とある聖堂でのやりとり
真っ白な大理石で形成された部屋の中、ユーハット司教との通信を終えたマーレイは一つ、息を吐く。
「本当によろしかったのですか? あのような得体の知れぬ者に巡礼の同行を任せてしまっても」
マーレイの後ろで先ほどのやり取りを見ていた藍色の髪の青年――フレイン・ウィングス枢機卿が問いかける。
いつもの冷静沈着な表情の中にはほんのりと不安が滲んでいた。
異世界から来たと主張する女性。マーレイからしても荒唐無稽なことを言っているように思えるが、魔術陣を映していた不思議な板やルルーベルを乗せた乗り物は間違いなくマーレイたちの住む世界には存在しない物だ。
何より亜人種であるルルーベルへの接し方は、とても演技とは思えなかった。
「心配しなくても大丈夫よ。彼女――ヤカタ・ユニについてはルルーベルを通して観ていたから。それにあの子も懐いているようだし」
「ルルーベル、ですか。何かの魔術で細工されている可能性は?」
「人の心身をどうにかできるような魔術を行使されたら気が付くわよ。もし気づかれないほど高度な精神制御魔術を扱えるとしたら、それこそアーフィンのような大魔術師くらいでしょうね」
「……封印が緩んでいるのと、今回の魔法教団への敵対組織が繋がっている可能性があるのでは? それならヤカタという女性の危険性も上がります」
「あなたの懸念はもっともね。ユーハットも同じことを言っていたもの。だけど彼女は我々の敵ではないと思うのよね」
「根拠は?」
「もっと調べて確信を得てから話すわ。ともかく今は、私を信用してもらえないかしら」
「……了解しました」
「ありがとう。調べ終わったらちゃんと知らせるから。ディオナにも、ね。それより、各所で発生している強力な魔物についての調査の方はどうなっているかしら」
「こちらは確実に封印が緩んでいる影響を受けていると思われます。残念ながら、悪い予想が的中した形です。早急に対処が必要かと」
「封印弱化の原因は?」
「申し訳ありませんが、そちらについてはまだ……」
「そう、ならあなたはディオナと魔物の対処をしながら封印弱化の原因調査を続行してちょうだい」
「了解しました」
一礼してウィングスはマーレイの前から姿を消す。
1人になった部屋の中で、マーレイは通信用魔術陣を見つめながら思案に戻る。
もし、ヤカタ・ユニが異世界からやって来た存在であるならば、アーフィンの物語に登場する異世界人と何か関係があるかもしれない。
代々、教皇にのみ伝えられている話がある。
『異世界から人が訪れるとき、災いの前兆と心得よ』と。
封印の緩みと異世界人――果たしてこれに因果関係があるのか。
関係があるとして、どちらが起因となっているのか。調べる必要がある。
「杞憂で済めばいいのだけれど」
呟きながらマーレイは胸の内が騒ぐのを感じずにはいられなかった。




