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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
24/39

同調

 己の中に、こもる―める。

 何をなのか、直志にも説明はつかない。しかし名を付けるのだとすれば、それは『気』というものなのだろう。清蓮の言っていた通り、『意識』なのかもしれない。

 瞼を閉じると、そこは闇。その中に己の意識が溶けるという想像をすればするほど、己は浮き立ち、闇の中に薄いまくを張ったかのごとく、体が切り離されたように感じた。


(頼む・・・)


 直志は、己の左手にいる、かたいものに呼びかけた。


(秀晴兄さんと碧さんを、守りたいんだ・・・)


 痺れはもう全身を纏っている。

 直志の首筋から耳、頭、そしてその内側へと、入っていく。


 鼓動。


 己のものとは異なる心音が、どこからかする。

 集中するにつれて、聞きやすくなってゆく。

 輪唱していた鼓動が、だんだんと溶けていくのが分かる。

 夢とうつつの狭間のような、闇―。

 そこではひたすらに、耳鳴りと鼓動がしていた。

 


 清蓮は、再び動き出そうとしている妖を見つけた。

 指を絡め、印を組む。清蓮が口の中で呪文を唱えると、妖は苦しみ出し、その場で動けなくなった。低く唸りが聞こえる。


(頼む・・・)


 直志が何度かそう念じる。

 すると耳鳴りに似た音が、先程より大きく、耳をつんざくほどにふくらんだ。


 碧の持っている方も共鳴し、同じ音を放っている。

 不協和音が頭に痛む。

 秀晴は耳を押さえたくなったが、腕は碧を抱きしめている。


 龍牙丸は、青紫色の光を発光しだした。

 秀晴は眩しさに、思わず顔を逸らす。

 そして逸らした先にもう一つ、光があるのに気づいた。

 直志の左手。

 龍牙丸全体に、淡い赤の光があった。

 秀晴はその光景に、ふと三年前を思い出した。

 父が亡くなり、書斎が己のものになった、あの日を―。



 秀晴は、一度も父の見舞いに行かなかった。

 同じ男としては尊敬していた父。

 親としては不甲斐無かった父への、最初で最後の反抗心。

 父親の弱りきった姿など、見たくなかったから、という理由もある。

 しかし、医者から「最後かもしれぬ」と言われて、拒絶できるような親不孝にはなれなかった。碧と共に、すっかり痩せ細った父に会いに行った。

「書斎の引き出しを見よ・・・」

 それが最期の言葉だった。

 秀晴は引き出しの中から、父の遺書を見つけた。

 文面に、秀晴を跡取りにすると記してあった。

 そして直志の父に、病床に伏した事を黙っていてすまなかった、とある・・・。

 我が子には一言もない所が父らしいと、秀晴は苦笑してしまった。

 そして最後に書かれた不可解な一文いちぶんに、秀晴は眉間を寄せた。


 夢にいずる炎の牙、氷の牙が

     小野家を守護するであろう事を願う。  


 ・・・秀晴は三年越しに、父の意図を理解した。



 直志は瞼の外に、光を感じた。

 ゆっくりと目を開けると、直志は左手を見る。


「何だ―これは・・・」    

「直志殿。大事ありませんか」

「どういう事だ?何なんだ、これは―」

「彼方と龍牙丸が、同調しているだけです」

「だけ、って・・・大丈夫なんだろうな・・・?」


 ばりばりと音をたて、龍牙丸の周りに紅い火花が散っている。

 碧の方を見れば、そこには蒼い火花があった。

 直志は、妖の呻きを聞いた。

 妖はその場に立ち竦んだまま、どうやら動けないようだ。

 清蓮は妙な形を指で作り、妖を睨んでいる。

 鼓動が強く重なるような血潮が通り、左手を通して伝わると、耳の奥で響いた。

 時折視界が揺れ、何かに意識が引っ張られる。

 痺れが、鼓動と共に強弱をつけて流れて来た。


「清蓮、どうしたらいいんだ・・・」


 心配する秀晴と、苦痛に耐える直志をよそに、清蓮は手を貸そうともしない。それどころか視線を向ける事もせず、直志には清蓮の長い足しか見えない状態だった。


「そのまま」

「え?」

「そのまま、続けて」

「お、お前、他人事だと思って・・・」


「今度は目を開けたまま、妖を見て。それから、呼吸を深く―」


 痺れでもはや感覚はなく、そのせいで、龍牙丸を離す事もできなかった。

 直志は言われた通りにするしかなく、妖を見た。

 深く、息を吐く。


「続けて」

 深呼吸を、何度か繰り返した。

「もっと、ゆるりと―」


 言われた通りに、先ほどよりも多く息を吸った。


「龍牙丸を受け入れて・・・呼吸の度に、彼は彼方の中に入っていきます・・・ゆるりゆるりと、血の流れに沿って、痺れに乗って、彼方の中に―」


 赤い湯気のような光が、左の腕から体を伝った。

 いつしか、直志が聞いていた心音は同調し、一つとなった。

 冷気のような光が体を覆うと、直志の頭の中に、心音でも耳鳴りでもない奇妙な音がした。

 掠れた音だ。

 それが次第に大きくなるに連れ、耳鳴りが小さくなっていく。


 直志はその音に集中する。

 そしてその音が、男の声である事に気づいた。


(龍牙丸の、声・・・?)


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