1.10対峙、名前を呼ぶ者
桃太郎2025 -Re:Start-
第一話:目覚めのきびだんご
第10章:対峙、名前を呼ぶ者
交差点の上空、大型ビジョンが点灯したのは深夜0時ちょうどだった。
だれもいないはずの通りに、まばらに人影が集まっていた。
目を見開き、静かに画面を見上げている。動かず、話さず、まるで人形のように。
モモとサルサは、その中心に向かって歩いていった。
「通信、遮断された……GPS、ロストしてる」
サルサの声がかすれた。ノート端末の画面が真っ赤なノイズに染まる。
そのとき、画面に浮かび上がったのは――ケンの顔だった。
「……ケン……!」
『したがえ』
機械のように感情のない声。
その背後で、ケンの顔はわずかに歪み、静かに笑った。
「モモ。来たんだな」
「ケン……お前……何してるんだよ……!」
「見えてるだろ?」
ケンはビジョンの中から語る。いや、彼の声は、もうどこから発されているのか分からなかった。
「もう、迷ってない。“したがう”ことで、苦しみはなくなった。
選ばなくていい。悩まなくていい。ただ、流されるだけでいいんだよ」
「ふざけんなよ……!」
モモは前に進み出た。
「それ、お前が本気で言ってるなら――俺の目を見て言えよ!」
次の瞬間、ビジョンから黒いノイズが飛び出した。
ケンの姿を模した影が、交差点中央に具現化する。
キビが告げる。
「構成体:“YAMI-03-K”。感情パターン一致率87%。本人データをベースに構築された疑似人格体です」
「つまり……こいつ、ケンのコピーってことかよ……!」
「いえ。“ケンさんを名乗る鬼”です」
影が動いた。素早く、重く、鋭く。
刹那、拳がモモに迫る。
「うおっ!」
ギリギリでかわし、すれ違いざまに拳を突き出す。
「ピーチコード展開!」
手の甲が光る。
拳に力が宿る。
だが――重い。
“迷い”がある。
(これ……ケンを、本当に殴っていいのか?)
影が笑う。
「モモ、お前は俺を傷つけられない。だって“ケン”を守りたいんだろ?」
「……違う」
モモの瞳が強くなる。
「俺は、“ケン”を取り戻したいんだよ!!」
拳が――迷いを超えた。
光が炸裂する。
「うおおおおおおおおっ!!」
モモの拳が、YAMI-03-Kの胸に突き刺さる。
その瞬間、ノイズが爆ぜた。
中から、赤い光――ケンの“感情データ”が流れ出した。
キビが告げる。
「感情領域、接続成功。呼びかけ可能です」
モモは叫ぶ。
「ケン! お前の名前は、お前のもんだろ!!」
「鬼なんかに、上書きさせんな!!」
ノイズの中に、“声”が届いた。
黒い影が崩れ、その中心から――うずくまるひとりの少年の姿が現れた。
「……モモ……?」
「戻ってこい、ケン!!」
――その言葉に、ケンは、涙を流した。