子孫
直志は、己の頭が吹き飛ぶのではないかと思った。今や混乱と腹立たしさで、泣いてしまいそうだ。
(おい、龍牙丸っ)
《何用、だ》
(お前、体が半分になった事を、後悔しているのか?)
《それは、我が望み、我が、実行した事、也》
(じゃあ、ある日突然折れたのは、お前の仕業なんだな?)
《いかにも》
(それはお前が、死にたかったから?)
《いかにも》
(死にたいのは、疲れたから?)
《いかにも》
(ある日突然、死にたくなった?)
少し間が空く。
《それ、は、違う》
(ずっと、死にたかったのか?)
《ずっと、とは、いつからの事、を、さす?》
(産まれた時から?)
《否・・・無垢であった頃、は、考え、も、せなんだ・・・》
(じゃあ疲れたのには、何か理由があるのか?)
《分から、ぬ・・・ただ、疑問、が湧いた》
(それは、どんな?)
《我は、我であって、いい、のか・・・我はこのまま、我、でいるべき、なのか・・・》
(それは、このまま鬼退治を続けるか否か、という事か?)
《それ、に、あたい、する》
(お前は、続けたくないのか?だから疲れたのか?)
《それ、は、鬼退治、を、する事に、疲れた、と聞いて、いる、のか?》
(ああ。そういう事ではないのか?)
《我は、分からぬ・・・我は、鬼退治、を、続けたい、のか?》
(俺に聞くなよ・・・)
《我は、鬼退治、を、使命とす、者・・・我は、鬼退治をする者に、仕えた者・・・》
直志は少し驚いた。
(小野家は、そういう家系だったのか?)
《六代前、の当主、は、我、の創造者で、ある》
(そのひとが、鬼退治を?)
《いかにも・・・その御方は、我の、神で、ある》
直志の脳裏に、見たこともない女の姿が映った。
赤みをおびた、黒髪の長身女。
その女が此方に笑いかけてくる様を、鮮明に思い出した。
(その神と呼ぶ者の末裔を・・・守ろうとは思わぬのか?)
《神は消滅、し、我は残された・・・我は、神の末裔を守護し、共に生きた―否。神の子孫は、神、ではなく、子孫に過ぎない》
また間をおかず、龍牙丸は言う。
《否、子孫を否定する事、は、神を否定する事・・・》
直志は何かに気掛かったが、それが何なのか分からなかった。
(それは、神の子孫を守りたいという事か?)
《分、からぬ・・・》
(それを否定すれば、神を否定する事になってしまうから?)
《分か、らぬ・・・》
(否定する事を恐れているから?それは、神を恐れているからなのか?)
龍牙丸の意思―意表をつかれた気分が、流れてくる。
《そうかも、しれぬ・・・》
己の発した言葉に、己が意表をつかれるとは奇妙な気分だろうな、と直志は思った。
(神と言っても、先代は人間なのだろう?お前をどうこうできる力など、持ってはいないんじゃないか?そもそも亡くなって何十年・・・いや、百年以上はたっている筈だ)
突然心臓が、締め付けられたように苦しくなった。
息ができなくなる程の―いや。いっその事、息をするのを放棄したくなるような切ない痛みが、直志を包み込んだ。
《そうだ。神は死んだ・・・神の居ぬこの世に、我は存在、するべき、なのか・・・否、か・・・》
闇の中、沈殿した泥の底から、何かをすくう感覚だった。
意識を奥へ奥へと集中し、龍牙丸の心理を、直志はすくった。
赤黒髪、白い肌、緋なる唇―
(ああ、あの女だ・・・)
日本人のわりに高い鼻、薄茶色の瞳
(混血、なのだろうか―?)
何と美しい女か、と思い、その途端、直志は目を見開いた。
驚愕のあまり口が開き、その姿のまま硬直した。
突然答えに行き当たったり、直志の胸は、酷く痛んだ。
直志は静かに言った。
「お前―神と共に死にたかったんだな・・・?」
龍牙丸は答えなかった。
しかし、龍牙丸が驚愕しているのが分かった。




