2話 用済み
2話 用済み
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これは、リーリアとヴィーナが出会う少し前のお話
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「「「うぉーーーーー!!!!」」」
「「「勝利だーーーーー!!!!」」」
むさ苦しい男どもの雄叫びが基地にこだまする。
戦争は終わった……らしい。
らしいというのは、私にとってそれは伝え聞いた情報でしかなく実感なんてものは皆無だからだ。
別に敵国の国民を皆殺しにしたわけでもなければ、領土を完全に制圧したわけでもない。
お互いに軍隊はまだある程度戦える余力を残してはいたと思うが、体勢は決したと上がそう判断したのだろう。
特に思うところはない。
むしろ、自らの命が危機にさらされることが減ることは歓迎すべきことなのだろう。
私は危機感というものも、生への執着というものもあまり感じないが、そう思うのが生物として自然だということぐらい理解はしている。
だから、周りで騒いでいる兵士たちに思うこともない。
邪魔でうるさいだなんて、決して考えてはない。
まぁ、今までも何度かこんな事はあった。
どうせ一年とたたずに次の戦場に送り込まれることになるのだし、羽目を外せる時に目一杯外すのも生き残る秘訣なのかもしれない。
こいつらはなんだかんだ歴戦の兵士なのだし。
そう、思っていたのだけど……
「リーリア、こっちに来るんだ」
「……」
「リーリア?」
「あ、博士。すいません、私のことを呼んでたんですか。名前で呼ばれるなんて滅多に無かったので気がつきませんでした」
「……そうか。いや、そうだな。戦争も終わったから、むしろこれからはコードネームで呼ばれることがなくなるだろうな。今のうちから慣れておくといい」
「え?」
「詳しい話は向こうでする」
博士に連れられるがまま、いつもの調整ルームに入った。
それにしても、博士は今まで頑なにコードネームでしか呼ばなかったのにどういう風の吹き回しだろうか。
他の兵士の間でも、あの博士は堅物だってもっぱらの評判だ。
男ばかりの戦場で女性、しかも容姿も整っているというのにそういう噂は全く耳にしたことがない。
戦争も終わったからって、今まで通り長期の調整や私の体の検査が増えるだけじゃないの?
そんな私の疑問はすぐに解決した。
博士はいろいろ言っていたが、要するに私は用済みらしい。
今まで何度も終戦なんて言葉は耳にしてきたが、今回のはどうもかなり大きな節目なのだろう。
物心ついた時から戦乱に満ちていたこの国が、平和に踏み出そうというつもりらしい。
そこに私は邪魔だということだ。
少年兵、まぁ私は少女だがその言葉が適切だろう。
これは世間のイメージがよろしくない。
戦時中ならそんなこと言ってられないが、平和に向かおうというなら話は別だろう。
それに私は特別だ。
少年兵な上に、人体実験やらなんやらされて戦うために育てられてきた。
言うなれば少女の形をした兵器だ。
私が従軍していた証拠は今から頑張って消すのか、いやそもそもこれを想定して初めから機密として徹底していたのか。
どちらにせよいくら過去を誤魔化したところで、私がここにいては意味がない。
年端も行かない少女が現在進行形で従軍しているなんて、平和への邪魔でしかない。
そうか、私もここまでなのか。
特に感慨も湧かない。
死という概念は私には少し難しすぎる。
ただ、あまり痛くない殺し方をしてほしいな。
「そこで提案なのだが。リーリア、君は学校に行ってみる気はないか?」
「……学校、ですか?」
「そう、学校だ。君ぐらいの年頃の少女なら、今の時間みんな学校に通っているだろう。軍のお偉いさんの子供や貴族様なんかのご子息も通われてる学園があって、そこなら君を隠すのにもってこいだ。ほら、木を隠すなら森の中って言うだろう?」
少し、呆然とした。
私は当然殺されると思っていた。
だって、私が生きていることなんてリスクでしかない。
……この国が平和に歩み出しているというのはどうやら本気なのかもしれない。
本気で、その道をいくつもりなのかもしれない。
戦争ばかりしていたくせに、どういう心境の変化だろうか。
どうやら、私の命はもう少し生きながらえることになるらしい。
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教師の後をついて教室に向かう。
この人が私が所属するクラスの担任らしい。
白衣でもなく軍服でもない、こうラフな格好をした大人を見るのは結構新鮮だ。
細かい手続きなどは誰かが終わらせておいてくれたのだろう。
車からおり校門をくぐるとそこにすでに教師が待っていた。
誰がどこまで私の事情を知っているのかはわからないが、軍でのことは全て機密とそれさえ守っていれば問題ないだろう。
誰かから情報が漏れて不都合が起きても、私の感知するところではない。
「リーリアさん、軽くみんなの前で挨拶をしてもらうことになりますが大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません」
教室に入ると、当然だがそこには私と同い年くらいの子供たちがずらっと30人近く居た。
少し圧倒された。
これほど子供が一同に集まっている姿を初めてみた。
私と同じような生まれの子らは軍にも居たが、これほどの人数では無かったし別々の隊で動くことが多く集まった記憶なんてない。
それに噂を聞く限り生存率もあまり高く無かったようだし、軍で責任を持って学園に転入させられるぐらいの量しかそもそも残って無かったのかもしれない。
彼らの視線がじっと私に集中する。
こそこそと噂話をする教室の後ろの方の女子達の話を聞く限り、おおかた誰かが転校生の噂でも聞きつけて予想合戦でもしていたのだろう。
あまり負の視線は感じないし、拒否はされていなさそうだ。
「……転校してきました、リーリアです。よろしくお願いします」
……
かわいい
よっしゃ!
変な時期に転校してきたな
仲良くなれるかな?
よく考えたらこれ以外話すことがない、というか話せることがない。
私の人生は物心ついた時から兵士としてのものだった、ということは人生の大半が軍事機密。
当然と言えば当然だ。
随分と寂しい自己紹介になり、一瞬シーンとしてしまったがどうやら問題なかったようだ。
育ったら色仕掛けも仕込む予定でもあったのか、やたら恵まれた自分の容姿に感謝だな。
そのまま適当な席につき、授業が始まった。
チラチラと視線こそ感じるが、仮にもいいところのこと言うべきか授業中に話しかけてくるつもりはないらしい。
それ以前に、私は授業について行くのに結構誠意いっぱいであまり周りを気にしている余裕はなかった。
事前に教科書には目を通していた。
数学や科学は軍でも重要だったこともあり得意なのだが、社会やら国語がどうも苦手だ。
国語はキャラや作者の心情とやらを理解するのがどうもダメで、社会は軍事機密とこんがらがってどう答えるべきか迷うのだ。
一限目は国語だったらしく、早速ハズレを引いたと言うわけだ。
ここから数十分、ひたすら教科書と睨めっこしながらこのマイケルとかいう頭の抜けた少年の思考を考える羽目になった。
一歩目からかなり躓いている気がするのだが、これで本当に私はこの学園でうまくやっていけるのだろうか。
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