1.4疑惑、潜る声
桃太郎2025 -Re:Start-
第一話:目覚めのきびだんご
第4章:疑惑、潜る声
職員室の空気は重かった。
対面に座る教員の一人が、モモに淡々と話しかけていた。
「……昨日の校内カメラに、君の姿が何度か映っていた。屋上に向かう際も、スマホを手にしていたね」
「それ、罪ですか?」
「いえ。ただ、同時刻に数名の生徒が、原因不明の集団行動を起こしている。校内調査のため、君にも協力してもらう」
形式的な質問がいくつか続いたあと、“今後は慎重に”という注意だけが言い渡され、
モモはようやく職員室を出された。
廊下を歩きながら、息を吐く。
「なんか、裁判されてたみたいだったな……」
教室に戻ると、周囲の視線が一瞬こちらを向いて、すぐに逸れた。
自分が“何かをした”と思われているのは、ひしひしと伝わってきた。
帰り道、キビがつぶやく。
「校内AI管理システムのログに、モモさんのアカウント名義で“生体指向型ログの異常波形”が記録されています。内部の誰かがアクセスを操作した可能性もあります」
「つまり、誰かが俺になりすまして、あの“タグ”をばら撒いたってことか」
「正確には、“あなたの存在そのもの”を媒体に、鬼が伝播したと考えられます」
モモは舌打ちした。
「感染って、そういう意味かよ……」
そのとき、すれ違った女生徒が、ぴたりと足を止めた。モモの顔を見て、首をかしげる。
「……モモくん?」
「え?」
「なんか……変な夢、見た気がする。昨日の夜、モモくんが出てきて、ずっとこっち見てた……みたいな……」
モモは一瞬、言葉に詰まった。
「……ごめん、それ、俺じゃないと思う」
女生徒は曖昧に笑い、「そっか」と言って立ち去った。
その背中を見送るモモの脳裏に、あの影の“気配”がまたちらついた。
「……俺、もう顔まで使われてんのか」
「“存在情報”にアクセスされている可能性があります。深層意識への影響も含め、感染のフェーズが進行していると考えられます」
その夜、モモは部屋の明かりをつけたまま、眠れずにいた。
USBは、机の上のペン立てに差し込んだまま、沈黙している。
ふと、スマホが小さく光った。画面には通知も何も表示されていない。
ただ、画面の奥で、うっすらと“桃色の波紋”が広がっているだけだった。