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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
27/39

子孫


 直志は、己の頭が吹き飛ぶのではないかと思った。今や混乱と腹立たしさで、泣いてしまいそうだ。


(おい、龍牙丸っ)

《何用、だ》


(お前、体が半分になった事を、後悔しているのか?)

《それは、我が望み、我が、実行した事、也》


(じゃあ、ある日突然折れたのは、お前の仕業なんだな?)

《いかにも》


(それはお前が、死にたかったから?)

《いかにも》


(死にたいのは、疲れたから?)

《いかにも》


(ある日突然、死にたくなった?)


 少し間が空く。


《それ、は、違う》


(ずっと、死にたかったのか?)

《ずっと、とは、いつからの事、を、さす?》


(産まれた時から?)

《否・・・無垢であった頃、は、考え、も、せなんだ・・・》


(じゃあ疲れたのには、何か理由があるのか?)

《分から、ぬ・・・ただ、疑問、が湧いた》


(それは、どんな?)

《我は、我であって、いい、のか・・・我はこのまま、我、でいるべき、なのか・・・》


(それは、このまま鬼退治を続けるか否か、という事か?)

《それ、に、あたい、する》


(お前は、続けたくないのか?だから疲れたのか?)

《それ、は、鬼退治、を、する事に、疲れた、と聞いて、いる、のか?》


(ああ。そういう事ではないのか?)

《我は、分からぬ・・・我は、鬼退治、を、続けたい、のか?》


(俺に聞くなよ・・・)


《我は、鬼退治、を、使命とす、者・・・我は、鬼退治をする者に、仕えた者・・・》


 直志は少し驚いた。


(小野家は、そういう家系だったのか?)


《六代前、の当主、は、我、の創造者で、ある》 

(そのひとが、鬼退治を?)


《いかにも・・・その御方は、我の、神で、ある》


 直志の脳裏に、見たこともない女の姿が映った。

 赤みをおびた、黒髪の長身女。

 その女が此方に笑いかけてくる様を、鮮明に思い出した。


(その神と呼ぶ者の末裔を・・・守ろうとは思わぬのか?)


《神は消滅、し、我は残された・・・我は、神の末裔を守護し、共に生きた―否。神の子孫は、神、ではなく、子孫に過ぎない》


 また間をおかず、龍牙丸は言う。


《否、子孫を否定する事、は、神を否定する事・・・》


 直志は何かに気掛かったが、それが何なのか分からなかった。


(それは、神の子孫を守りたいという事か?)

《分、からぬ・・・》


(それを否定すれば、神を否定する事になってしまうから?)

《分か、らぬ・・・》


(否定する事を恐れているから?それは、神を恐れているからなのか?)


 龍牙丸の意思―意表をつかれた気分が、流れてくる。


《そうかも、しれぬ・・・》


 己の発した言葉に、己が意表をつかれるとは奇妙な気分だろうな、と直志は思った。


(神と言っても、先代は人間なのだろう?お前をどうこうできる力など、持ってはいないんじゃないか?そもそも亡くなって何十年・・・いや、百年以上はたっている筈だ)


 突然心臓が、締め付けられたように苦しくなった。

 息ができなくなる程の―いや。いっその事、息をするのを放棄したくなるような切ない痛みが、直志を包み込んだ。


《そうだ。神は死んだ・・・神の居ぬこの世に、我は存在、するべき、なのか・・・否、か・・・》


 闇の中、沈殿した泥の底から、何かをすくう感覚だった。

 意識を奥へ奥へと集中し、龍牙丸の心理を、直志はすくった。

 赤黒髪、白い肌、緋なる唇―

(ああ、あの女だ・・・)

 日本人のわりに高い鼻、薄茶色の瞳

(混血、なのだろうか―?)

 何と美しい女か、と思い、その途端、直志は目を見開いた。

 驚愕のあまり口が開き、その姿のまま硬直した。

 突然答えに行き当たったり、直志の胸は、酷く痛んだ。 

 直志は静かに言った。


「お前―神と共に死にたかったんだな・・・?」


 龍牙丸は答えなかった。

 しかし、龍牙丸が驚愕しているのが分かった。


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