恋
「お前は神を好いていたんだ・・・それは彼女が、創造主だったから?それとも―」
全てを言い切らずとも、龍牙丸は意を察したようだ。
彼の声は、困惑していた。
《分からぬ・・・》
絹の布やベルベットで首を絞められたら、同じような気分がするのかもしれないと、直志は思った。
「けれど人と付喪神では寿命が違う・・・己だけが生き残った事を・・・お前は後悔しているんじゃないのか?」
胸が苦しい。
「せめて、彼女の忘れ形見を守ろうと思った・・・そうじゃないのか?」
龍牙丸は、やはり答えない。
「だが、お前はその神が忘れられなかった。それに子孫の側にいれば、その面影や仕草に彼女を思い出し―そのせいで、いつまでも心は癒されない・・・しかし唯一の忘れ形見から離れる事もできず、何代もの子孫を、守るしかなかった・・・」
直志は理解した。
胸の痛みが―誰のものであるのかを。
「離れたいのに、離れられない・・・いっその事血筋が絶えてしまえばいいと思うのに、いざ子孫が危機にあえば、助けずにはいられなかった・・・」
直志は目を伏せ、暫し沈黙していた。
目を閉じて溜息を吐く。
焦げ茶色の睫が濡れ、軽く伏せた目尻から、涙が零れ落ちた。
「なおし―?」
秀晴が声をかけたが、直志には聞こえていないようだった。
「お前は―」
落ち着いたような、苦しみを抑えているような声だった。
「お前は本当に、それでいいのか・・・?」
直志の声は涙色に震えていた。
「このまま小野家の末裔が死に、血が絶える事―それがお前の真の望みか?」
龍牙丸は答えない。
「それは違う。今末裔を見殺しにすれば、それこそお前は後悔する・・・お前が幾世にも渡り小野家を守護してきたのは、決して義務や契約だけに―縛られたものでは無かった筈だ・・・」
直志は泣いている。
否。
直志を通して、刀は泣いていた。
「彼女の子孫であるだけで、愛しかったのだろう―?」
直志の目から、大粒の涙が落ちた。
「その子孫が次第に年を重ね、己を残し死んでいく事が・・・この上なく寂しかった?」
体の痺れが、引いていく。
「だがお前は、それを認めたくなかった・・・だからそんな小難しい言葉を楯に、お前は己の心に蓋をしたんだ・・・」
直志は息苦しさのあまり、深く息を吐いた。
「お前は死にたかった・・・疲れたのは鬼退治にではなく、己の心を偽る事にだろう?だからお前は自害しようとし、秀晴兄さんのお爺様が亡くなった日―それを実行した」
まるで現実のように、その時の情景が脳裏に浮かぶ。鋭利に輝く体が、真中から二つに割れる感覚さえ、直志には己事に感じられた。
「しかしお前は長年蓄えてきた力のせいで、完全に死ぬ事ができなかった・・・」
直志の硬直していた体から、力が抜けた。
「お前は後悔している。彼女が死んだ時に、共に消えてしまえばよかったと・・・そしてこうも思っている。彼女の忘れ形見を守りたいのに、今やこんな体になってしまったのだ―と・・・だからお前は刀に戻る事を拒んだが、小太刀にはなったんだ・・・」
直志は涙で赤らんだ目で、清蓮を軽く睨んだ。
「その通り・・・今彼方が感じた通り、龍牙丸は相対する思いに揺れ、己を見失っていたんです」
「お前・・・はじめに龍牙丸に触れた時には、全て見通していたな?知っていて―俺に握らせたんだろうっ?」
清蓮は平然と言う。
「それが必要だったのです」




