1.11再起動、桃太郎
桃太郎2025 -Re:Start-
第一話:目覚めのきびだんご
第11章:再起動、桃太郎
早朝の空は、不自然なほど澄み渡っていた。
昨夜の交差点の記憶は、誰の口にも上らなかった。
サルサ曰く、SNSのトレンドも妙に「消されて」いたという。
キビは静かに告げた。
「“YAMI-03-K”の消滅により、該当区域のオニコード感染は収束しました。
ただし、根本的な“鬼”の拡散構造は依然存在しています」
モモは無言で頷いた。
学校では、何事もなかったように授業が進んでいた。
ケンも、席にいた。表情は固かったが、確かにそこに“彼”がいた。
休み時間、モモはそっと近づいた。
「……よう」
ケンは返事をしなかった。けれど、机の上にそっと置かれた“桃のシール”が、すべてを物語っていた。
(それは、小さいころふざけて“きびだんご仲間”の証にしてた、桃型のシール。
ケンと俺だけの、秘密のサインだった)
――おかえり、ケン。
屋上。
風が吹いていた。
サルサがフェンス越しに街を眺めながらつぶやく。
「思ったより、世界って“薄い”ね。どこまでが現実で、どこまでが侵されてるのか、よくわかんない」
モモは少し笑って、ポケットからUSBを取り出した。
「でも、俺たちは“選んだ”だろ? この目で見て、耳で聞いて、拳で触って。
そんで、誰かの名前を呼ぶってことをさ」
サルサは頷いた。
「再起動したね、桃太郎」
USBのライトが、かすかに点滅した。
「まだ、戦いは終わってません」
キビの声が響く。
「でも、はじまったんだよ。
“桃太郎2025”、ここからが本番だ」
そして、彼らは前を向いた。
物語は今、再び――動き出す。