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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
19/39

うしろむき


「わたくしめのような女中が、このような高価な品に触れるなどあつかましいですから」


 清蓮は静かに、冷ややかに言った。


「そんな事はありませんでしょう」

「いえ。滅相もございません」 


 女中は強く否定し、かぶりを振った。

 直志は、腕が震えるのを怪訝そうにしながら、女中に言った。


「しかし、乙女の体に男が無闇に触れるのは・・・いくら家宝とはいえ考えすぎじゃないか?先程も使用人が運んで―」


「無闇などでは御座いません。陰陽師の方なら、そのような邪念などお持ちになられまでせんでしょう?」


 清蓮は肩を竦めた。


「さあ?どうでしょうね」


 清蓮は嫌味に似た、含みをおびた口調だった。

 秀晴は渋そうな顔をして、女中に言う。


「気にする事はない。お前が取って、早う着替えさせておやり。いつまでも湿ったままでは、体が冷えてしまう」


「でも―」


「我々は後ろを向いているから。早くしなさい」


 直志は素直に後ろを向き、目を瞑った。清蓮も感情の伺えない顔を叛け、直志と同じ方を向いた。直志の隣に歩むと、小声で聞く。


「まだ、龍牙丸は抗いますか―」


 直志は馬鹿正直に目を瞑ったままだ。


「ああ。先程、清蓮殿に言われたからなのか―何だか、震えが強くなっているような気がするんだよな・・・」


 清蓮は更に半歩分、直志の方へと歩んだ。体温が感じられる程近くに寄ると、直志は訝しんだ。その耳元で、清蓮は囁く。


「それは、気のせいではありませんよ・・・」


 直志は思わず目を開け、清蓮の横顔を見た。

 清蓮はその体勢のまま、強めの口調で秀晴に言う。


「秀晴殿、その場をお動きになるなっ」


 秀晴は咄嗟に足を止めた。守衛によくよく言い含めて、部屋に入る寸前の所だった。


「そのまま、扉の側におられて下さい」

「何故・・・です?」


 背を向けている清蓮からは、当然秀晴は見えない。


「いつぞや来るとも知れぬ妖相手に、皆が皆同じ場所におったのでは、対処に遅れます。秀晴殿は碧様の兄上ですから、多少見られましても、嫁に行けぬなどと騒がれる事はありませんでしょう?どうかその場に」


「んん?まぁ―それはそうなのだが・・・」

「では、そこに。私はそちらに立ちます」


 清蓮は目を瞑り、直志の隣から真っ直ぐと、十五歩分離れた。

 洋寝台に一番近い場所だが、後ろを向いているので着替えが見えるわけではない―と、秀晴は己に言い聞かせた。


「さぁ早く。いつ妖めが現われるか分らん・・・お前も気を抜かずにおられよ」


 清明は女中に言った。

 女中は困惑して、誰ともなしに聞く。


「あのう・・・この小太刀、何故震えているのでしょうか」


 それには清蓮が、淡々と答える。


「それは破魔の力を宿した、珍しい小太刀だ。下等かとうな妖ならば、近づくのも危踏あやぶむ、高位な品・・・扱いには気をつけられよ」


 直志は顔を顰めた。


(何故清蓮は、この女中にだけ、言葉の使いを変えたのだろう。他の者には、心あらずとも敬語であったのに・・・この女中だけが、「お前」呼ばわりだ・・・)


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