声
直志の頭の中で、青年の声がした。
《我、を、呼ぶな・・・》
(え?)
《何故、我、を呼ぶ・・・》
(力を貸して欲しいんだ)
掠れた声が、無機質に応える。
《力、を求むる事は、破壊を求む事、と、同等の意、か?》
(違う。俺はただ、守りたいだけだ。あの二人と、俺の命を)
《守る―守る?小野家の、末裔、を?》
(そうだ。力を貸してくれ)
《我、は、守りたくない》
(お前は小野家の守護神じゃないのか?)
《我は、小野家の守護神、也・・・否、もはや守護神ではない》
―どういう意味だ?
(お前が、付喪神でなくなった事を言っているのか?)
《我は、契約、により、縛られし者、也―》
(それは・・・付喪だった事と関係がない、って事か?)
龍牙丸は、それには答えず、続けた。
《小野家、の末裔、は、力を求む、の、か》
力とは破壊を求む事だと、直志は思っていなかった。
(違う。助かりたいだけ、生きたいだけだ)
《生、きる・・・生を、求むる事、即ち、他者を、虐げる事》
(違うっ。誰かを虐げたいわけじゃない)
しかし、結局はそうかもしれない・・・霞だけを食し、生きているわけではない。
龍牙丸はまた直志の答えを無視し、囁くように殺気を出す。
《お前、は、何奴、だ・・・》
(日向直志、小野家の末裔の友人だ)
《お前、は、我を、如何、いたす、気、だ》
(だから、力を貸して欲しいんだと言っているだろうっ)
《何故、末裔を、助けたい》
(生かしたいからだっ)
《何故、生かしたい》
(何故?そんな事知るかっ、生かしたいから、生かしたい。それだけだっ)
龍牙丸は暫し沈黙する。
《我、を使用する事、即ち、我と、契約を結ぶ事、也・・・我、と契約を結ぶ者、即ち、我の、主人と成りうる者、に、限る》
(今の状況が分かっていないのか?見ろ、目の前に何がいると思ってる?お前の敵、小野家の末裔を殺そうとする、お前の敵だっ。そんな屁理屈言っている場合かっ?)
《我の―敵・・・》
(そうだっ、ひとときでいい。力を貸してくれっ。秀晴兄さんは剣術ができないし、碧さんはか弱き娘っ。この場でお前を活かせるのは、俺だけだっ・・・頼む。今だけでいい)
龍牙丸は、直志の目を通して、棘鎌を持った女を見た。
《おに・・・》
(そうだ、鬼だ。お前は昔、鬼退治をしていたんだろう?ならば力を貸し、小野家を守ってくれよっ)
《鬼・・・》
沈黙がある。
《お前、は、鬼を退治する事、を、望む、か》
(ああ。望むっ)
《我、を使用し、鬼を退治する事を、望む、のか》
(ああ。そうだっ)
《我と、契約、を望む、のか》
直志は少し考える。
(契約すれば、俺はお前の主人になるのだろう?)
《そう、だ》
直志はやはり少し考えた。
(それは望まない。俺は今、助かりたいだけだ)
《何故、今、助かりたい・・・先、は望まぬ、の、か》
(先を望むのと、今を望む事とどう違う?どうしてお前は、小野家の守護神でありながら守護する事を支離ごむんだ?)




