18話 母親
18話 母親
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何故、博士がこんなところに?
予想外過ぎた。
試験管は冗談にしても、私はてっきり上の使いの黒服が迎えに来るとばかり思い込んでいたんだが。
まさか博士みたいな人が直々に来るなんて。
こういうのものすごく面倒がるイメージがある。
なるべく研究室から出ないで、人との接触も最低限でみたいな。
ましてやこんな雑用みたいなこと、やらなさそう。
それほど大事になっちゃったって事なんだろうか。
まぁ、私銃隠し持ってたどころか人撃ち殺しちゃってるしね。
平和路線に舵きって甘くなってると勝手に思い込んじゃってたけど、もしかしたらそっち方向に過剰に反応する様になっているという説はある。
もはや下っ端が対応できる案件ではないって判断か。
これは、あの警察官の命もないな。
下手したらヴィーナも……それは、何とか勘弁してもらいたいところだ。
ヴィーナはいいとこのお嬢様だし、
見たと言ってもただ気の狂った殺人犯を見ただけだし、
お目溢しいただける、かな?
そう考えてみれば、博士が来たのもそれほどおかしくないきがしてきた。
突然私を学校に行かせるとか言い出したの博士だし、大事になり過ぎて責任を追及されてわざわざやって来たのかもしれない。
そうにしては、あまり苛立っていなさそうだけど。
もしくは、初めから私の監視の責任者が博士だった説もある。
まぁ、私には結局関係ないんだけどね。
だれが来たところで、そのまま処刑場へ運ばれるだけだ。
一瞬びっくりしちゃったが、なんてことはない。
迎えに来た相手がちょっと予想と違ったってだけの話だ。
母親なんて言われて身構えちゃったから、余計に。
しかし、博士が私の母親なんて名乗るのはどうかと思うけどね。
創作物っていう意味では子供かもしれないけど、博士そんなキャラしてないでしょ?
何考えてるのか、本当によく分からない人である。
「どうした? 黙ってないで挨拶ぐらい返してくれてもいいじゃないか」
「お久しぶりです」
このナチュラルな上から目線、やっぱり博士だ。
天才で堅物、他人のことなんてまるで気にしない。
やっぱりそうでないと。
ちょっと会わない間に急に何か変わったのかと思った。
まさか博士まで平和主義に? なんて。
ただの勘違いらしい。
母親発言は、博士に迷惑かけた私への当てつけだろうか?
いや、そんなの意味ないことぐらい、私を作った博士が一番分かってるしこれは違うな。
特に意味もない、適当な言い訳かな。
「相変わらず、リーリアは固いな。母親に向かって」
……ん?
「あの、さっきから言ってる母親って何の冗談ですか?」
「冗談ではないが?」
え?
博士って、作ったものを我が子とか言って愛情を注ぐタイプだっけ?
そんな風には見えなかったけど。
と言うか、そんなタイプの人間が人体実験で強化少年兵を作るとかするわけないだろ。
ますます混乱してきた。
影武者か何かか?
面倒な仕事を他に押し付けたとか。
だが、私の感覚が目の前の存在を本物の博士だと告げている。
虹彩が、声紋が、完全に一致している。
こんな影武者無理だし、そもそも影武者なら内面の一致が一番簡単なんだからそこで違和感を覚えさせるわけない。
もしかして、精巧な偽物?
いや、偽物というのは違うか。
要は私みたいな存在ってことだ。
そんな技術見たことも聞いたこともないけど。
でも、博士ならそんなぶっ飛んだもの作り上げてても何も驚かない。
そんなもの作り上げた上で、内面がおざなりになってるのもあり得そう。
……
「何? そんなじーっと見つめて」
「失礼ですけど、博士本物ですか?」
「は?」
やべ、違ったみたいだ。
嘘って線もあるけど、博士なら気づかれた時に相手を褒めるようの言葉を用意しておくはず。
そういう人間だ。
つまりこれは、……やらかした!
「あ、いえ違くって。その、母親って博士に似合わない言葉だなぁって」
「リーリアの私への評価がよく分かった」
「ごめんなさい」
ちゃんと理由説明したのに、さらに怒られた。
理不尽だ。
そもそも、こんな紛らわしいことする博士が悪い。
「あぁ、そうか。そういえば、リーリアは知らなかったか」
「?」
「貴女たちの母親なんだよ。私は」
……え?
「それって、生みの親とかそう言う……」
「そうだ」
「あ、博士ってそう言うタイプだったんですね」
「そう言うタイプとは?」
「自分が作ったものを子供とか言う」
意外だ。
まぁ、そもそも別にそんな密に話してたわけでもないしな。
博士のイメージは私の勝手な印象と他の軍人の噂話で構成されている。
博士が元から自分の創作物を子供と言って可愛がるタイプだったとして、それに私が気づかなかったとしてもそれ程おかしくない。
そう言うタイプのくせに、人体実験やってたのは余計サイコみがます気がするが。
言われてみればそれもそれで博士っぽいか。
「いや」
「え?」
いや?
……え!?
違うの??
「言葉が紛らわしいな。本来の意味での産みの親だ」
「え、えぇぇぇぇ!!」
「そんな驚く事?」
博士が、私のお母さん?
初めて知った。
「もしかして、私の戸籍とかって」
「もちろん、私のとこに入ってるぞ。まぁ、貴女たちの中で私の子供だと役所に登録されてるのはリーリアだけだけど」
「もしかして、血が繋がってたりとか?」
「だから、そう言っているだろ」
ダメだ。
博士の言葉が全然頭に入ってこない。
この人が、私の……
と言うか、え?
博士、自分の子供で実験してたの?
衝撃なんだけど。
それに、貴女たちって、
「どれだけ子供居るんですか」
「400……、500は言ってないと思うんだがはて何人だったか?」
「ヤリすぎ、ってか計算おかしいですよ」
妊娠期間って大体10月10日ぐらいだよね?
仮に10ヶ月にして、無駄なく行ったとしても……
400人産むの、一万年ぐらいかかる計算になるんだけど?
「失礼な私は処女だ。ヤリマンみたいな言い方はよせ」
「は?」
「処女受胎ってやつ?」
狂ってる。
言ってる言葉の意味が分からない。
こんなのがお母さんとか……
「そういえば、あの太い試験管! 私、あれから生まれたんじゃないの?」
「あれは、ただの入れ物だ。流石の私でも人を0から作ったりは出来ない」
「入れ物、」
「そうだ」
衝撃の真実。
私のお母さん、試験管じゃなかった。
でも、入れ物か。
そっか。
自分で妊娠はしなかったのか。
400人だと月経を待つわけにも行かないし、直接取り出したのか?
ダメだな。
どっちにしろ狂ってやがる。
「その試験管に入れた卵子が博士の物で、だから母親ってことですか?」
「おお、よく知ってるな。性教育もしないのに、さてはリーリアはむっつりさんだな」
「うるさいです」
なるほど、これで謎が解けた。
「でも、不正解!」
「え?」
「他の子ならそれで正解だったんだけどな。リーリアの場合、精子が私のなんだよ」
……
「博士ってサバサバしてるなとは思ってたんですけど、男だったんですか?」
「失礼な、私はれっきとした女だ」
「じゃあ、2本生えてたりとか?」
「リーリアのその豊富な性知識の出どころには興味があるな。どこでそんなニッチなジャンルの情報仕入れて来たんだい?」
どう言うこと?
意味不明なんだけど。
……と言うか、精子なら母親じゃなくて父親じゃないの?
衝撃の真実。
私のお母さん、試験管じゃなかったし博士でもなかった。
「簡単だよ、こう自分の細胞をちょちょいと弄って精子を作ったのさ。もちろん普通の細胞から作るのは難しいから、特別な細胞を使ってね」
「特別な、細胞……」
「そう。人ってさ複雑な細胞から出来ているけど、生まれる前体内で一つの細胞が分裂して形造っていってるんだよね。その言うなれば万能細胞に手を加えると、あら不思議私の精子が完成って寸法」
「つまり博士の卵子をわざわざ精子にして、別の卵子と受精させて私を作ったってことですか?」
「正解!」
そんなクイズみたいなトーンで正解って言われても困るんだが?
でも、これならやっぱり博士は母親なのか?
いやでも卵子の持ち主は別にいるし。
母親が2人?
ダメだ、倫理を超越し過ぎてて良く分からない。
「何でそんな面倒な事を」
「そんなの、女の子同士で子供作ったらどうなるのか気になったからに決まってるじゃん。リーリアは気にならないの?」
「この、マッドサイエンティストめ」
ダメだ、この博士。
「いやー、照れちゃうね」
「褒めてない!」
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