12話 妹
12話 妹
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気まずい沈黙が部屋を流れます。
ちょっと、リーリアちゃんの方を見れないです。
彼女が目を合わせようとしてくれたけど、そらしてしまいました。
別に何かおかしなことをした訳じゃないと頭では分かっているのですが、心臓のドキドキが先ほどから止まってくれません。
私が勝手にした事で恥ずかしくなって目も合わせられないなんて……その事実に余計顔が火照って行くのが分かります。
もう、この赤くなってる顔を見られていることすら恥ずかしいです。
「……ちょっと、トイレ」
たまらず、私はそれだけ言い残してトイレに逃げ込んでしまいました。
なんて情けない……
あぁ、もう私ったら何をしてるのでしょう。
私が急にあんなことしたのに、リーリアちゃんは付き合ってくれたのです。
それを、私が恥ずかしがってどうすると言うのですか。
もっと仲良くなりたいって思っているのに、これではダメです。
初めのイメージは重要と言いますし、積極的にいかないと。
お互いが部屋にいても話さない雰囲気が出来てしまったら、それを変えるのはなかなか大変です。
私は出来る子、
ヴィーナは出来る子、
よし、行いきます……
トイレから出ると、リーリアちゃんは荷物を整理しているようでした。
「ねぇ、リーリアちゃん」
「ひゃいっ!」
彼女から変な声が出ました。
「あ、ごめん。ビックリさせちゃった?」
「うんん、大丈夫」
ちょっと焦っているようでした。
見られたくないものでもあったのかもしれません。
少し寂しいです。
これから同じ部屋で暮らして行くのに……
いえ、そうですよね。
それぐらいあって当然ですよね。
別にこれから仲良くなればいいんです!
いくら同棲するって言っても、今日出会ったばかりですから。
同性とはいえ下着類はちょっと見られたら恥ずかしいかもしれません。
他にも、人によってはパジャマとかあとは趣味のものも恥ずかしいと感じる人も居るかもです。
正直気になります。
気になるけど、聞きません。
さっきは何気なくリーリアちゃんが避けてた質問しちゃいましたが、私は成長するのです。
同じ轍は踏みません。
なんか、リーリアちゃん固まっちゃってますね。
そんなにビックリさせてしまったでしょうか?
「……本当に大丈夫?」
「う、うん」
良かった、大丈夫そうです。
……
って、違います。
そうじゃないんです。
私は別にリーリアちゃんを驚かせるために話しかけたんじゃなくて、仲良くなるために話しかけたんでした。
よし、言いますよ。
「あの……良かったらなんだけど、ちょっとお出かけしない? 近くにオススメのお店があるの」
言えた、
よく言えました、私。
「……うーん」
あれ?
無難な誘い方したと思ったんですが、リーリアちゃんの反応が芳しくないです。
なんで?
私、なんか変なこと言っちゃいましたか?
どうしよう……
「ごめん。転校初日で疲れてて」
あ、そうでした。
そもそも、初めからそう言って早めに1人で帰ろうとしていたじゃないですか。
それを職員室まで案内するって建前で同行して、同じ部屋だからここまで一緒に来ましたけど、そもそもリーリアちゃんは直ぐに帰りたかったんです。
初めの前提を忘れて遊びに誘っちゃうなんて……
自分の感情ばかり優先して、周りが全然見えてないじゃないですか。
何が私は成長する、です。
完全に同じことを繰り返してしまっています。
リーリアちゃん、ごめんなさい。
「……そっか、残念。美味しいケーキ屋さんがあったんだけど、また今度だね」
「……ケーキ?」
「うん、ケーキ」
また今度改めて誘うことにしましょう。
そんなに心配しなくても、同じ部屋ですしいくらでも機会はあるはずです。
ケーキ屋さんだけじゃなくて、お買い物に行ったりとかもしたいですね。
可愛いからどんな服でも似合いそうです。
お洋服とか色々買ってあげちゃいます。
……でも、やっぱり残念です。
「行く」
「え?」
「ケーキ屋さん、行きたい!」
そこには、目を輝かせ前のめりになったリーリアちゃんがいました。
こんなキラキラした表情を見るのは初めてです。
私も行きたいです。
でも、疲れてるみたいですし無理させるのは良くないですよね。
まだ慣れない環境で無理して、風邪でも引いたら大変です。
「さっき、疲れてるって」
「知ってる? 甘いものって疲労回復の効果があるんだよ」
……
リーリアちゃん、まるで別人かってぐらいキャラが変わっています。
どこか儚さを纏うような雰囲気があったのですが、それはどこへやら今は元気いっぱいって感じです。
そっか、そんなにケーキ好きなんですね。
そこまで言われて断る理由は私にはないです。
というか、この感じ断っても断りきれない感じがしますし。
むしろ私としては喜んでくれて嬉しい限りです。
「……まぁ、リーリアちゃんがいいならいいけど。誘ったのも私だしね。ただ無理はしないでよ、いつでも案内するから」
「大丈夫、今日行きたい」
「とりあえず、リーリアちゃんが甘いもの大好きなのは理解したよ」
甘いものが好きなんだったら、他にも紹介出来そうな場所がたくさんあります。
仲良し作戦は一歩前進です!
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キャラ変したリーリアちゃんを連れ、ケーキ屋に来ました。
来る途中、何気ない感じで手を繋いでみましたがやっぱり平気そうです。
もしかしたらケーキに気を取られちゃって、気にする余裕もなかっただけなのかもしれませんが。
これからも隙さえあれば手を繋いでいくつもりです。
ずっと繋いでれば、そのうち繋ぐ方が自然になりますよね?
……なんか、幼い子をお菓子で釣って騙してるみたいでちょっと罪悪感があります。
ケーキ屋の外でもすでに甘い香りが漂っています。
彼女は息を目一杯吸い込み幸せそうにしています。
本当に好きなんですね。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしいでしょうか?」
「はい」
「席にご案内いたします。こちらへどうぞ」
「ほら、リーリアちゃんこっち」
リーリアちゃんは、甘い匂いだけでもう幸せに浸かりきっているみたいです。
どこかぼんやりとした彼女の手を引いて店員さんに着いていきます。
手を繋いでて良かったかもしれません。
手を離したら、このまま匂いに釣られて厨房にでもフラフラと入って行ってしまいそうです。
ここに来て正解でした。
初めリーリアちゃんの体調を無視して誘っちゃったのはダメダメですけど、おかげで色々な新しいリーリアちゃんを見れました。
甘いもの、特にケーキが好きなのを知れたのも大収穫です。
「こちらがメニューです。ご注文決まりましたらお呼びください」
メニューと睨めっこしながら悩んでいます。
ほんっとうに、可愛いです。
「おすすめはショートケーキだよ。シンプルなケーキって誤魔化すのが難しいから、職人の腕で味がとっても違うの」
そう思ったらつい口出ししてしまいました。
幼い子共を相手するみたいに。
完全に妹扱いしちゃっています。
良くないと思っては居るんですけど。
でも、素直に私のおすすめを頼んでくれるのはやっぱり可愛いです。
待ってる間も、わくわくと顔に書いてあるのかってぐらいの分かりやすい表情です。
ケーキが絡んで、かなり幼児対抗してる気がします。
いいこと知りました。
これからも一緒にこのお店に来たいです。
もちろん2人っきりで、です。
こんな可愛いリーリアちゃん、他の人には見せてあげません。
私だけの秘密です。
「あ、美味しい」
「でしょ?」
「本当に美味しい。すごいよ、これ!」
リーリアちゃんはケーキを食べてテンションマックスです。
顔をとろけさせ、支えないと落ちてしまうとばかりに頬に手を当てています。
「ほんと、リーリアちゃん幸せそうに食べるね」
「むふー」
「そんなに喜んでもらえて、私も嬉しい」
パクパクとショートケーキをあっという間に食べてしまいました。
こういうのは本当はゆっくりと紅茶でも飲みながら楽しむものなのですが、幸せそうにしているリーリアちゃんにそんなことをいうのは野暮ですね。
彼女の視線が、私のケーキに落ちます。
欲しいのかな?
リーリアちゃんのあの幸せそうな顔が見れるなら私にとってはプラマイゼロどころか大幅なプラスだけど、でも1日に1個以上ってどうなんだろう?
私が悩んでいると、私のケーキから視線を外しメニューを見始めた。
……
「リーリアちゃん、もしかしてもう一個食べるの?」
「えへへ」
そんな顔された、ダメとは言えないです。
「食べ過ぎは体に良くないよ」
「はーい」
リーリアちゃんを見ていると、ちょっと余計な小言をを言ってしまいます。
ダメですね。
本当に妹扱いしちゃっています。
私に家族なんていませんでした。
一人っ子で兄弟なんて居なくて、親とも家族というほどの関係性を築けていたかと聞かれればいいえとしか言えません。
一番近くてせいぜい使用人だったのです。
別にリーリアちゃんをその代わりにするつもりなんてないのですが、無意識にそれを求めてしまっている気がしてなりません。
その人自身の事をちゃんと見ずに、その人を通して別のものを見ようなんて私の大嫌いな事です。
なのに……
嫌がられてはいないみたいです。
満面の笑みですし。
ただ、私が自分のことを嫌ってだけです。
大丈夫、別に代わりに見なければいいだけです。
そんな難しい話じゃありません。
妹みたいじゃなくて、リーリアちゃん可愛い。
これでいいのです。
リーリアちゃんなら、私が心の底から欲しているモノもきっと……
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