21話 行動
21話 行動
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「もしもし、パパ?」
「ヴィーナか? どうした、急に」
私は寮に帰ってすぐにパパに連絡をとりました。
時は一刻を争う、のかどうかは分かりませんが早いに越したことはないと思います。
私から連絡するのなんて久しぶりだったので、パパは随分と驚いているみたいです。
でも、余計な会話をしている暇はありません。
私は矢継ぎ早に要件を伝えます。
「お願いがあります」
そう、お願いです。
「私、勉強とか頑張ってるでしょ? だから、ご褒美が欲しいなって」
大切な、お願いです。
「友達を助けて欲しい、です」
「……何かあったみたいだな。事情を話してみなさい」
「はい」
私は一通り起こった事を説明しました。
友達が突然銃を発砲した事、
その銃撃で男が1人死んだ事、
友達が警察に捕まっちゃった事、
ここまで聞いたパパの反応は芳しくはありませんでした。
助ける理由が見つからないみたいな、むしろそんな危険人物が学園にいたのかと言うような、そんな反応です。
でも、ちょっと待って欲しいです。
警察が調べてくれてわかったんですけど、その男も銃を持っていたみたいなんです。
友達が銃を撃つ直前、私はその男と目があったんです。
きっとその男は私のことを狙っていて、友達は私の事を守るために撃ったんだと思います。
相手が銃を持っていたのもあって、調べれば色々と背後関係が出てきそうです。
だから、多分友達は重罪にはならないと思います。
でも、人を殺しちゃってるから無罪は難しいと思うんです。
それに、仮に無罪になっても学園を退学にされてしまったらダメなんです。
友達は私の事を助けてくれました。
だから次は私の番だって、私が友達のことを助けないとって、そう思ったんです。
「……そう、か」
パパは私の話を聞いて悩んでるみたいでした。
私はこれまで親に迷惑をかけないように生きてきたつもりです。
私は恵まれているのだから、2人は仕事が忙しいのだから、その仕事のおかげで私は贅沢な暮らしが出来ているのだから、だから私はいい子でいなくてはならない。
我儘なんて許されるわけないのだと。
これがパパに迷惑を掛ける事だって事ぐらいは分かっています。
そんなこと分かった上で、お願いしているのです。
それでも、リーリアちゃんのことを助けたいと思ったのです。
「一生に一度のお願いです。だから……」
私には他に頼れる人がいません。
私には友達がいません。
親の言うままにコネを作ろうとするクラスメイトを見て、仲良くなりたいとは思えなかったから。
私にはコネがありません。
そんなものを作るために必死になるクラスメイトの事も親の事も、どこか見下していて自らコネを作ろうなんて動いた事がないから。
私には、パパしかいないのです。
断られたらもう、どうにも出来ないのです。
だから……
パパだって、パパのその立場だって、私との時間を無視して作り上げたものじゃないですか。
私はパパと会いたかったのに、愛して欲しかったのに、仕事が忙しいからって家にもほぼ帰らずにそこまで上り詰めたんでしょ?
私の本当に欲しかったモノを与えてくれずに。
私、本当に欲しいモノをやっと見つけたんです。
やっと手に入りそうだったんです。
目の前で手からこぼれ落ちていくのを見ているなんて、そんな事出来るはずありません。
私ずっといい子にしてたじゃないですか。
ずっと我儘言わずに、家にいたじゃないですか。
パパの言いつけ通り学園に入学したじゃないですか。
だから、その分私に返してくれてもいいでしょ?
そしたらちょっとぐらい見直してもいいかもしれないです。
ほんとにちょっとだけですけど。
「……ヴィーナの命の恩人なら、父親としてその友達に直接お礼しないといけないな」
「パパ!!」
それって、助けてくれるって事だよね?
よかったです。
これでリーリアちゃんとの約束を果たせます。
一度守るって決めたんです。
リーリアちゃんの事を。
さっきはいつの間にか私が守られちゃってましたけど、今度こそ……
「その友達が捕まったのは、近くの警察かな?」
「うん、多分そうです。1人だけ見たことある警察官の人が居たので」
「そうか、捕まったのはいつだ」
「ついさっきです」
やっぱりその気になってくれたみたいです。
パパがやる気になってくれたなら、成功したも同然です!
とっても偉い政治家さんですから。
……リーリアちゃんにも言われちゃいましたけど、これってきっととっても悪いことなんでしょうね。
軽蔑されちゃったりするでしょうか?
でも、リーリアちゃんを助けるためです。
そうです。
私を守るために人を殺したリーリアちゃんなら、きっと理解してくれます。
そう、ですよね?
むしろお揃いです。
お揃い、いい言葉です。
お揃いの悪い子です。
「警察の方はどうにかなっても、学園に戻れるかどうかは……」
「むぅ」
「そればっかりは、父さんでも力の及ばないところがあると言うか」
「ダメ、です。私は学園に一緒に行きたいんです」
「……まぁ、頑張ってはみよう」
学園を退学になってしまったら意味がありません。
いえ、意味がないってことはないですが。
でも、一緒に通いたいです。
リーリアちゃんの居ない学園生活なんて、そんなの絶対嫌です!
「それで、その友達の名前は?」
「リーリアちゃんです!」
「……なに? 今、リーリアって言ったのか」
「そうだけど、パパってリーリアちゃんのこと知ってるの?」
パパはリーリアちゃんのこと知ってたのでしょうか?
まぁ、別におかしな事はありません。
学園への転校生なんて誰もが気になる事ですし、それが有力な家の子であればお近づきになりたいと思う人も多いでしょう。
だから、事前に情報を集める人も多いはずです。
リーリアちゃんの事はみんな詳しく知りませんでしたが、むしろそれが異常だったです。
他の人は知らなかったのに、パパだけが知ってる?
政治関係……
やっぱり同室だったのも何か意味があったのでしょうか?
「その子って今日転校して来た子か?」
「そう、正解!」
「……なるほど、だから銃か」
「?」
だから?
知ってるのは間違いないみたいです。
でも、だから銃か?
銃をつかようなイメージのある人物って事でしょうか。
よく分かりません。
そんな人、政治家にいるのでしょうか?
私は特に政治に詳しくもありませんが、そんな破天荒な人絶対耳に入ってきます。
もしくは銃だし軍人関係でしょうか。
パパは軍人さんと仲悪いみたいですけど、可能性がないわけじゃありません。
でも、軍人さんの子供だったら銃を使ってもおかしくないとはならない気がします。
どちらにしても、その人なら銃を使ってもおかしくないと思える人物像が想像出来ません。
リーリアちゃん本人が以前にも銃を使って何かやったとかですかね。
まさか私と同い年で軍人さんだったはずありませんし、うーん……
「よく電話してくれた。ついさっきなんだな?」
「うん」
「ヴィーナは、間違いなくその子に助けてもらったんだな?」
「うん」
いきなりどうしたんでしょうか。
リーリアちゃんの名前を聞いてから、パパの雰囲気がガラリと変わった気がします。
「分かった。もう切るぞ」
「ちょっと待ってよ、リーリアちゃんのこと」
「分かってる。ちゃんと最善は尽くすさ。だが、そう簡単な話じゃなくてな詳しくはヴィーナにも話せない」
「そう、なんだ」
……リーリアちゃんって、何者なんでしょう?
そんな疑問が沸々と私の中で湧き上がってきます。
そもそも銃なんてどこで手に入れたのでしょう、とか。
結構離れてたけど難なく命中させてましよね、とか。
「でも、ヴィーナにとっては都合がいいかも知れないな。お父さんにはなんとしてもその子の事を庇わなければならない理由が出来てしまった」
ならいっか。
今は、リーリアちゃんが無事に帰って来てくれることが一番です。
相手のことなんて、これから仲良くなっていく過程で少しずつ知っていけばいいんですから。
でも、ここまで言ってもリーリアちゃんの名前聞くまでまだ本気でやってくれるつもりなかったんですね。
パパのバカ。
でも、お互い様ですかね。
私もパパを利用する様なことしちゃってるんですから。
似たもの同士です。
……親子、ですから。
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1人で過ごす部屋はすごく寂しく感じます。
入学してからずっと1人だったはずなのに。
リーリアちゃんとこの部屋にいたのも、ほんのちょっとだったはずなのに。
リーリアちゃんのベットに目が引き寄せられてしまいます。
何もなく、殺風景です。
リーリアちゃんの荷物は、警察の人が色々と持っていってしまいました。
なんでも、危ないものをたくさん持っていたみたいです。
詳しくは教えてくれませんでしたが、多分他にも銃を持ってたりしたんでしょう。
あの時、荷物を漁るリーリアちゃんに声をかけた時やけに慌てたのも、きっと私に銃を見られるかもしれないと思ったからですね。
そんなに大量に……
絶対危険人物です。
少なくともまともじゃないです。
でも、どんな人であろうと私には関係ありません。
リーリアちゃんは、私にとって大事な人です。
私が心の底から欲しかったモノをくれた、愛しい人なのですから。
少し眠くなって来ました。
でも、リーリアちゃんが帰ってくるまで寝たくありません。
今日帰ってくる保証もないですけど。
でも……
かちゃっと、静かにドアが開く音がしました。
一瞬、隣の部屋かと思いました。
それぐらい静かに、そっと、
「リーリアちゃん!」
私は迷わず飛びつきました。
力一杯抱きしめます。
リーリアちゃんも抱き返してくれました。
リーリアちゃんの甘い香り、
リーリアちゃんの柔らかい手触り、
本物のリーリアちゃんです。
「お帰りなさい、リーリアちゃん」
「ただいま、ヴィーナ」
よかった。
二度と会えないかと思いました。
もう絶対に離しません。
私の、リーリアちゃん……
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