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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
21/39

現われた妖


 直志の痺れは肩を過ぎ、背中へと進んでいた。

 女中の目が、怒りに血走った。


「ちくしょう、ちくしょう・・・お前さえいなかったらっ」


 清蓮の落ち着いた声は、薄闇の中で刃物のようにするどく通った。


「出て来い・・・」 


 直志の背筋に、悪寒おかんが走った。

 刹那、女中は大口を開け、硬直した体をらせた。

 そして動物の断末魔のような、恐ろしい悲鳴を上げる。


 直志は見た。


 半透明な―密度の濃い風のような物が、女中から抜けたのを。

 悲鳴が止むと、女中は気を失って床に倒れ伏す。


 半透明なものが、薄闇の中で色を濃くしてゆく。


「邸の中を動く為に、この女中の体に入ったのだな・・・」


「清蓮、今の―」


「今度こそ本体が来ます。くれぐれも、御用心を」


 透明、薄水色、水色、薄藍色、藍色、濃藍色・・・


 女中の側に一つ、影絵のような塊がうずくまっていた。

 それがむくりと起き上がると、同時に髪が揺れた。

 龍牙丸が激しく動き出す。直志は、清蓮の言葉を反芻はんすうした。


(味方につける・・・)


 龍牙丸には意思がある―という事は、何らかの形で疎通そつうはかれる筈だ。己が認められれば、力を貸してもらえるかもしれない・・・いや。力を貸してもらう必要がある。


 薄闇の中で見えたのは、似顔絵と酷似した女だった。

 しかし幻の時とは違い、女は平民服に素足だった。


「おのれ・・・よくも、よくも邪魔したなっ」


「どうやら、お前の妖術は底をつく寸前のようだな」


「うるさいっ。お前、何者だっ」


 清蓮は目を細めた。


「陰陽師、阿倍野清蓮(あべのせいれん)・・・お前を退治する者だ」


「陰陽師?陰陽師が、何故ここに―」


「妖が現るる所、陰陽師あり。陰陽師現るる所、妖はなし―」


 妖は目を見開いた。


「私を殺す気かっ」

「事情によっては」


 びゅー、びゅーと胸元が鳴っている。

 妖は蒼い顔を清蓮に向けたまま、喘鳴のする息で言った。


「邪魔を、邪魔をするなっ・・・」


 清蓮は、妖の顔から足先までを流し見た。


「このままでは、人型さえ保てなくなりそうだな・・・お前、生まれたのはごく最近だろう」


「だったら―だったら何だって言うのっ」


「別に。私には関係ない・・・ない―が、興味はある・・・最近起きた首無し達は、お前の仕業なのだろう?」


 妖は、にたりと笑った。


「ええ。そうよ・・・皆、いい顔の男だった―」

「だから首を取った?」


 妖は、ふふ、と愉快ゆかいそうに笑った。


「皆顔立ちは違うけど、整った顔だった・・・それに、美味い」


 妖は直志を見て、舌なめずりをした。


「そこの男も、美味しそう・・・」


 直志の全身の産毛が、総立った。


「もうすぐ、お前の首も私のもの・・・」

「そうはさせん」


 妖は、直志から清蓮へと視線を戻した。


「取った首は、どこにある」

「そんな事、教える必要ない」

「いやある。しかるべき所に戻し、供養くようする」


 女の顔が、みにくゆがむ。


「ふん、誰が教えるか・・・お前もお前もっ、皆殺みなごろしだっ」


 妖は女中を飛び越し、清蓮に向かって飛びかかってきた。


 清蓮はそれをひらりとかわす。つんのめった妖を、直志はどうにか避けた。妖は直志の方へとかかろうとしたが、直志が握っているものを見て、その足を躊躇させた。


「直志殿、絶対に離すなっ」

「わ、分かっているっ」


 妖は、直志の後ろへと血走った目を向けた。その視線の先に、壁に背中をへばりつかせる秀晴がいた。妖と目が合うと、秀晴は小さく悲鳴をあげる。妖は秀晴目掛けて走り出した。


 清蓮は、妖の前へといつの間にか回り込み、行く手を阻んだ。


「秀晴殿、碧様の元へっ」


 足をすくませていた秀晴だが、弾かれたように駆け出した。


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