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兵器な少女  作者: 哀上
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3話 出会い

3話 出会い

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 鐘がなり、休み時間になった。

 伸ばしていた背筋を緩め、机に突っ伏す。


 ふぅ、やっと終わった。

 結局マイケルが何を考えているのか、私には理解できなかったよ。

 おのれマイケル、私の時間を無駄にしやがって。


 もっとも、周囲の様子から見るに私だけが理解できていなかったようなのだが。

 解せない。

 教師も当然のように授業を進めてたし……


 でも、これでやっと休憩できる。

 軍に比べてしまえば、精神的にも肉体的にもどうってことなかったはずなのだが。

 やはり晴れていないことをしたせいか、はたまたマイケルのせいか、軍での日々以上に疲労した気がする。


 やはり、生まれた時から兵士として育てられて来た以上そちらの方が向いているということなのだろう。

 平和に向かって行こうという世界で何を言うって話だが。


「ねぇ、リーリアちゃん。……で、名前あってるよね?」


 私が項垂れていると、頭のてっぺんの方から声をかけられた。

 顔を上げると、笑顔の少女が1人。

 それ以外にも周りに人だかりが出来ていた。


 どうやら、休み時間になったからといって休めるほど私の学園生活は甘くないらしい。


「私、ヴィーナ。よろしくね」


「あ、うん。よろしく」


 私がボケッとしていると、向こうの方から自己紹介して手を差し伸べて来た。


 握手?

 とりあえず握り返すと、ただでさえ笑顔だったものが満面の笑みになった。

 正解らしい。


「あ、私はジビラだよ。よろしくリーリア」


「僕はミラン、よろしくね」


「私は


 ……


 「今だ!」と思ったのかどうかは知らないが、周りの子達が一斉に私に向かって自己紹介し始めた。


 彼らは果たして覚えてもらおうという気はあるのだろうか?

 耳の性能はいいので聞き分けられはするが、それらを覚えられるかと言ったら別問題だ。

 そもそも私じゃなければ聞き取れすらしないだろう。

 最初に話しかけて来た、今は少し困った顔をしているヴィーナって子以外誰が誰だか全くわからない。


 一通り自己紹介し終わったのだろう。

 それからは、前はどこの学校に行ってたのかとか、

 彼氏はいるのかとか、

 趣味はなんだとか、

 どんな本が好きだとか、

 どうしてこんな時期に転入してきたのかとか、


 とりあえず気になったことを片っ端から聞かれたのだろう。

 脈略のない、とっ散らかった質問があっちこっちから飛んできた。


 でも、まぁこの方が都合がいい。

 大勢がバラバラに質問して来ているし、一部の質問に答えなかったとしても誰も不自然には思わないだろう。

 とりあえず問題なく答えられそうな当たり障りのない質問にだけ答えて、この休み時間を乗り切ることにした。


 休み時間は授業より短いとはいえ、これはしばらく収まりそうにないな。

 転校生が来れば毎回こんなふうになるのかといえば、きっとそんなことはないだろう。

 ついさっき感謝したばかりだが、今はこの恵まれた容姿が少し恨めしい。


 ……やっぱり、馴染めそうにないな。


 話せないことが多いせいで淡々とした受け答えになってしまったかもしれないが、別にコミュニケーションに問題は感じない。

 周りからどう思われていたかは心が読めるわけでもないので不明だが、少なくとも私自身は問題の意識はない。

 そういうのは軍でも大切だったしね。

 ただ、この特殊な状況がどうしても慣れない。


 私がずっと兵士として育てられて来たから。

 いや……、私が兵器として育てられて来たからか。

 兵士たちにもこういう時代はあったのだろうことは想像に難くない。


 軍でも私は特殊だった。

 上司はいても部下や同僚なんていなかった。

 もしかしたら、彼らの仲間に向ける思いなんかはこれと近いものがあったのかもしれない。


 ただ、別に嫌ではない。


 馴染めないだけで、拒否感があるわけではないんだ。

 彼らに悪意は感じず、むしろ好意ばかりだ。

 まぁ、一部嫉妬を感じるがそこはご愛嬌だろう。


 それに、これが私たちが守ってきた光景なのだ。

 汗と血に塗れて、戦っていた意味なのだ。


 綺麗だと、そう思った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 -とある研究者の書記-


 今日もまた、私の心は悩みに満ちていた。

 だからだろう、こんなものを書き綴っているのは。

 一時の気の迷いで何もかも失うかもしれないというのに。


 もしこれを私以外の者が読んでいるのだとしたら、その時は告発するなり脅すなり好きにしてくれていい。

 私はもう疲れてしまった。

 もっとも、その時まだ私が生きていたらの話だが。


 私は軍の研究者であり、優れた兵士を生み出すべく日夜実験に明け暮れていた。

 当時は戦時中ということもあり、上層部も私の行なっていた人体実験について何か文句を言ってくることはなかった。

 それどころか、当時一定の成果を上げていた私はその実験の功績でそれなりの地位と金を得ていた。

 私が人生でもっとも輝いていた瞬間であり、今ではその過去が後悔でしかない。


 実験によって生まれた子どもたちと接して行くうちに、当たり前のことに気がついた。

 彼らはただの実験体ではなく、私と同じ人間だという事実に。

 彼らは普通の子どもたちと同じように成長し、考え、感じる存在なのだ。


 でも、気がついたところでどうしようもなかった。

 私はこの研究を軍の内部で行なっており、その成果は一定のものとして認められていた。

 すなわち、作戦に使用されることがすでに計画として立案されてしまっていたのだ。

 私は、同じ人間を兵器として消耗品として扱ってしまった。


 残念ながら作戦行動中に多くの子どもたちは命を落として行った。

 彼らはまだ未完成の存在であり、それほどの無茶に耐えられるほどの完成度は有していなかった。

 それは報告書で上層部も確認済みのはずなのに……

 愚かなことだと思う、しかし私に批判する権利なんてない。

 そもそもは私が発端なのだから。


 しかし、奇跡的に1人の少女がこの戦争を生き残った。

 それは運だったのか、それとも私の実験が完成していたのか、それはわからない。

 当時はもうすでに実験の続きをする気なんてなく、ただ調整と称してできる限り生きてほしいと健康状態を検査するぐらいのことしかしていなかったのだから。


 私は彼女に普通の人間として生きてほしいと考えていた。

 そして、それは今このタイミングを逃せば不可能なことも予感していた。

 国が平和へと大きく舵を切った、このタイミングしか。

 彼女には選択肢があるべきで、夢を追い求める権利があるはずなだから。


 私は彼女を学園へ通わせることに決めた。

 それは知識を得るだけでなく、きっと他の子どもたちとの交流で自分自身を見つけることができるかもしれないと思ったから。


 私はこれ以上、人間を兵器として扱うことはできないだろう。

 そう思っている以上、そう遠くない未来私もお払い箱になる。

 人体実験での功績を認められて今の立場があるのだから。


 私は、彼女が幸せに生きる未来を願っている。


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