11話 同棲
11話 同棲
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そういえば、寮って……
リーリアちゃんが転校して来たってことは、当然新しくお部屋が必要です。
でも、この学校の寮に空きなんて無かったような気がします。
少なくとも一年生の寮には無かったはずです。
後から部屋に空きが出来ることもあるかもしれませんが、転校して行った子や退学した子の噂は聞いた覚えがありません。
心当たりがあるとするならば、寂しい事になっている右側ぐらいです。
もしかして、そんな思いが私の中に湧き上がりました。
期待とも言います。
それと同時に、父の事を全く気にしないほどの大物の子供なのかなと疑問に思いました。
私の態度、失礼だったでしょうか?
いや、そもそも私が1人部屋だった理由が、父が手を回して1人部屋になっているという思考自体がなんの証拠もないただの妄想でしかありません。
これは妄想に妄想を重ねてるだけに過ぎず、全く確証などないと分かってはいるのです。
ただ、もしそうだったとしたらと少し思ってしまっただけなのです。
態度を改めた方が……
いえ、違いますね。
今更態度を変えるとか、そんなの私がされて嫌だった事そのものではないですか。
相手のことを勝手に理解した気になって、気を利かせたつもりで行動する。
嫌だと言われた訳でもないのに、です。
彼女の親は本当に凄い人なのかもしれない、でもそれは私とリーリアちゃんが関わっていく上で何も関係のないことなのです。
この学園に通っているうちに、いつの間にか思考が毒されてしまってのかもしれません。
こんな考えは捨てるべきです。
彼女は、私に手を引かれるままに後を着いて来てくれているのですから。
少し恥ずかしいのか、頬がほんのり赤く色づいて……
見ていて、どこか庇護欲と母性をくすぐられてしまいます。
ほら、リーリアちゃんはこんなにも可愛いのです。
それが全てです。
妹がいたらきっとこんな感じなのかもしれません。
本当に同室だったらいいのに。
そしたら、むにむにして一日中抱きしめられるのに。
……まぁ、嫌がられちゃうかもしれないので妄想の中だけですけど。
「失礼します」
あっという間に職員室に着いてしまいました。
もっとこの時間を堪能したかったのですが、職員室は当然学園内にあるのでそんな時間が出来るほど遠いはずもありません。
それに、頬を染めて俯いてるリーリアちゃんに話しかけるのもなかなか勇気が必要で、結局無言のまま来てしまったので遠かったところで見たいなところはあります。
彼女と手を繋いでいるからでしょう、とっても注目されてしまっている気がします。
廊下を歩いてる時も視線を感じてはいましたが、同じ生徒に見られるのと大人の先生に見られるのはなんというかちょっと違います。
私まで少し恥ずかしくなってきました。
そそくさと担任の先生のディスクに向かいます。
私に連れられたリーリアちゃんのことをみて、要件を察してくれたのでしょう。
すぐに寮の鍵を渡してくれました。
なぜか、私に。
……なぜ?
まぁ、これを私に渡すってことは、
「やっぱり、私と同じ部屋だ」
なんとなく予想はしていましたけど、本当だと分かるとやっぱり嬉しいです。
リーリアちゃんと同じ部屋……えへへ。
「同じ部屋? と言うか、寮って相部屋なの!?」
「……嫌だった?」
私が漏らした言葉を聞いて、彼女が少し驚いた様子です。
勝手に内心で盛り上がっちゃいましたけど、嫌だったのかもしれません。
この学園の寮が2人部屋なことも知らなかったみたいですし。
相手どうこう以前に、友達になるのと一緒に暮らすのでは当然ながらハードルが全然違います。
……そう、決して私が嫌という訳じゃないはずです。
嫌われるようなことなんて……手を勝手に繋いで来ちゃいましたけど、あれはそもそも抵抗されたりしなかったので大丈夫なはずです。
「うんん、今初めて知ったからちょっと驚いただけ」
ふぅ、良かった……
私が嫌われてしまった訳ではなさそうです。
そうですよね、突然同棲って言われたら誰でも驚きますよね。
でも、そっかやっぱり知らなかったんですね。
転校してきた時期も中途半端な時期でしたし、転校先のことを調べる余裕もなくって感じだったのでしょうか?
でも、私以上のお嬢様かもしれないリーリアちゃんがそんな急に?
あんまり考えにくいですね。
「そっか。前の学校は寮じゃなかったの?」
「前も寮だったけど、1人部屋だったから」
「へぇ、そうなんだ。2人部屋でも少ない方だし、珍しいね」
「そうなの?」
「うん」
少し悩んで、そう答えてくれました。
そっか、1人部屋だったんですね。
それが急に相部屋になったら驚きますよね。
1人部屋ですか……
お金持ちの家の子だと、自室はあっても常にメイドさんとかがいてそもそも1人の方が慣れてないって子が多いと思うのですが。
そう言う学校もあるんですね。
でも、なんで悩んで……
あ、これずっとリーリアちゃんが避けて答えなかったタイプの質問です。
答えてくれたのは、少しは親密になれたからだと思ってもいいのでしょうか?
でも、聞かれたくないこと聞いちゃうなんて私のバカ。
大馬鹿者です。
ちょっと嬉しい。
いや、かなり嬉しいです。
だから、顔がニヤけちゃうのは仕方ないですよね。
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先生に鍵を貰って、そのまままっすぐ寮に来ました。
「ここが私たちの部屋だよ」
「へぇー」
リーリアちゃんがぼんやりと寮を眺めています。
その声にはどこか落胆を含んでいるように感じました。
まぁ、あんまり豪華な見た目ではないと私も思います。
寮なんてそんなものと言われればそれまでですが、少なくともこの学園に相応しいかと問われればノーだと言えます。
ただ、それは見た目だけで中身は凄いらしいです。
軍の技術を流用しているとか何かで、そこら辺の銃火器はもちろん爆弾にもある程度耐えられる作りになっているとか。
あと、地震やら台風やらの自然災害にも強いらしいです。
学校説明に書いてあったのですが、興味深かったので今だに覚えています。
それにしても……
ぼんやりと寮を眺めてるリーリアちゃんを見る。
これから一緒に住むんですよね。
私がこの学園に入学する頃妄想していた生活、それがちょっと遅れてですけど始まるのです。
そうです、いいこと思いつきました!
「あ、ちょっと待って」
そのまま部屋に入ろうとしていた彼女に少しだけ待ってもらいます。
「なに?」
「私、やってみたいことがあったの」
「?」
首を傾げられてしまいました。
何も説明してないので当然なのですが。
彼女をおいて、一旦先に部屋に入ります。
せっかくこれから一緒に住むのに、これをしないなんて勿体無いと思うんです。
まぁ、そう思う人は案外少数派なのかもしれませんが、少なくとも私にとっては憧れでした。
ずっとやってみたかったんですけど、1人だったので生憎なことに機会が無かったのです。
ふぅー。
なんか急にドキドキして来てしまいました。
深呼吸です。
落ち着くのです、私。
大丈夫、リーリアちゃんは優しいですから。
それに、私にそんな機会がなかったから恥ずかしく感じてしまっているだけです。
何もおかしなことじゃないはず、恥ずかしいと思う方がおかしいのです。
いくら扉の前で待っていても、父も母も帰っては来ませんでした。
メイドや執事は出勤であって帰宅ではありませんでした。
私はずっと言ってみたいと思いながら、なかなか言えずにいたのです。
今更、恥ずかしがってちゃダメです。
私は扉をそっと開け、顔を出します。
リーリアちゃんと目が合い、自分でも顔が真っ赤になっちゃってるのがわかります。
「お帰りなさい、リーリアちゃん」
「……ただいま」
言った、言ってやりました。
お帰りなさいって、言えました。
そして、リーリアちゃんもただいまって返してくれました。
なんて事のない、普通のやり取りです。
でも、私にとっては初めてです。
ちょっと感激してしまいます。
これが普通……
やっぱり、恥ずかしいです。
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