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しばらく登ってきたが、ここまで3人の他に人の気配はない。
そしてあの後、道中にまったく死体がなかった。
「なんか、死体がないと気味悪いな…」
「普通は逆なんだけどな。まったく、恐ろしいゲームだぜ」
やがて、外に出られるであろう扉が見えてきた。
階段を駆け上がり、3人は扉をくぐった。
その向こうには、ヘリポート。
そして…
「…あっ!」
意識を失う前まで煌汰と共におり、かつてと同じ武器を手にしてはいるが、変わり果てた「彼女たち」の姿があった。
時刻は、6時15分。
ゲーム終了時刻の7時まで、あと45分を切った。
いよいよラストスパートだが、現時点で生き残っている者は、ごくわずかに過ぎない。
参加者たちの疲労と消耗は、もはや限界に来ている。
そして、出現するゾンビはこれ以上ないほどに増えている。
片や、幾分前に唯一の相方に倒れられ、孤軍奮闘を続けてきたが、ゾンビの群れを前にして銃弾が切れた青年。
片や、弓を片手に舞っていたが、背後を預けていた仲間に先立たれ、それに気づかぬまま背後から食らいつかれた女。
2人きりで奮闘し、ここまで生き抜いてきたシルトとレンも、無惨な最後を遂げた。
シルトは上のダクトから落ちてきたゾンビの攻撃を受けて胸を食いちぎられ、追い詰められたレンは近くに落ちていた銃で自害した。
あちこちで参加者たちの断末魔と悲鳴が響きわたり、鮮血が朝方の空を染めた。
気づけば、生存している参加者はわずか3人。
そう、ここにいる彼らの他は、みんな全滅していたのであった。
メグたちは、規律の取れた集団のように一定の感覚を開けて立っていた。
100はいるであろうゾンビの大群は、待っていたとばかりに煌汰たちをまっすぐ見てきた。
「…」
煌汰は思うところがあったが、それを殺してナイフを構えた。
「あれ?あの人って…」
アレイもまた、彼女らの姿に懐かしさを覚えたようだ。
「懐かしい顔かもしれんが、こうなっちゃ仕方ねえ。余計なことは考えず、やるぞ」
龍神は刀を構えた。
「それなら…!」
弓を引き、アレイは一発の矢を放った。
それは、集団の先頭にいたゾンビ1体の頭を撃ち抜き、卒倒させた。
それを合図としたように、残るゾンビたちも向かってきた。
余裕があるかのように、走らずゆっくりと向かってくる。
アレイが再び弓を引く。
すると、メグがマグナムを撃ち、それを落とさせた。
「あっ…!」
アレイは焦ったが、すぐに剣を抜き出した。
再びマグナムを撃ってきたが、彼女は素早くしゃがんでそれを回避した。
「しっかり武器を使ってくるのか…面倒だな」
龍神は言いながら、近づいてきたゾンビを斬りつけ、刺し貫いた。
2人の後ろにいた煌汰は、手が出せずにいた。
リーチの長い武器や遠距離武器を持っておらず、かといって武器を投げるわけにもいかない彼は、何もできずにいたのだ。
「…」
考えた挙げ句、煌汰はその場で手を交差させて目を閉じた。
その耳には、2人の味方の戦う音、そして、ゾンビたちの唸りと足音だけが届く。
…そして。
「今だ!」
煌汰はパチっと目を開き、前方のゾンビを薙ぎ払いつつ、後ろから来ていたものを斬り裂く。
さらに、前方から向かってきたキャルシィの斧を受け止め、腹を蹴って突き放す。
水平に投げられた斧をバク宙で躱すと、横からメレーヌが斬りかかってきた。
足を払ってこれを転ばせ、首を掻き切った。
突っ込んできたローレアは、近くにいたゾンビを放り投げてぶつけ、下まで突き落とした。
ここで向かってきたキャルシィは、ギリギリまで引きつけて額を刺し貫き、そのまま振り回して投げ飛ばした。
「すごい…!」
「おっ、なんだ?覚醒したってか?」
同じように猛攻を受け止めつつ、龍神とアレイは煌汰の豹変っぷりに驚いた。
「やるじゃんか…俺たちも負けてらんねえ!」
龍神は、距離を取ってマグナムを放ってくるメグの銃弾を全て刀で捌き、近づく。
そして、その体を斜めに振り上げるようにして斬り裂く。
さらに、左右から来ていたゾンビは頭を地面につけ、ヘッドスピンのような動きで回転しつつ蹴り飛ばし、立ち上がったところにきたゾンビは口を突き刺し、後頭部を貫通させた。
アレイも、最初は距離があるゾンビの頭を的確に撃ち抜いていたが、やがて弓を納めて剣を抜いた。
彼女は、向かってくるゾンビの腕に捕まりそうになったところで剣を振り上げ、その胸から顔にかけてを斬り裂く。
さらに片足を軸に回転斬りを繰り出し、高々とジャンプする。
そして空中で弓を抜き、ラヴィナと他のゾンビたちを狙撃するように撃ち抜いた。
着地の際は、下にいたゾンビを矢で撃ち抜いてから、足を下にして錐揉み回転しながら降りた。
2人に負けず劣らず、三面六臂の活躍をした煌汰だが、止まることはない。
次はアレイの横、龍神の真後ろにいたゾンビに向かって2本の短剣を投げ、壁に釘付けにした。
と、そこで背後から足音がした。
ここで煌汰は隠し玉、カランビットを取り出し、腕を突き出しつつ右足を軸にして回転、奇襲してきたゾンビを斬り倒した。
さらに、ふと視界の隅の高台から飛び降りてきたゾンビも、あえて動かずに引きつけてから斬り倒した。
その上で、龍神たちと背中を合わせ、囲むようにしてきたゾンビをまとめて引きつけ、斬り裂いた。
「はあ…はあ…」
アレイは元より、2人も息を切らしていた。
「終わった…のか…?」
辺りを見回してみたが、もうゾンビはいない。
少なくとも、このヘリポートには。
「大丈夫そうだ…ああ…」
龍神は、刀を地面に刺して膝をついた。
その刀身は、彼の体ともども真っ赤に染まっている。
「…」
煌汰は、その場にへたり込んだ。
ここにきて、急激に疲労が襲ってきた。
「なんだ…疲れたのか?」
「うん…それに、眠い…」
「もう少しだ。今、6時45分。あと15分だ、あと15分で…」
そこで、龍神は倒れた。
アレイと煌汰もまた、重い瞼を閉じて地に伏した。
時計が7時を指しても、時計台の時報は鳴らない。
そんなものは、とうの昔に壊れている。
日もすっかり昇り、明るくなった空。
その中を、黒いプロペラを持ったものが飛ぶ。
それはヘリポートまでまっすぐ飛んできて、地上を照らした。
その光に照らされ、生存者…
煌汰、龍神、アレイは、目を覚ました。
「 ゲーム終了。
生存確認者、煌汰。撃破数342。
龍神、撃破数358。
アレイ、撃破数320。
以上、3名。
ゲームクリア。 賞金100億円授与の上、解放。
君たちは最後まで生き残った、おめでとう」
「…」
生存者3人の報せを見届け、彼は画面を閉じた。
「生存者は3人か。意外に多かったな…この者たち、よく生き残ったものだ。
だが、こんなにいては面白くない。もっと難易度の高い、生き残りを絞り込めるゲームにしたいものだ」
今回のゲームの主催者、『マスター』。
彼は、ここまでのゲームの様子を全て見ていた。
「生き残りし者たちよ、今回は君らの勝ちだ。だが、次はどうなるかな…?」
道化師のような仮面を被り、彼はうっすらと笑った。




