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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
28/39


「お前は神を好いていたんだ・・・それは彼女が、創造主だったから?それとも―」


 全てを言い切らずとも、龍牙丸は意を察したようだ。

 彼の声は、困惑していた。


《分からぬ・・・》 


 きぬの布やベルベットで首を絞められたら、同じような気分がするのかもしれないと、直志は思った。


「けれど人と付喪神では寿命が違う・・・己だけが生き残った事を・・・お前は後悔しているんじゃないのか?」


 胸が苦しい。


「せめて、彼女の忘れ形見を守ろうと思った・・・そうじゃないのか?」


 龍牙丸は、やはり答えない。  


「だが、お前はその神が忘れられなかった。それに子孫の側にいれば、その面影や仕草に彼女を思い出し―そのせいで、いつまでも心は癒されない・・・しかし唯一の忘れ形見から離れる事もできず、何代もの子孫を、守るしかなかった・・・」


 直志は理解した。

 胸の痛みが―誰のものであるのかを。


「離れたいのに、離れられない・・・いっその事血筋が絶えてしまえばいいと思うのに、いざ子孫が危機にあえば、助けずにはいられなかった・・・」


 直志は目を伏せ、暫し沈黙していた。

 目を閉じて溜息を吐く。

 焦げ茶色のまつげが濡れ、軽く伏せた目尻から、涙が零れ落ちた。


「なおし―?」


 秀晴が声をかけたが、直志には聞こえていないようだった。


「お前は―」

 落ち着いたような、苦しみを抑えているような声だった。

「お前は本当に、それでいいのか・・・?」


 直志の声は涙色に震えていた。


「このまま小野家の末裔が死に、血が絶える事―それがお前の真の望みか?」


 龍牙丸は答えない。


「それは違う。今末裔を見殺しにすれば、それこそお前は後悔する・・・お前が幾世にも渡り小野家を守護してきたのは、決して義務や契約だけに―縛られたものでは無かった筈だ・・・」


 直志は泣いている。

 否。

 直志を通して、刀は泣いていた。


「彼女の子孫であるだけで、愛しかったのだろう―?」


 直志の目から、大粒の涙が落ちた。


「その子孫が次第に年を重ね、己を残し死んでいく事が・・・この上なく寂しかった?」


 体の痺れが、引いていく。


「だがお前は、それを認めたくなかった・・・だからそんな小難しい言葉をたてに、お前は己の心に蓋をしたんだ・・・」


 直志は息苦しさのあまり、深く息を吐いた。 


「お前は死にたかった・・・疲れたのは鬼退治にではなく、己の心をいつわる事にだろう?だからお前は自害しようとし、秀晴兄さんのお爺様が亡くなった日―それを実行した」


 まるで現実のように、その時の情景が脳裏に浮かぶ。鋭利に輝く体が、真中から二つに割れる感覚さえ、直志には己事に感じられた。


「しかしお前は長年蓄えてきた力のせいで、完全に死ぬ事ができなかった・・・」


 直志の硬直していた体から、力が抜けた。


「お前は後悔している。彼女が死んだ時に、共に消えてしまえばよかったと・・・そしてこうも思っている。彼女の忘れ形見を守りたいのに、今やこんな体になってしまったのだ―と・・・だからお前は刀に戻る事を拒んだが、小太刀にはなったんだ・・・」


 直志は涙で赤らんだ目で、清蓮を軽く睨んだ。

 

「その通り・・・今彼方が感じた通り、龍牙丸は相対する思いに揺れ、己を見失っていたんです」

「お前・・・はじめに龍牙丸に触れた時には、全て見通していたな?知っていて―俺に握らせたんだろうっ?」


 清蓮は平然と言う。


「それが必要だったのです」


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