条件
「俺は小野家の者ではないぞ」
《我は、小野家の家臣ではない。我は、我の仕えたいもの一代に仕える》
「俺は死ぬ時に、お前を連れて行く気はしないと思うぞ」
《人とは、気が変わりやすい生き物だと、我は知っている》
「俺は、貿易商の跡取りだぞ?」
《それが我に、関係ある、のか?》
直志は言葉に詰まった。
直志がその理由で駄目なら、この西洋館は何なのだ、という事になる。どうやら異文化というものは、必ずしも妖や付喪神といった『人ならざるもの』に、悪影響を与えるものでもないらしかった。
直志は溜息を吐いた。
直志が幾ら思案しても、それは何らかの―清蓮の?―導きで、己はそれを選ぶしか無いような気がした。
清蓮を睨み見る。
「お前では駄目なのか」
「私は、剣術ができないのです。今後したいとも思いませぬし」
何だか腹立たしい。
「別にこいつがやらなくとも、お前はその妖を退治できるんだろう?」
「もちろん―しかし、いささか疲れてきました。早うそこの妖を御斬り下さいませ」
こいつから先に斬りたいと、直志は産まれて初めて思った。
「簡単に言うが、俺とこいつの一生がかかってるんだぞっ?俺が契約すれば、こいつは俺に一生仕えなければならなくなる。俺はそんな責任の重い事、したくはないっ」
清蓮は、龍牙丸を見た。直志に視線を戻す。
「ならば―今回に限り、という事ではいかがでしょうか」
「何?」
「一生とは言わずとも、期限をつけて契約なさればどうです?」
「そんな事が―できるのか?」
《できん事も、無い》
直志は清蓮を再び見た。
「お前は、俺が斬らん限り―退治はせんつもりなのか」
「そういう事です」
直志は憤慨しそうになったが、それを押さえ込んだ。
何もかもを飲み込んで、毒気を吐き出すように溜息を吐いた。
「分かった・・・ならば一日だけ、契約しよう・・・」
《我と、契約を結ぶのか?》
「ああ。一日だけぞ・・・それと―一つ条件がある」
《何だ》
「お前にではなく、清蓮にだ」
清蓮は、意外そうに片眉を上げた。
直志は清蓮を睨みながら言う。
「次回から、俺がお前の勤めに付いて行く事を約束しろ」




