運命の別れ道
「俺とこいつとの会話も、聞こえていたんだな?」
「ええ、まぁ―」
清蓮の声音には、罪悪の一欠けらも無かった。
「龍牙丸には、彼方のような純心な者が必要で、彼方は妖から身を守る為、破魔の力を持つ龍牙丸が必要だった―私は最善を行ったまで。彼方が先刻言ったように、これは何かの縁で、運命だったのです」
直志は憮然として言った。
「俺が龍牙丸と会ったのは、必然だったと?」
「まぁ。そういう事です・・・彼方は剣術に優れておられるのでしょう?でしたらそこにいる妖を、龍牙丸で御斬り下さい」
「何故?お前が退治すればいいじゃないかっ」
清蓮はかぶりを振った。
「このまま龍牙丸をほおっておけば、何れは鬼と化し、厄介事を起こすやも知れません。そうなる前に処分するか、再び鬼退治をするよう改心させるか―二つに一つしかありません・・・」
「処分―って・・・」
「意思があり、愛他を知る者を殺生し罪悪を感じぬ程―私も人でなしではありません」
直志は其れを見て、説得しろ、と言われた意に気がついた。
「龍牙丸は今ここで、選択せねばなりません」
直志は龍牙丸を見た。
「どうするんだ?」
龍牙丸は、沈黙のあと呟いた。
《分からぬ・・・》
「分からぬ、じゃないだろうっ。お前は今、生か死かの瀬戸際にいるんだぞっ?」
《どちらでも―よい・・・》
「いいわけあるかっ。お前が死んだら、小野家の災厄は誰が守るというんだ?」
《知らぬ・・・》
「知らぬ、じゃないっ。ちゃんと考えろっ。このままで本当にいいのか?なぁっ」
《我は―どうすればよい・・・》
「だから、それを考えろっ。お前は神の子孫を好いているのか、いないのかっ?」
龍牙丸は暫しの沈黙の間、過去を振り返った。先代の当主達と契約を交わした時の記憶が、瞬時に思い出される。
《可愛ゆいと、幾度思うたか・・・》
地の底から込上げてくるような、慈愛の声だった。
「じゃあ」
《しかし―幾度となく、裏切られた事か・・・》
「裏切る?先代達が?」
《皆約束を破り、我を置いて―逝く・・・》
「約束・・・?」
《我との、契約・・・家督を持つ者と交わす、密なる夢通い。我は家を守り、契約者を守る・・・》
直志は眉間を寄せた。
「血筋は?」
《我の守るは血筋ではなく、契約者と、その家一代のみ―》
直志は驚いて、瞳と口を開いた。
「では、今まで小野家に仕えていたのはっ」
《代々と、家督変わる時々に―我は契約を、した》
直志は、視線を秀晴に向けた。
「秀晴兄さん、兄さんは龍牙丸と契約を交わしたのかっ?」
秀晴は、困惑して眉間にしわを寄せた。
「契約?―何の事だ・・・?」
「龍牙丸、秀晴兄さんとの契約は果たされていないのか?」
《あの者との契約は、すでに、済んでいる・・・》
「済んでる?秀晴兄さん、やはり契約したんじゃないのか?」
「いいや・・・していないぞ?」
直志は訝しんで、龍牙丸へと視線を戻す。
《あの者が、忘れているだけのこと・・・我は、常人との会話ができぬ、故、夢で契約を交わす。あの者は、我が半身と、契約を結び、守りし者、と決まって、おる・・・》
(半身?碧さんが持っている方の事か?)
「秀晴兄さん、夢で龍牙丸と話をした?家督を継いだ日に―」
秀晴は首を捻り、「うー・・・ん?」と唸った。
《契約の、内容は、我が契約者の一生を、守りし代わり、その一生を終える時、我を砕き墓中に添える事、であった・・・》
直志は目を見開いた。
「やはりお前は、共に死にたかったのだなっ?」
《そうかも、しれぬ・・・》
直志はその一途さに、胸が痛んだ。




