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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
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疎通

 清蓮は確実に、鎌の軌道きどうを読んで避けていた。元々感情的な妖なので、軌道を読むのに苦労はしない。後ろへ横へ足元も見ずに移動し、体をらし続けた。

 そしてそれを追う鎌は、利休色から緑色へと変じている。


「龍牙丸、力を貸してくれ―」


 清蓮は長椅子に後ろ向きに飛び乗る。背もたれを蹴り、妖の頭を飛び越した。妖はそれを目で追い、振り返る。鎌を振り上げると、その鎌の色が、鮮やかな緑から薄緑へと変化した。


 僅かな直志の声が、清蓮の耳に入った。


「力を貸してくれ・・・頼む―」


 横目で直志を見ながら体を左に逸らし、鎌を避ける。


「直志殿、何をしておられる」


 直志は目を開け、食いしばった歯を懸命に開いた。


「龍牙、丸に・・・頼んでいるんだ・・・」


 今度は右斜め後ろに、清蓮は下がる。


「頼む?何を?」


「味方に、なってくれるように・・・お前が言っていただろう―」


 清蓮はしゃがんで、右横に転がる。ぶん、と風斬り音がした。


「なるほど・・・彼方は随分と素直な御方だ」


 妖は顔を歪め、「余所見よそみをするなっっ」と叫んだ。


 横から来た腕を、清蓮は足で止めた。その隙に片方の鎌が、清蓮のわき腹を目掛けて払われる。

 しかし清蓮は妖の腕を掴み、それを阻んだ。


「それで直志殿―龍牙丸から、返事はありましたか・・・」


「ない・・・そもそも・・・意思の疎通は可能なのか?」

 

 妖との押し合いで、さすがの清蓮の顔にも力が入った。

 清蓮の体が、少し後ろへと傾く。


「ええ。可能ですよ―おそらくは・・・しかし、会話は無理なのかもしれません・・・何か、別の―」


 清蓮は、妖の腹を蹴って飛び退る。妖は床に転げてもがいた。

 清蓮は妖との間合いをとり、後ろへ数歩さがる。


「念じてみて下さい」

「え?」

「龍牙丸に、何か念じて」


 体力の消耗が激しかったのか、妖は中々立ち上がらない。  


 直志は居合いの下段構えのような体勢のまま、動けなかった。目を瞑り、できるだけ精神を統一をしようと努める。


「龍牙丸が直志殿を邪険にしないのは、直志殿を審判しているからです・・・己の、新たな主人になるものかどうか―」


 直志は顔を顰めた。


「主人?俺は、そんなものになるつもりは―」


「今だけです。敵を同じくしているのだから、そう頑固にならなくてもよいでしょうに。あなたを持っているのは、あなたに危害を加えるつもりでも、あなたが守るべき者達を、斬ろうとしているわけでもないんです・・・『あなた』も、今までの『彼』の言動で理解しているのでしょう?」


「え?なに・・・」


「いい加減、力を貸したらどうです。無駄な自尊心の為に、小野家の血筋を絶やしたいんですか?」


「清蓮・・・?」


 俺に言っているのか?と、直志は思う。


「この者に、敵意はありません・・・あなたを悪用する気などさらさら無いのですよ。それにどうやら、多少の剣術はできるようですし?そちらにおられる小野家の末裔よりも、あなたに耐えられると私は思いますがね」


 清蓮は妖の様子に気をつかいながら、直志に言う。


「直志殿。あなたも念じて下さい。その方がより伝わる」


「え?」


「早く。このまま痺れたままでは、彼方の体はもちませんよ。常人が長い間そのようなものに触れていて、良い影響は無い」


「何っ?それを早く言えっ」


 清蓮は溜息を吐いて、呆れたように言った。


「そんな事、普通言わなくても感じるものでしょうに・・・」


 直志は、あせって目を瞑った。

 必死に念じてみるのだが、なかなか集中できない。

 龍牙丸は未だ振動し、それ以外の反応は見せなかった。

 妖が体勢を立て直すと、その背骨は前傾ぜんけいしていた。


「意識を内側へと押し込め、外とは切り離して下さい」

 直志は瞑った目に、より力を込めた。

「そんな事、どうやって、した―ら、いいんだっ」


「そう念じるのです。まず深呼吸して、闇と溶ける気分になればいい。そうでなければ、龍牙丸と溶ける―でもいいです。何でもいいから、外と己を切り離して下さい。でなければ、何れ生気を失って、死ぬ事になりますよ?」


「う・・・お、おお。やってみる・・・」


 直志は一つ息を吐いた。

「なぁ、清蓮・・・」

「何ですか」

「ちゃんと守ってくれよ」


 清蓮は、横目でちらりと直志を見た。


「彼方の身の安全は、保障すると言った筈ですが?」

「違う―あの二人だよ・・・」


 清蓮は直志の方へ振り向く。


(自分の身より、他者を優先してくれ、だと?)


 直志の言葉は、自暴自棄じぼうじきになったという聞こえではなかった。


「直志殿、龍牙丸を使うのではなく―受け入れて下さい・・・」


「わかった・・・」


 剣術において、直志は言わば天才。

 一度腹を据えてしまえば、それほど苦難ではなかった。


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