第二話
七階のワンフロアがダンジョン関連の売り場だった。ダンジョンはあらゆる分野で第一の産業で、七階は賑わいを見せていた。理由は人工知能の飛躍により、職にあふれた人々がダンジョンに集まったからだと言われている。
藤堂は周囲を見渡し、賑わいを呆然と眺めた。後ろを振り向くと、紅谷が財布の中を覗いていた。
「けっこう買うのですか?」
藤堂が尋ねると、紅谷は財布を仕舞い、歩きだした。スキルショップという看板のある売り場にやってくると、紅谷は口を開いたのだ。
「十万円のするスキルオーブを一つ買うと、一人一つの特典が付いてくる。今日がその日なんだ」
「特典って何ですか?」
「レアリティの高いスキルオーブの抽選券らしいんだが、藤堂さん、もし私が十万円のスキルオーブを譲ると言ったら、抽選券を譲ってくれないか」
「スキルオーブ一つくれるのですか?」
藤堂は運が良いと思った。紅谷から十万円も奢ってもらえるわけだ。どうせ抽選券は外れるだろうし、藤堂は承諾することにした。
「藤堂さんがよければ」
「自分は構いませんが」
紅谷から十万円を譲り受け、店員からスキルオーブを購入した。その際に抽選券を一つ手渡されたのだ。紙切れ一枚だが、もし当たれば何百万円という価値のあるスキルオーブを手に入れられる。スキルオーブを使うと、一から十段階のスキルを手に入れられるのだが、藤堂は十のスキルを一つだけ保有していた。十が一番希少価値が高く、一が低くなる。レアリティの高いスキルオーブは十が当たりやすいため高値で取引されているのだ。
藤堂は抽選券を紅谷に渡した。スキルオーブの箱を開けると、丸い水晶玉を手にした。頭の中に問いかけられた。
「スキルオーブを使うか?」
藤堂は使う意思を示した。藤堂は早速スキルオーブを使用したが、手に入れたスキルは既に手に入れていたものだった。
「紅谷さん、また回復向上でした」
紅谷は黙っていて何も言わなかった。スマートフォンを見つめているだけだ。
「どうかしたのですか?」
「いや、抽選に当選したみたいなんだ」
「マジですか」
藤堂は驚いた。まさか自分が譲った抽選券ではないだろうかと思ったが、相手が紅谷なので、悔しいという気持ちは湧いてこなかった。奢ってもらわなければ手に入ることはなかったのだから。
「藤堂さん、悪いけど私はスキルオーブを貰いに行ってくるよ」
紅谷はスタスタとエレベーターに向かった。藤堂は彼の背中を見つめていた。藤堂が手に入れたスキル、回復向上は、回復魔法の上昇率が上がるというもの。しかしながら藤堂は回復向上を既に持っている。藤堂は元々運がある人間ではなかった。変なところに運を使い、肝心なところでは運が働かない。藤堂が手に入れた「素振り」というスキルは、レアリティこそ最高の十だった。しかしながら、藤堂は魔法系を極めようと思っていたため、剣関係のスキルに興味がなかったのだ。
藤堂は財布の中身を覗いた。一万円が入っているが、これではダンジョン用品は買えやしない。ダンジョンの武器屋に寄ってみると、窓ガラス越しに浮かび上がっている映像を眺めた。映像には、モデルの人物が持っている剣や杖などが映っていた。映像の下に値段と商品名が書かれている。目にとまったのは魔法剣という武器だった。値段は二十万円。藤堂が一番欲しいと思っている武器だ。もちろん、藤堂に買えるわけはなく、藤堂は店を後にした。帰りの電車の中で、スマートフォンをいじっていると、紅谷からメールが届いていた。
「実は藤堂さんからもらった抽選券が当たったんだ。これは嬉しい半分、申し訳ない気持ちもある。だから今度謝礼を追加させてくれないかい?」
藤堂はメールを返した。
「何か良いスキルを手に入れたのですか?」
メールはすぐに返ってきたのだ。
「たぶん、このスキルがあれば階層を二段階上げられるだろう」
藤堂は思い切ってメールを入れてみた。
「よければ魔法剣を譲ってもらえませんか」
「魔法剣でよければ、全然かまわないよ。むしろもっと上げてもいいくらいだ」
藤堂は遠慮し、魔法剣を後日譲り受けることになった。