美々な朝
清蓮は碧の顔を覗きこみ、その手が小太刀をしかと抱いてるのを見つける。その小太刀を指で弾いて、指の腹で撫でた。
「全く―これでは報酬に見合わんな・・・」
しかしそう言う顔は、どこか憂鬱とは裏腹だった。
「あ、そうだ。清蓮、碧さんの様子はどうだ?」
「ええ。もう大丈夫です。じきに目を御覚ましになるでしょう」
「そうか・・・」
直志は安堵して笑んだ。
「清蓮殿、何とお礼を言ったらよいか・・・」
秀晴が感謝に握手を求めると、清蓮は碧から向き直り、それを受けた。
清蓮はにこりと、勤使用で笑う。
「いいえ。此方は契約分と、直志殿の上増し分を頂ければ何も問題はありません」
「では、上増し分は如何ほどに・・・」
清蓮は笑顔のまま、視線を落とした。そこから直志に視線を寄越し、不審な思いで首を傾げる直志を無視して、再び秀晴へと戻した。
その時にはもう、勤務用の笑顔はない。
「いえ。いりません」
「えっ?いや、しかし―」
「いいえ。今回は契約分だけ。上増し料はいりません」
直志も秀晴も、目を丸くした。
「し、しかし、清蓮殿。それでは此方の気が―」
「私はそれだけで充分ですから」
清蓮はそう言って、もう一度作り笑いをしてみせた。
暫しの「しかし」「いえ」の討論の末、清蓮は洋寝台の柱に付けた護符を剥がしながらいささか不機嫌に言った。
「いいえ。兎に角、いりません」
「しかし―」
秀晴は、渋く困惑した顔で清蓮を見た。
「清蓮殿・・・あなたは何て強情な方なんだ」
「あなたこそ。見た目に違って、中々の強情でいらっしゃる。私が何もいらぬと言っておるのですから、彼方は結果、得をするのですよ?」
「損得ではありませんっ。妹を助けられた礼がしたいのですっ」
清蓮は億劫そうに溜息を吐いた。
「それならば、料金の話は後日に致しませんか・・・また明日にでも、お伺いいたします故―」
「そうかっ。それでしたら、その折に貰っていただけますね?」
清蓮は呆れた口調で言った。
「それは―、その時になってみねば、分かりません・・・」
直志は扉を開けようとし、そこに何かがつっかえている事に気がついた。
何度やっても、ごつごつという音が邪魔をする。
不審に思った直志が扉の隙間から外を覗くと、そこには折り重なって倒れている、守衛の姿があった。一番上の守衛の頭が、すぐそこにある。音の正体は、それだった。
「あっ。ああっ。すまんっ」
秀晴は清蓮の方から、直志の方へ振り向いた。
「どうしたんだ?直志」
清蓮もそちらに視線をやると、直志が困り顔で扉を指差した。
「扉に、守勢が―・・・」
「ああ・・・それでしたら、私にお任せ下さい」
清蓮は扉に近づき、直志にそこを退くように手で示す。
直志は何かの術を使うのだと思って、数歩さがる。
途端に、ばん、と威勢のいい音がした。
清蓮は隙間の開いている方の扉を、勢いよく蹴ったのだ。
その振動で一番上の男が落ちて、人山が崩れる音がした。
直志と秀晴は唖然として、声も出せずに突っ立っている。
清蓮は更に力ずくで扉を押し―扉の反対側で、何かが引き摺られる音がしている―半分程まで扉を開けた。
まるで何もなかったように、片手で廊下を示した。
「さぁ、どうぞ?」
「あ、ああ・・・どうも・・・」
(京に長く住むと、ああなるのだろうか・・・)
そうであるなら早めに帰ろうか、と思う直志だった。




