1.7一歩、踏み出す者たち
桃太郎2025 -Re:Start-
第一話:目覚めのきびだんご
第7章:一歩、踏み出す者たち
翌朝、ケンは依然として登校してこなかった。
モモはスマホをいじるふりをしながら、教室の窓から空を見上げていた。
心ここにあらず。サルサの問いかけにも、上の空で返してしまう。
「なに? あたしの顔に何かついてる?」
「……いや、悪い」
「昨日からずっと変だよ、モモ」
サルサは小声で続ける。
「ケンのことでしょ?」
モモは答えなかった。
昼休み、人気のない中庭のベンチに腰を下ろした。
イヤホンを耳に差し込み、モモはそっと呼びかける。
「キビ。……あいつを助けたい」
「承知しました」
「でも、どうすればいい。あいつは納得してるって言ってたじゃねえか」
「はい。“鬼”に対してです。けれど、“あなた”に対しても、今なお心が反応しています。完全な同化には至っていません」
「……つまり?」
「感情のバランスが崩れている今なら、“もう一度迷わせる”ことが可能です」
「迷わせる、か」
そのとき、ベンチの後ろに人影が現れた。
「……モモってさ」
モモがぎょっとして振り返ると、サルサがいた。スマホを片手に、じっとモモを見ている。
「最近、独り言……多いよね。でもさ、ちゃんと“間”があるの。誰かの返事、待ってる感じ」
モモは黙って彼女を見つめた。
「電話……でもなさそう。声、出てないし。イヤホンは刺さってるけど、通話の動きじゃない。ねえ……AI?」
一瞬、心臓が止まったような感覚。
モモは観念したようにイヤホンを外し、ポケットからUSBを取り出した。
「……ああ。実は、AIと話してた」
「やっぱり」
サルサはふぅと小さく息をついて、ベンチに腰を下ろした。
「隠しごと、多すぎ。そろそろ話してもらってもいい?」
「……話す義理はねえけど、話さなきゃ誰も救えねぇ気がする」
そうしてモモは、USBとキビ、鬼のこと、ピーチコードのこと――
知ってる限りを、全部サルサに話した。
沈黙が落ちたあと、サルサは笑った。
「マジか……最高じゃん。
こっちも、いくつか解析済ませててさ。たぶん、あたしにも“できること”あると思う」
「お前……」
「うん。手伝わせて。放っておけるわけないでしょ、友達が困ってんのに」
そして、サルサは手を差し出した。
「“きびだんご”って、分け合うもんなんでしょ?」
モモはその手を、静かに握った。