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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
22/39

やや

「どけぇ」


 妖は、清蓮に向かって腕を振り下ろす。

 清蓮はその腕を掴み、手首を捻って、女を床へと投げた。

 妖が立て直すとほぼ同時、秀晴は洋寝台へと飛び込んだ。


 ううぅ、と、女が低い声で唸る。


 碧の体を抱き寄せた秀晴と、妖の前に平然と立つ清蓮。

 そしてその場から動けぬ直志は、妖の腕の異変に気がついた。


「あれは―・・・」


 直志も秀晴も、息を飲んだ。


 女の腕は、鎌だった。肘から先が異様に長くなり、利休色りきゅういろの大鎌の内側には、棘のような突起がいくつも付いている。


 清蓮はそれを見、骸達の首の切り口を思い出した。


「あれで、男達の首を落としたのか・・・」


 女の青白い顔から、冷や汗が滴る。


「限界が近いな」

「お前さえいなかったら、そこの男を喰べられたのに・・・」


 直志と碧の龍牙丸が、耳鳴りに似た音で鳴き始めた。

 清蓮は直志の斜め横に移動し、直志をかばえるようにした。


「碧様を狙うのは何故だ」

 女は息を荒くし、碧を睨み見た。

「欲しい・・・あの女が―」


 直志は「何故、碧さんなんだっ」と叫ぶ。


「美しい器が欲しい・・・私が操れる、美しい体・・・」


 清蓮はその涼しげな目で、妖を見据えた。


「なるほど・・・人型を保つより、誰ぞに憑いた方が楽ではあるからな・・・それで?憑依体質で見目の良い、碧様を選んだと言うわけか?」


 女は、熱にうかされたように繰り返した。


「欲しい・・・どうしても欲しい・・・欲しい―」


女の顎から、汗の滴が落ちた。絞りだすような声が言う。


「ややが、欲しい・・・」


 秀晴と清蓮が目を見開いた。

 秀晴は思わず呟いた。


「子供が、欲しい・・・だと?」

「私の、私のややが―欲しい・・・」


 清蓮は暫し沈黙し、「そうか」と呟いた。


「お前は未熟な為に、己の力でややが産めんのだな?原型でも、人型でも、お前は産めない・・・それで誰ぞに憑依して、その者を通して―子供を産もうとした・・・」


 妖は何も答えない。


「父親候補は、今まで首を落として来た奴らか?それとも―どこぞに惚れた男でもいるのか」


「そんなもの居ないっ」


 清蓮は、あくまで冷静に言う。


「だが、ややは欲しい?」


 妖は黙って答えない。しかし、それが答えだった。


 秀晴は目玉が落ちる程に見開いた。真だとすれば、何処の誰とも知れぬ男のややを孕むのは、妹の碧だったのだ。


 妖の腕が震え出し、もう一本も棘の付いた鎌になった。

 清蓮は感情を押し殺した声で言った。


「子供が欲しいと思うのは、本能。人を食うのも本能―でなければ生きていかれない。しかし、それを黙って待っているような人間など、居はしない・・・」


 女の体に、滝のような汗が流れていた。瞳も、胡乱として危うい。気が遠退いているのだろう。足元もふらついていた。


「どうせ産むなら、姿形のよい男がいいと思ったのか」


 女が、苦痛にあえぐように唸る。


「人型を保つ為に、男達を食ろうた?」


 清蓮は妖を、まっすぐと見つめている。


「未熟な妖と常人の男とでは、ややができん事に気づいて、腹を立てたのか・・・それとも―それ以前に及ぶ行為を、男に拒絶された事に、自尊心を傷つけられたのか?」


 清蓮は女の棘鎌を見ながら、「いいや。それとも―」と、冷ややかに言った。


「首を落とす事こそ、お前の本能か?」  


 女は奇声を発し、その棘鎌を清蓮へと振り上げた。

 清蓮が鎌を避けると、今度はもう片方の腕を払う。交互に刃が払われる度に、清蓮は舞うようにそれを避けた。


 くうく音が、薄闇の中でした。

                     

 懸命に足を踏ん張っていた直志。

 次第に強くなる龍牙丸の抗い。

 痺れが、膝にまで来ていた。


(味方に付ける・・・味方に・・・?どうすればいい?意思の疎通など可能なのか?小太刀と?)


 妖が振り払う鎌の音を聞きながら、直志は目を瞑った。清蓮は言っていた。付喪神は、会話をするのだと。それが元付喪であれ、何らかの形で疎通ができる筈だ。


 直志は、念じながら呟く。


「頼む・・・龍牙丸・・・」


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