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陰陽堂狂都支店  作者: ジオサイト
12/39

秀晴の思惑


 直志の方から碧の姿は、側に立った秀晴の影になって見えなかった。それは碧の方も同じだったようで、彼女は直志に気づいていないようだ。 


「碧。今夜は宴会を開いただろう?それで、日向の直志を呼んだのは聞いているね?」

「ええ。勿論。忘れる筈がありませんでしょう?」


 秀晴は穏やかに笑みながら、妹の感激を思い浮かべた。


「それがわけあって、今夜は此方で、妖退治あやかしたいじを手伝ってもらう事になったんだよ」

「えっ?」


 秀春の予想に反し、碧は顔を引き攣らせた。


「お久しぶりです。碧さん」


 直志は一歩、斜め前へと踏み出す。

 途端、碧の目に美男子が現われたことになり、碧は驚きに目を見開いた。


「まぁっ」


 碧は、小さく色白な顔に細い鼻、小ぶりな唇、美しい瞳を持つ少女だ。今年で十八、九になる筈だが、華奢な体がそれよりも幼く見せている。

 良く手入れのされた艶やかな黒髪と、化粧をせずとも僅かにしゅを含んだ唇が印象的な少女であったが、今顔を出した少女の髪は軽く横でまとめてあるだけで、唇も少々色抜けしていた。


 会う時は常に手の込んだ結い髪で、愛らしく洒落た格好をしていたのだが、今回はさすがに不測の事態、素顔の碧は直志の目に更に幼く見えた。


 当初青白かった碧の顔は、直志を瞳でとらえた刹那に、紅葉。驚いて見開いた瞳にも涙が浮いて、彼女は秀晴の影に隠れた。


「お、お兄様っどうして直志さんがここにいるんですかっ」

「いや、それがだ―」


 言いかけた言葉に被せて、碧は掠れた声で叫ぶ。


「どうして、私がこんな姿の時にっ」


 碧は秀晴を責めて、叩いた。

 しかし片手で顔を覆っているために、それほど威力があるものではなかった。

 直志は当惑するばかりだ。


「あの、碧さん・・・?」


「お呼びになるのなら、事前に言ってくれても良いでしょう。そしたら、おめかしする事もできたのにっ」


「あの―」


「お兄様はどうして、こういう時にだけ気がきかないのっ」


 秀晴も困惑しているようで、きまりが悪そうに頬をかいた。


「そうは言っても―気をきかせたつもりだったのだが・・・」


 秀晴は碧の様子に内心首を傾げた。彼に悪気は無いのだが、どうもこの友人二人。人は好いが、女心と言うものに疎い。


 しかし幾らか秀晴の方が勝っているのは確か。碧が引き取られてから初めての年、別荘に遊びに来た直志に一目惚れしたのを、秀晴は気づいていたのだ。ここは兄馬鹿の秀晴。妹の為にと何度か口実を作っては直志を呼ぶのだが、ここぞと言う所で詰が甘く、上手くいったためしがない。


 直志は直志で、碧の想いも秀晴の思惑にも気づかず、今まで安穏と過ごしてきた。そしてこの、明ら様な碧の照れようにも、思い当たる所がないらしい。


「碧さん、すまない。突然決まった事とはいえ、やはり来るべきではなかった。秀晴兄さん、俺は部屋の前にいるから―」


「そんなっ?それは駄目だっ」


 珍しく秀晴が大声をあげるので、直志は驚いた。

 秀晴自信も我に返り、必死の作り笑顔で直志の肩を叩いた。


「ああ、いや・・・一人でいるのは危険だ。妖の事をよく知らんのに、単独で行動するのはいかん。そうでなくとも、お前は狙われてるんだ。な、な、清蓮殿?」


「しかし―」


 清蓮は直志の肩越しに、助けを求める秀晴の視線を感じた。

 少し状況を考えたあとで、結論に達する。


「そうですね。単独はいけません。契約内容に彼方の安全が上乗せされた以上、彼方には私の側にいてもらいます」


 陰陽師に言われては、直志も残るしかない。

 秀晴は密に喜んでいるようだった。

 しかし碧の方は、秀晴の言葉に反応した。


「直志さんが狙われていると言うのは、どういう事です?」


 秀晴は、思わずにやけていた顔を元に戻した。


「あ―・・・それは、だな?」


 秀晴は先ほどの出来事を、かいつまんで碧に話した。


「では・・・宴会場で奇妙な術をかけられたのですかっ?」


 碧は心配そうに直志を見た。

 直志は勤めて明るく笑う。


「大丈夫だよ。清蓮殿に解いてもらったから、今は何ともない」


 碧は安堵の溜息を吐いた。その姿は、実に儚げで可憐だ。


「と―言うわけだ。直志がいる事を、承知してくれるね?」


 秀晴の言葉に碧は俯き加減に、しかし少々嬉しそうに言った。


「仕方ありませんわね・・・」


 清蓮は、何と分かりやすい者達だ、と思った。 


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