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女神業のサービス品質低下

部屋に閉じこもり数年、疑問に思う事がある。

それは「ニートが異世界いったところでなにができるのか」というものだ。

チートだなんだとハードウェアのスペックを盛り込んだところで肝心のソフトウェア、つまり精神性が必ず足を引っ張るのではないかと。つまり自分のような人間が異世界送りにされた日にはロクなことにはならないであろうと。


「初めまして。そしてさようなら、あなたにはこの宇宙と異なる世界へ転生してもらいます」

「え、いやだけd」


その答え合わせを、自らの手でする日が来ることになろうとは。



***



死んだときの記憶はない。学校にも行かず毎日のように部屋でネットサーフィンとゲームに明け暮れていた俺が死ぬ可能性・・・

数年更新の無かった推し作品が投稿されて心不全にでもなったのだろう。面倒なのでそれ以外の思考を打ち切り目の前の現実に焦点を当てた。


一面に広がるクソ緑である。正確には大草原の真っただ中である。辟易して過去へと思いをはせるのも無理はない。


ナイトシュバルト・ホームボディ。12歳。それがこの世界での俺、らしい。

他人事なのには理由がある。俺もたった今知ったからだ。


女神と思しき不審な女に雑な一言を掛けられ、気が付いたらこの草原に横たわる黒髪赤目の少年になっていた。赤ん坊からのスタートでもなく、元居た世界から体だけ転移するわけでもない。


ただ少年の体と名前だけ渡されて草原に放置である。

如何なる術理で俺の意識だけをこの体に収めたのか、理解不能の極致に至ったせいか日本にいた記憶の方が偽物だった気さえしてくる。


異世界転生に必要な神とか上位存在との会話、そこで得られるチートスキルやこの世界の現状説明、それら一切を省いた弾丸転生に俺は転生におけるサービスの質の低さを体をぐっと伸ばしながら嘆いた。


「ふぁああっ・・・」


涙がこぼれるのも仕方のないことであった。

人手不足が嘆かれる現代日本から俺という若者を引き抜いておきながらこの所業である。

天気は晴れ、そよ風がいい感じに吹いて髪を逆巻くように撫でていく。怒髪天を衝くとはこのことであろう。俺は転生という自分を襲った理不尽に憤慨しゴロンと草原に寝転がった。サーっと揺れる草木がざわめいている。




本音を言えばこの第二の人生を早々にあきらめている。




あれだけ恵まれた現代日本社会にすら適応できなかった自分がモンスターがうごめく(と思われる)ファンタジー世界に何のサポートもなく放り込まれてやっていけると本気で思っているのだろうか?


そもそもロクデナシニートを転生させるよりバリバリにキャリアのビジネスマンやクラスの中心人物となっていてかつ勇敢な少年の方が勝ちの目があるというものである。


異世界転生が流行って久しい。


そのような有望な人材はとっくに異世界に送られて日本に残っておらず、余り物の俺で妥協された可能性が高い。誰があまりものだよ。寝返りを打つ。


あるいは俺という人間が面白おかしく破滅するまでのショーにされている可能性の方が高そうだ。悪徳貴族の裏賭博的な。様々な可能性が泡沫のように浮かんでは消えていく。長年一人でいた弊害だろうか、脳内トークはいつだってフルスロットルである。


現実から目を背けるのはわりかし得意だ。俺は思考を放棄しついでに意識も手放した。



***



なんか肌寒くなったなと目を覚ました時、俺は如何にも悪魔然とした黒い怪獣どもに取り囲まれていることに気が付いた。時刻は夕方だろうか、橙色の空を背にたたずむ怪獣どもはさながら影法師である。


夜まで待ったら消えてくれないかな・・・


しかし雰囲気からして人間を供物に宴会(サバト)を催すタイプであることは疑いようもない。

しかもこちとら戦闘力のなさそうな12歳のこども。草原で爆睡をかます哀れな子羊に悪魔たちは舌なめずりでもしている事だろう。真っ黒で見えないが。


ゲームならば勝って当然のチュートリアル戦だが俺にとってはただのリアル(ファイト)なので特に助けとかなく死ぬんだろうなという悲しき答えだけが目の前に横たわっている。

死んでもいいとは思っていたが無駄に苦しみたいわけではない。


「い、いたくしないでね?」


遺言のチョイスを後悔する間もなく悪魔どものかぎづめが眼前へと迫る。

楽に死ねるように首を差し出す。南無~。




***




日が沈んでいる。夜の帳が下りた草原に立っていたのは――俺一人だった。







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