1.9決戦の前夜
桃太郎2025 -Re:Start-
第一話:目覚めのきびだんご
第9章:決戦の前夜
その夜。街は妙に静かだった。
校舎での異変は「機器トラブル」として処理され、生徒たちは何事もなかったかのように下校していった。
――あの悲鳴を除いて。
「結局、あの“キャー!”って声、廊下の非常灯の下だったね」
サルサが言った。ノート端末を操作しながら、悔しそうに舌打ちする。
「防犯カメラ、映像ごと上書きされてた。人の姿だけ、ノイズに差し替えられてる。あれ、YAMI-03の仕業でほぼ確定だよ」
「……誰かが危なかったのに、何も残ってない」
モモは拳を握った。
「俺たちは“見えてた”けど、他の人たちは……。何があっても、気づかないままなんだよな」
サルサは静かに頷いた。
「でも、あたしたちは知ってる。だから止める。でしょ?」
モモは答えず、空を見上げた。
「……ケンがその中にいるなら、俺が、止める」
「止めるって、どうやって? 力で?」
モモは首を横に振った。
「話す。ぶん殴った後にでも、ちゃんと話す。ケンには、まだ“声”が届く気がするんだ」
サルサは小さく笑った。
「今度は私も一緒に行くからね。全部あんた一人で背負うの、ムリだしダサいし」
「……わかった。頼りにしてる、サルサ」
「よろしい」
そのとき、イヤホン越しにキビが告げた。
「“YAMI-03”、本日深夜に再活性の兆候あり。目標地点、交差点上空ビジョン端末に集中しています」
「上空ビジョン……あの広告塔か!」
「はい。音声認識経由で“集団暗示誘導”を開始する前兆と推測されます」
「つまり、街全体が“鬼”の囁きを聞かされるってことかよ……!」
サルサが立ち上がった。
「じゃあ、今夜が本番だね」
モモは手のひらを見つめる。もう、あの光は“他人事”じゃない。
ケンを――自分を取り戻すための、戦いだった。
「行こう、サルサ」
「了解。桃太郎さん」
二人の影が、公園の外灯に照らされて、夜の闇に溶けていった。