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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
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絡み合ういと

「では直志殿、ごきげんよう」


 そう言って清蓮は歩き出す。

 直志は慌てて呼び止めた。


「待て清蓮。俺はまだ、お前の居場所を聞いてないぞ」


 清蓮は振り返り、立ち止まった。眉間が寄っている。


「まさか・・・本当に、次回から付いて回る気じゃ―」

「無論だ」


 清蓮の顔がさらにしかまる。


「御冗談を。私が勤む陰陽堂おんみょうどうは、そのような気まぐれで出入りできるような場所では、決して御座いません」


「そんな事は分かっている。どのような勤めも、茶化していいものではないさ」


「では・・・何故そのような御戯おたわむれを?」

「言わなかったか?見聞けんぶんを広めたいと」


「それならば、京に来るだけでも充分広がるでしょうに」


 直志は切実にかぶりを振った。


「俺もそう思ってはいたが実際は違った。貴族の生活は確かに豊かで雅やかではあるが、その分、退屈たいくつ狭苦せまくるしい。その身分故、できん事も多い・・・しかしその身分だからこそ、できることもある」


「それが・・・私に付いて歩くことだと?」


「俺は街中で職を探す事はできんが、街中にいる誰ぞに職を与える事はできる。それと同じように、お前の勤めに付く事で、利益をもたらしてやることもできるんだ」


 清蓮の眉がひくりと上がった。


「つまり・・・助手をするのに金を払うと?」


「まぁ。そんな所だ。それならばお前に迷惑はかからんだろう?義塾学校の、野外授業料だと思ってくれれば―」


「ふん」と清蓮は鼻で笑い、「あほらし」と呟いた。


 直志は驚いて言葉を飲み、暫く呆けていた。

 清蓮は勤用の、飛び切りの笑顔を直志に向ける。


「今回はもう勤めは終わりましたから、彼方とは勤め上、縁がなくなったと言っていい。ですのでこの堅苦しくて仕方ない、無駄丁寧むだていねいな喋りを解きますが―宜しいでしょうか?」 


「は・・・?」


 途端に清蓮の笑顔が消え、侮蔑ぶべつが現われた。


「ここで私が、目玉が飛び出るような値段を吹っ掛ければ、お前は疑いもせず払うのだろうな?民が汗水して一年で稼ぐ金を、三日三晩で喰い散らかして、平然と窮屈だ退屈だ、と言っている苦労知らずの貴族様風情が、勤めがうんぬんと軽々しくぬかすな」 


 直志は目を見開いた。 


「お前は貿易商の跡取りなのだろう?ならば義塾で、『陰陽師は文明開化に邪魔なもの』だと教わらなかったのか?」


「お、教わった・・・」


「陰陽堂と貿易商が、対極に位置する存在だということは?」

「教わったさ・・・」


「古の都が滅んだのは、文明を極めたせいだという事は?」

「それも、知っている―」


「ならば、何故私なんだっ」 

「お前だからだっっ」


 清蓮よりも大きな声で、直志は叫んだ。 


「俺は義塾でも優秀だったんだっ。今お前が言った事など、五つの時には理解していた。だから俺はお前に付いて、世の中を見てみたいんだっ」


 清蓮は眉を吊り上げた。  


「俺は義塾で、栄華を極めた平成が滅んだのは、第一次文明開化のせいではなく、陰陽師や霊媒師や祈祷師が、勤めを怠り結界を緩めたからだと教わったっ。そして陰陽堂がなくとも、文明が発達さえすれば、何れは鬼を消し去る程の武器が作れるのだと―陰陽師は自らの護身の為、人々から文明と知識を奪い、無知にしているのだと教わったんだっ」


 清蓮は暫く呆気にとられ、長い沈黙の後、呟いた。


「なんだ、それは・・・」

「俺も、そう思った・・・」


 清蓮はいぶかしそうに眉間を寄せた。


「俺は義塾に入ってから―、いや。入る前から、日向家の長男として、貿易仲買商の教育をさせられてきた。十三で完全寮生の義塾学校に入ったし、誰もがそれを当然だと思っていた・・・俺自身も、そうだった・・・だか寮生活が経つにつれ、誰にも相談できない疑問が俺を苦しめた・・・」


 直志は言いしぶり、溜息を吐いた。

 清蓮は沈黙に耐えかね、「なんだ。早く言え」と急かす。


「本当に、教師が言っている事は真実なのか・・・本当に、かつての都が滅んだのは陰陽師らの仕業なのだろうか。陰陽師らが勤めを怠ったから平成は滅び、魑魅魍魎が再び噴出すことになったのだろうか・・・本当に、それだけだろうか―、と」


「それは・・・違う」


 直志は重々しく頷いた。


「それでは、文明開化の方に非は無かったのだろうか・・・陰陽師らが勤めを怠ったのは文明に溺れたからではなかったのだろうか。文明に頼った者達に、陰陽師らが淘汰とうたされたからではないのだろうか。それによって陰陽師の数が減り、もしくは陰陽師らの質が下がり―結界や封印は破られたのではないのか・・・」



 平安時代、陰陽師が鬼を地中に封じたという伝説がある。

 玄武げんぶ青龍せいりゅう朱雀すざく白虎びゃっこという式神しきがみで、地にふたをしたのだ。

 結界封印―それが行われたのが、京都。

 つまり結界の上に都があり、都自体が結界の蓋なのだ。

 都だけではなく、地方各地にそのような結界は存在していた。

 それは幾世代にも渡り、上張うわばりされてきた―筈だった。



「極まった文明は、魑魅魍魎に影響を与えないのだろうか。本当に文明で、鬼を退治できるのだろうか―、このまま本格的に第三次文明開化が来た時、日本はどうなる?瞬く間に異国に影響され、目覚しい発展を遂げるのだろうか・・・かつての明治や、平成のように―?しかしその先は?文明を極めた日本はどうなる?嘗ての平成のように豊かになった日本。その、先は―?更なる文化は、開花しているのだろうか・・・?」


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