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第14話 背に腹はかえられない

 ――数日後。

 七番街の冒険者ギルドは、昼間から喧騒と酒気に満ちていた。

 仕事もせず酒の入ったジャッキを掲げる冒険者達の合間を、 げっそりとした様子のノアとラビエナが通り抜けていく。


「……ノア」

「なんだ?」

「ここで私が泣き喚いたら、ご飯分けてもらえるかな?」

「……目立つことはしない。約束だろ?」

「でも私、草以外のものが食べたいよ」

「だからこうして仕事を探しに来たんだろ?」


 背中の傷は、快方には程遠い。

 本来なら、まだ動くべきではない深手だ。

 しかし、草を煮込んで食べるだけの生活にも限界がある。

 このままだと、ノアとラビエナが飢え死にするのも時間の問題だ。


「いい仕事あるかな?」


 ラビエナの言葉にノアは沈黙で返した。

 望み薄だとわかっていたからだ。


 そして依頼掲示板の前に立つ。そこに張られている様々な依頼が書かれた羊皮紙を眺めた。

 

 C〜SSSまでのランクに分けられた依頼は、上に行くほど報酬も名誉も大きくなる。

 その中で、まず目に入ったのは討伐や護衛等の上級冒険者に向けられた依頼。比較的収入が良いが、その分リスクや求められる能力のハードルも高い。

 これらの依頼は、リセルも扱えない今のノアにとって選択肢には入らない。

 

 ゆえにノアの視線は自然と、Cランクの簡単な依頼が書かれた羊皮紙に集まる。


「えっと……『荷物運び』筋力冒険者ランク鉄級アイアン以上を示すテスト有り……駄目だな。今の俺に鉄級アイアンのパワーなんてない」

「じゃあ、この『薬草採取』は? 銅級ブロンズでも可って書いてあるよ」


 ラビエナが隣でひょいと別の羊皮紙を指差した。


銅級ブロンズか……やはり難しそうだな……」

「え? どうして?」

「ここにある依頼は全てギルドに登録された者に向けたものだ。俺は既に死んだ身、きっとギルドの登録からは既に外れている」

「じゃあもう一回登録しなおせば……それじゃ騒ぎになるか」

「それもそうだが、ギルドに登録するには実技試験を受けなければならない」

「実技試験? どんなことをするの?」

「簡単な試験だが、内容は都度変わる。俺が受けた時は3時間以内にスケルトン10体の討伐だった……普通ならわけないが、今の俺が受けても死ぬか、運良く生き残っても、絶対に弾かれる」

「じゃ、じゃあギルドに登録されてなくても大丈夫な依頼とか無いの?」

「ある時はあるが、今は見当たらないな……」

 

 ノアは掲示板を眺めながら小さく吐き捨てた。


「そもそも未登録者を雇う依頼なんて滅多に出ない。ギルドが仲介しなければ、依頼主からすれば誰が来るか分からないからな。盗賊まがいが潜り込んで、荷物を持ち逃げすることもある」

「なるほど……防犯の意味でも、登録者しか選ばれないんだね」

「そういうことだ。依頼主も信用を買ってるんだ。だから未登録可なんて紙は、裏があると思って間違いない」


 会話はそこで途切れ、ギルド内の喧噪が二人を包み込む。

 笑い声、酒瓶のぶつかる音、賭け事の罵声、そのどれもがノアたちには遠い世界の出来事のようだった。


「……帰ろう」


 小さく呟いたノアが依頼掲示板に背を向け、ギルドを後にした。

 こうしてまた、何も得られぬまま一日が終わる。

 胸に沈むのは、焦燥でも怒りでもなく、ただ静かな落胆だった。

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