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すでに力尽きていた膳心はともかく、脳脳を死なせたのは自分だ。
そんな気持ちに取り憑かれ、途方もない悔しさと悲しさ、やるせなさに襲われていた煌汰だが、そんな気持ちも長くは続かなかった。
否、続けられなかった。
なぜなら、すぐに新たなゾンビの群れが襲いかかってきたからだ。
煌汰たちが入ってきた所とは逆方向の入り口から、わらわらと侵入してきた。
「ちょっ…感傷に浸る時間もくれないの!?」
文句を垂れながらも、キャルシィは群れの中に突っ込む。
そして3体をまとめて切り倒し、真ん中の個体の後ろにいたものの頭をかち割り、高々とジャンプする。
そこにメグがマグナムを撃ち、娘が滑空している間に5体を仕留める。
残る1体は、着地と同時にキャルシィが斧で真っ二つに切り裂いた。
これでいいかと思いきや、煌汰の背後から1体が近づいてきていた。
素早く振りむき、両手にナイフを持って首を切り裂く。
「はあ…ほんと、一瞬も油断ならないわ」
「そもそも、なんでこの島にはこんなにゾンビがいるんだろう」
「さあね。てか、そんなの気にしたら負けなんじゃない?
これは、あくまでも『リアル・ゾンビゲーム』なんだし」
そんな会話をしていると、微かなうめき声が聞こえた。
「…?」
声の方を向くと、脳脳が起き上がってくるところだった。
メグが銃を向けたが、引き金を引いても弾は放たれない。
「っ!最悪!」
リロードをしようにも、あいにく持ち合わせの弾がない。
母の様子から事情を察したキャルシィは、勇敢にも斧一本で立ち向かった。
「よせ!危ない!」
煌汰の言葉通り、脳脳は素早く弓を取り、キャルシィに向けて放った。
彼女は斧でそれを弾くと、そのまま肉薄して斜めに切り払った。
しかし、脳脳が倒れる様子はない。
キャルシィは忘れていたが、このゲームでは、ゾンビ化した参加者は10秒間だけ無敵になる。
それを後ろの母から聞き、思い出した。
「そうだった…!」
キャルシィは顔を掴まれ、膝蹴りを食らった。
そのまま殴り飛ばされそうになったが、間一髪で脳脳の腹を切りつけ、突き放した。
ちょうど無敵時間が終わり、攻撃が通るようになったのだ。
距離が空くと、脳脳は再び弓に矢をつがえる。
さらに、それと同じタイミングで、横で倒れていた膳心も起き上がってきた。
(まずい…!)
煌汰は駆け出し、矢を避けるのに集中して背後ががら空きになっている所を狙う膳心とキャルシィの間に飛び込んだ。
そして、ギリギリで間に合った。
「…!!」
ナイフを2本交差させ、どうにか槍を防ぐ。
しかし、少しずつ押される。
キャルシィもまた、弓を捨てて格闘で向かってくる脳脳に苦戦していた。
唯一狙われていないメグは、弾切れのために何もできない。
万事休すか…と思われた、その時。
全部で3発の銃声が響いた。
それと共に、親子は崩れるように倒れた。
「…?」
煌汰は振り向き、そこにいた3人の人間と、その中央で拳銃を構える男の姿を捉えた。
この男が、2人をやってくれたのだ。
「…間に合ったぜ」
男の両隣には、若い女が立っていた。
それもまた、たいそうきれいで可愛らしい顔をしている。
煌汰は、またしても心臓がバクバクと音を立てるのを感じた。
「それじゃ、これ」
メグは、メレーヌから弾50発が入った弾薬ケースを受け取った。
「ありがとう。こんなに入ってるの、あったのね」
「たまたま見つけてね。でも、肝心の銃が見つからなかった。あとで銃を見つけたら、使えるかなと思って取っておいたんだけど…正解だったみたい」
「正解じゃないわ。大正解よ」
煌汰たちは、互いに自分の名を教えあった。
それで煌汰は知った…金髪に金色の瞳を持つのがメレーヌ、紫の瞳で長身な美女が、ラヴィナだと。
また、彼女たちの出身国も聞いた。
(ノルウェーとオーストリアか…やっぱり欧米の人はきれいだなあ)
煌汰はメグたちも十分美人だが、メレーヌとラヴィナも負けず劣らずきれいだと思った。
「女に目をくらますなよ、日本人」
3人の中の唯一の男、ローレアに肩を掴まれた。
彼が、さっき脳脳たちを撃ち殺し、煌汰たちを救った男だ。
「べ、別にそんなことないよ。確かに彼女たちはきれいだけど、僕は…」
どうにかごまかそうとする煌汰を、ローレアは鼻で笑った。
「隠す必要なんざない。けどな、忘れんなよ?俺たちの目的は、あくまでも生き残ることだ。女遊びしてる余裕なんざ、ないんだぜ」
「わかってるよ。それに僕は、そんなつもりはない。生き残るのが最優先なことぐらい、言われるまでもなく心得てるさ」
その後、屋内を見て回っていた一行は、偶然にもまだ開けられていない箱を発見した。
中には、70発の弾丸と共に狙撃銃が入っていた。
これは、ラヴィナが持った。
教会を出ると、煌汰は時計を見た。
「もうすぐ4時か…あと3時間だな」
「3時間ねえ…寝てろって言われるぶんには、楽勝すぎる時間だけど」
キャルシィは、あくびをした。
「ここで寝たら、次に目覚めるときはあの世よ。生きた人間でありたいなら、ほっぺたをつねってでも起きてないとね」
ラヴィナが、肩に狙撃銃を担いで言った。
「眠いのを押し切って起きてるには、それ相応のイベント…眠くならない、いい感じの刺激のあるイベントがなきゃだけど…あっ!」
銃を構えて覗き込み、ラヴィナは引き金を引いた。
「朗報ね。最高に刺激があるイベントが、出てきた!」
その言葉を聞いて、みなは武器を構える。
彼女の言葉通り、前方からゾンビの群れが近づいていた。
まだ距離があるので、ラヴィナが1体ずつ狙撃で倒していく。
それは必ずしも一度に1体とは限らず、弾が貫通して後ろにいるものの頭も吹っ飛ばすこともあった。
やがて群れが近づくと、ラヴィナは銃を降ろして剣を抜いた。
「こっからは、みんなでやろっか。…あんた達、準備はいい?」
無論、よくないと言う者などいなかった。
「…もちろんだ」
「オッケー。それじゃ、行くよ!」
ゾンビ達と同時に、彼らは走り出した。
時刻は、午前4時。
ゲーム終了まで、あと3時間。
ここまで44人が生存、56人が脱落した。
2時間の間に、実に40人が命を落とした。
だが、まだゲームは後半戦に入ったばかり。
ここから何人が倒れ、何人が最後まで生き残るのだろうか。




