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愛車と共に異世界で  作者: 猫柳渚
第二章:巡礼、というなの異世界観光
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山中キャンプ

 街を出発して3時間。これだけの時間をかけてようやく山の中腹辺りだった。


 山道は整備されてはいるものの、道幅は狭くてギリギリ車同士がすれ違えないくらい。

 ガードレールなんて物があるはずもなく、真横は急斜面になっていてちょっとでも運転を誤れば転がり落ちるのは確定だ。


 日本にいた時も、ナビで高速道路を使わない設定にしていると、よく今の状況に似たような酷道を通らされることはあるけど……流石にここまで命の危険を感じる場面はめったにない。


 前から馬車とか来たらどうするんだろう。戦々恐々としながらゆっくりと山道を進んで行き、夕方間近になってやっと山頂へと到達した。


 そこで初めて視界が開ける。

 背後には平原が延々と広がっていて、もう見事なまでに緑色だった。果てしない、という言葉がここまで似合う景色は日本じゃ簡単には拝めないだろう。


 麓のウェルガムの街並みも一望できる。あれだけ巨大だと思っていた防壁もここから見ればミニチュアだ。

 そして前方には雄大な山々が連なっていた。今からこの山々を越えていくとなると、車でも厳しいんじゃないかと思う。

 眼下には大きな湖があって、横断するように立派な石の橋が対岸までかかっていた。


 当たり前だけど、平原とは景色も環境もガラリと変わっていて、私たちのいる位置がちょうど平原と山脈との境界線なんだと実感させられる。


「この先に野営地がありますので、今日はそこで休息を取りましょう。もうひと踏ん張り、頑張ってください」


 リンドが振り返って私に言った。気遣ってくれて悪いんだけど、私はほとんど疲れてないんだよね。細い道で精神はかなり削れたけど。

 ただ、あと数時間で日が暮れる。真っ暗の中、ガードレールも街灯もない山道を進むのは危険極まりない。ここは大人しく「はーい」と答えておいた。


 頂上を通過し、そこからしばらく進むと拓けた場所に出た。木々が取り払われ、平たく整地されたそこは私がよく行くキャンプ場と似ている。

 どうやら今夜はここで寝泊まりするようで、騎士たちは馬車から野営道具を降ろし始めていた。

 私も車を停めて、ひとまず彼らの様子を観察することにした。テントを張るにしても適当な場所に設置するわけにはいかないだろうし。


 降車し、ボーっと野営の準備をするのを眺めていた私の元へ、リンドが近づいて来た。


「ルルーベルさんは目を覚ましましたか?」

「いえ、ぜんぜん」


 車に乗った途端に眠ったルルーベルはあれから一度も起きていない。


「そうですか。出来れば結界を張ってもらいたかったんですが、仕方ないですね。魔物除けを炊きつつ、見張りで対処しましょうか」

「あの、ルルーベルくんは大丈夫なんでしょうか。まるで死んだみたいに寝続けてますけど」

「心配ですが、司教によれば巡礼が終わったら3日は起きないらしいので、これが普通なんでしょう。寝顔も安らかですし、ゆっくりと寝かせておいてあげましょう」


 3日も飲まず食わずで大丈夫なのかな。と思ったけどトビーも空気中の魔子を食べて生きてるらしいし、こっちの世界の人は多少の飢餓は耐えられるのかもしれない。

 亜人種ならなおさら丈夫なのかも。


 心配していても仕方ないし、ちょうどボーっと見てるだけの状態に罪悪感が湧いて来たところだったから野営の準備を手伝おう。

 リンドに何か出来ることがないか聞いてみれば、火起こしと料理の準備をしてくれと頼まれた。

 それなら私にもできるので、さっそく近場で燃えそうな枝や葉っぱをかき集めて馬車から降ろしてあった薪を地面に積む。

 そしてチャッカマンを取り出し、私は火を起こした。軽く息を吹きかけながら小さな火種が大きくなっていくのを確認して、次に水の入った鍋を三脚に吊す。


 旅の中でメインになる献立はスープだ。とは言っても野菜と干し肉や狩った動物の肉を入れるだけ。

 塩も貴重だからちょっとしか使えないし、ほとんど素材の味だけの質素な物だ。

 いくらなんでも味気がなさすぎるので、車の中を漁ってみれば──ありました、お味噌様。

 タッパーに詰めて持って来てあるから結構な量はあるけど、補充ができないから慎重に使わないといけない。

 

 ……見つけたのはいいけど、ここで使っちゃっていいんだろうか?


 今回、みそ汁にしようと思ったら7人分必要なので薄味でもそれなりの消費を強いられる。

 それが毎日となると、あっという間に無くなってしまう。一度使ったら今後も使わないといけなくなるだろうし、やっぱり入れないでおこうかな。


 野菜を向いている間、ずっと入れるべきか、入れないべきか迷いに迷って、めちゃくちゃケチって入れることにした。

 軽く味見してみたら、なんとなく味噌の味がする、くらいだけど野菜と燻製肉の出汁だけよりは絶対にマシだ。


 極薄の味噌汁が出来る頃には日が暮れていて、辺りはすっかり暗くなっていた。


 満点の星空が眼下の湖面に反射して、まるで宇宙空間にいるような、不思議な感覚になる。

 そんな幻想的な風景に浸りつつ、木製のお椀によそって、固いパンと一緒に騎士たちへ渡しに行く。


 すでにテントの設営などは済んでいるようで、リンドと他2人は今後の話し合い。他2人は見張りに備えて仮眠をとっていた。

 食事を渡すと騎士たちは私にお礼を言って受け取っていく。リンドが私へ話しかけて来た。


「食事の用意を全て任せてすまない。それと、ヤカタさんのテントは設置しなくてもよかったのか?」

「はい、自分のがあるんで。私はテントの設営をするのでお先に召し上がっていてください」

「では、お言葉に甘えて。何か問題があったらいつでも声をかけてくれ」


 そう言ってリンドたちは食事を始めた。それを横目に私は自分のテントを建てる。

 ルルーベルはまだ起きてこないので、今日は私がテントで寝ることになる。流石に疲れ果てて寝てる子をわざわざテントに移動するほど、私も落ちぶれてない。

 それにワンタッチなので設置はそこまで手間でもないし、暗闇でも慣れていれば問題はない。


 設営をリンドたちに任せてもよかったけど、安物だから結構簡単に壊れちゃんだよね。

 特にペグとか。女の私でも力加減を間違えたら曲がってしまうくらい貧弱だ。あんなマッチョに打ち付けられたら絶対、耐えられない。


「へぇ、これも異世界の代物なんですか?」


 ふと気づけばリンドが立っていた。私が異世界人だということは、流石にユーハット司教から聞いているんだろう。


「そうです」と私が肯定すれば物珍しそうにテントを眺め回す。


「あの乗り物といい、本当に便利な物がおおいんですね。それにこのスープも。何か入れましたよね」

「あ、はい。お味噌を少し……口に合わなかったですか?」

「いえ、いつもより美味くてびっくりしたんですよ。旅で使える調味料なんて塩くらいしかないので、味気なくて。こういうのはとてもありがたいです」


 誉められて嬉しい反面、味噌をケチったことにちょっと罪悪感。明日はもう少し使う量を増やしておこう。

 それからテントの設置を終えた私はリンドや騎士たちと軽く談笑しながら食事を摂り、結局起きる様子のないルルーベルの分のスープも飲んで、各々テントで就寝した。

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