1.8闇の座標、追跡開始
桃太郎2025 -Re:Start-
第一話:目覚めのきびだんご
第8章:闇の座標、追跡開始
夕方。校舎の裏手、使われていない旧倉庫。
そこにモモとサルサはいた。サルサのノート端末には、拡張された電波スキャンのインターフェースが広がっている。
「昨日の夕方、ケンのスマホが校内で最後に接続されたのはここ。ログが切れてるの、変だと思わない?」
「盗聴防止領域か?」
「たぶん、ジャミングかノイズで故意に遮断されてる。普通の生徒じゃ無理……かも」
モモは少し考えてから、イヤホンに問いかけた。
「キビ。これって、鬼……つまりオニコードの仕業か?」
「はい。一部のオニコードは、通信妨害やログ遮断機能を持っています。人間の検知網から逃れるための適応と考えられます」
モモは小さくうなずいた。
キビが続ける。
「その付近、先ほどオニコード“YAMI-03”に類似する反応を検出しました。形態は未解析です」
「……YAMI-03? あの、屋上で出たやつの……続き?」
「はい。“YAMI”系列は自己複製と学習によって変異を繰り返しています。屋上の個体は“YAMI-02”でした。今回の反応は、それより新しい可能性があります」
「じゃあ……これも“鬼”なのか?」
「分類上、同一系列のオニコードです。“視覚回避型”と推定されます」
その瞬間、校舎の向こうで「キャー!」という叫び声が響いた。
モモとサルサは顔を見合わせる。
「行くぞ!」
二人は同時に駆け出した。
非常階段を上がり、音のした方向――図書室の前の廊下に差し掛かったとき。
見えた。
黒いノイズのような影が、天井を這うように漂っている。生徒たちは気づかない。まるで“そこにない”かのように歩き去っていく。
「キビ……あれも“鬼”でいいんだよな?」
「はい。“YAMI”系列に該当します。人間の視神経フィルタをすり抜ける視覚回避型です」
「……倒せるのか?」
「可能です。ピーチコードの初期出力で対応可能と判断します」
「わかった……じゃあ、ピーチコード、使えるか?」
「はい、条件は整っています。感情トリガー、リンク中――」
再び手の甲に、あの“光”が走った。
モモの気持ちは一つだけだった。
(ケンを、取り戻す)
「いくぞ……!」
その声に、サルサが頷いた。
「じゃああたしは――視覚システムにノイズぶち込んで、位置情報取る!」
役割は決まっていた。
新しい“桃太郎”と“猿”の物語が、静かに幕を開けていた。