないかも」

「ふーん、まぁ今の私ならあいつにすら勝てないけど!」


 何故か開き直ったラビエナは、次にサイクロプスを囲む兵達を見た。


「あの人達、装備に全く汚れが見当たらないけど、中界アルテアではそこそこの手練れってこと?」

「そうとは限らないな。あれはあくまで輸送班。サイクロプスを捕らえたのは、おそらくギルドで依頼した冒険者だろう」

「ふーん……運んでる途中で暴れ出したりしないの?」

「大丈夫だと思うぞ? 魔法で眠ってるし」


 そう言った直後だった。


「おい……あれ、大丈夫か?」


 一人の通行人が檻へ指を差していた。


「グルル……ウゥ……」


 檻の中のサイクロプスは唸り声を上げながら、体を震わせている。

 手首に巻かれた鎖をぎちぎちと軋ませ、まるで筋力だけで断ち切ろうとしているようだが、もちろん明らかな異常事態だ。

 

「おい! こいつ眠っているはずじゃ? どうしていきなり目を覚ました!?」

「慌てるな! しっかり拘束しているし、危険は無い! おい、こいつをもう一度魔法で眠らせろ!」


 輸送班の班長だと思われる男が、部下である魔術師ウィザードに指示を飛ばす。

 すぐ様、魔術師ウィザードが檻越しのサイクロプスに睡眠魔法「スリープ」を唱えようと、杖をかざした。


「ス、スリ――」


 しかし、詠唱が最後まで紡がれることは無かった。

 

「グルル……グオオォォォォッ!」


 雄叫びと共にサイクロプスの手に巻かれた鎖がパキィンと弾け飛んだ。


「グオォォォォォォ!」

「不味い! 全員武器を構えろ!」


 班長の号令に騎士ナイト達は剣を引き抜き、数歩離れた所で魔術師ウィザード弓使い(アーチャー)が杖や弓を構える。

 そして、その光景を見ていたノアは直感した。


 駄目だ。

 動きは遅い。構えも甘い。

 彼らではサイクロプスを無力化できないと。


「ラビ! 逃げるぞ!」

「え、え!?」


 ノアが振り返ってその場から逃げようとした時、サイクロプスは次に足の鎖を引きちぎる。

 そして、自由を取り戻したサイクロプスは自らを閉じ込める檻を内側から粉砕した。


「う、嘘だろ……」


 ノアのそばいた一人の通行人がそう呟きながら、恐怖のあまり腰が抜けたのか、尻餅をつく。


 青緑色の巨体が立ち上がる。

 サイクロプスは、その特徴的な一つ目でギョロリと群衆を見下ろし、猛々しく吠えた。


「グオオオオオォッッッ!!」

「魔族が……化け物が檻から出た! 皆逃げろぉッッ!」


 誰かの叫び声と共に七番街メインストリートは混乱に陥った。

 

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