守護者
《しかし―契約は果たされず、我は、未だ生きている・・・》
「何故・・・?」
《皆死に、我を砕かなんだ・・・我を裏切り、後世を頼むと言い張りて、言って聞かぬ者ばかり・・・我は、悩み悩み、時の末裔に希望を託し、仕えた・・・しかし皆、裏切る》
「それは―」
また、胸が痛んだ。
《神さえも、そうであった・・・》
「それは・・・確かにお前からすれば、『裏切り』であったかもしれんが、悪意あっての事では・・・いや。むしろ、お前を信頼し慕っていたからこそ、先代達はそう願ったんじゃないのか?お前に生きていて欲しいとっ。信頼できる者に我が子を託したいと・・・お前が死を望むくらい、先代達は皆、お前の生を願っていたんじゃないのかっ?」
秀晴は眉間を寄せた。
清蓮はそれを見て、何事かを唱える。
すると秀晴の耳にも、龍牙丸の声が耳に届いた。
《分かっていた・・・》
直志の左目から、再び滴が落ちた。
《それ故、辛いのだ―皆、我より先に逝く事を知りながら、それでも我は、神の子孫に惹かれ行くのを、止められは、しない―》
今度は右目から、ぽとりと滴が落ちて床で砕けた。
《皆我を頼り、我に心開き、我より先に朽ち―果てる・・・》
いたたまれぬ思いが、込上げてきた。
「それでも契約をし続けたのは、お前の意思なのだろう?」
《今や、分からぬ・・・》
「お前は秀晴兄さんと、契約を交わした・・・ならばお前は、その契約を守るべきだ」
龍牙丸は、言葉に詰まったように沈黙し、そして言った。
《我、は―契約しておらぬ・・・》
直志は訝しそうに顔を顰めた。
「・・・何?」
《契約したは、我が半身・・・我の、もう一つの体・・・》
直志も秀晴も、咄嗟に顔を見合わせ、そして碧の抱きしめている龍牙丸を見た。
「お前とそちらの―お前?は、別の意思を持っているのか?」
《我らは一つ。しかし、体は二つ―奴は護りを司り、我は攻めを司る・・・我は今だ、真の主人を持たぬ・・・》
「じゃあ・・・じゃあ、今すぐに契約をっ」
《誰と―だ?》
「決まっているだろう。小野家当主である、秀晴兄さんとだっ」
「しかし、秀晴殿は剣術はおできに?」
清蓮が聞くと、秀晴は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「私は男事が、昔から苦手だったんだ・・・」
秀晴は剣術、弓道、乗馬などが大の苦手で、義塾学校でも最後尾の一位二位を争っていた。母方譲りの肺患いも少しある。
《我、を使用できうる者は、剣を習得した者、のみ・・・》
清蓮は頷いた。
「こういう付喪神を使役するには、並大抵の精神力では扱えません・・・下手をすれば、五体満足ではいられなくなる」
「そんな・・・」
直志は小難しい顔のまま、静止してしまった。
長い長い、沈黙だった。
直志は息を吐いて、己を落ち着けた。
「龍牙丸―やはりお前は、生きるべきだよ・・・」
《何故、そう思う?》
「お前はまだ、今生に望みを託す事ができる。それにお前は刀でありながら、人を殺めて何も思わぬ賊よりも、闇に魅入られ鬼と化す人間よりも―人間らしい奴だ・・・」
直志への胸の締め付けが、いっきに和らいだ。
《では・・・お前が我と―契約をするか?》




