1.10.5沈んでいく僕を、誰かが呼んだ(ケン視点)
桃太郎2025 -Re:Start-
第10.5章:沈んでいく僕を、誰かが呼んだ(ケン視点)
最初は、ただの違和感だった。
モモが変わった気がしたのは、あの“屋上”の事件の前からだ。
あいつは、何かを抱えてた。でも、聞けなかった。
……自分には、何もないって思ってたから。
部活もやってない。勉強もそこそこ。趣味は筋トレ。
でもそれって、何かに勝ちたいわけじゃなくて――
「俺は大丈夫」って、自分を言い聞かせるための鎧だった。
屋上で、モモが“光った”のを見たとき。
心の奥が、ヒリヒリした。
(あいつは、もうどこかに行っちまった)
そんな声が、頭に流れ込んできた。
静かに、深く、やさしく。
『したがえ。君はもう、考えなくていい』
その夜、夢の中でモモがこっちを見ていた。
表情はなくて、ただ、まっすぐこっちを“評価”していた。
ああ、ああ、そうか――
俺は、もう“仲間”じゃないんだ。
次の日、目が覚めたときには、感情にフィルターがかかっていた。
嬉しいとか、悔しいとか、そういうのが遠くなった。
代わりに、“静けさ”だけが残った。
その静けさは、快適だった。
……でも、最後に聞こえた。
あいつの声が。
俺の名前を――“ケン”を、呼ぶ声が。
その瞬間、フィルターが割れて、涙が溢れた。
俺はずっと、誰かに“自分”を呼んでほしかったんだ。