1話 夢
1話 夢
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
銃声が轟き渡る戦場、その場に明らかに不釣り合いな少女が物陰に1人静かに息を潜めていた。
グレーがかった白髪の長い髪に小柄でほっそりとした体型、誰もが不運にも戦場に巻き込まれてしまった一般人だと捉えるであろう年頃の少女は、しかしそうではなかった。
しっかりとした軍服に身を包み、スナイパーライフルを構え、敵将を狙い撃つために照準を合わせていた。
少女は兵士だった。
少女は周囲の騒音など意にも返さぬかの様に無視し、ただ自分の仕事に集中していた。
自分の呼吸をしっかりとコントロールし銃口のブレをなくし、風の向きや速度、距離を目視で正確に計算し、銃身を微調整していった。
少女は銃声や爆音に惑わされることなく、射撃の瞬間を待ち続けた。
もしこの場所が敵にバレたら、そうでなくても流れ弾が飛んでくる可能性がある。
確実にターゲットを仕留めるため、少女はそれほどまでに敵陣に接近していた。
しかし、少女は何度もこのような状況に直面してきたため、そのような恐怖や不安に負け心を乱すようなことはなかった。
いや、元からそのような心なんてなかった。
そして、敵将が一瞬その身を露出した瞬間、スナイパーはその機会を逃さず引き金を引いた。
銃弾は風を切って、まっすぐに敵将に伸びていった。
弾丸は軌道を描いて、敵将の胸に突き刺さった。
敵将は痛みに歪んだ表情を浮かべながら、悲鳴を上げることも出来ずに倒れた。
銃声が消えた後、少女はゆっくりと呼吸を整え周囲を確認した。
敵将は撃ち抜いた。
あれは急所だろう、仮に一命を取り留めたとしてもその時にはすでに手遅れだ。
これで相手の指揮系統は混乱し、この戦場は我々の軍の勝利だ。
任務を果たしたことを確信し、少女は満足げに息を吐いた。
しかし、ここで気を抜くような事はしない。
少女はその場にしばらく留まり、状況が安全であることを確認した後、退却するために身を起こした。
常に冷静であることが、自分が生き残るために必要なことだと知っていたから。
家に帰るまでが戦場だ。
どこかで聞いた言葉が頭に浮かぶ。
が、はてどこで聞いたのだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジリリリリ、ジリリリリ、
耳元で聞きなれない音が鳴り、目が覚めた。
少女は寝起きの半覚醒状態ながら、そうとは見えない機敏な動きでベットから飛び出し、その音源から少し距離をとり拳を構える。
ぼやけてよく見えないが、少なくとも大きさ形共に人間ではなさそうだ。
既存兵器にも該当物は見当たらないが、敵国の新兵器だろうか。
音源から視線を切らずナイフを手に取り、そのままひと突き。
何か金属同士がぶつかった音がして、聞きなれない音を発していたモノは息絶えた。
少女はひとまず満足したのか構えをとく。
まだ寝むいのだろう、ナイフを持ったまま目を擦っている。
「リーリアちゃん!? ……何、してるの?」
少女は、突然背後から肩を叩かれた。
不覚をとるとは……
少女は獲物を捕らえた瞬間動物が最も油断するなんてこと当然把握していたが、コンディションも万全ではない状況で知っているだけで油断しないで済むならそれほど楽な状況ではない。
しかし、いくらなんでもこれは気が緩みすぎていた。
そもそも、耳元で音が鳴るまで気が付かないなどあってはならない。
その上で後ろを取られるなんて。
背後を取られ、手を触れられるほど近づかれている。
この状況で少女にできることなどなかった。
ゆっくりと手をあげ、武器を手放す。
「……」
なぜ、何も言ってこない。
何か機密情報を聞き出すなり、伏せさせてより行動を縛るなり何かあるはずだ。
撃たれないということは、
少女はゆっくりと後ろを振り返る。
すると見慣れた顔が額に手を当てため息をついていた。
「なぜ、ヴィーナがこんなところに? ……あ、なるほど」
そういえば、もう兵士でもなんでもないんだった。
さっきまでのは夢、昔の夢だ。
私は兵士だった。
生まれた時からそう育てられた、人を殺すための道具だった。
それが何の因果かこんなことになるなんて……
戦争はすでに終わったのだ。
勝利で終わったのだから、万々歳だろう。
だが、私の居場所は無くなった。
戦時でもないのに私の存在は邪魔でしかなかった。
そして、誰かが言った。
学校に行け、と。
別に興味なんてなかったけど、命令に逆らう選択肢も理由もなかった。
だから、私はこの学園に通うことになった。
こんな夢を見てるようじゃ、まだまだ学校に馴染めたとは言えないな。
そもそも、いずれまた戦争になるだろう。
そしたら私はまた軍に戻るのだろうし、こんなことに何の意味があるというのか?
そう思う事は多々ある。
だが、命令には逆らわない。
それが私の生きる意味、生まれた意味だから。
まだなれない制服に袖を通し……この、スカートってやつヒラヒラする。
それにこの服、防御力皆無じゃないか。
大型の銃は無理だな、ナイフと銃を持ちいざ学園へ。
「ちょっと待って、逃げないでよリーリアちゃん。さっきのはどういうこと? それに、そんな物騒なもの学校に持っていってどうするつもりよ」
そこにはヴィーナが、いや鬼がいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
感想、評価、なんでもいいので反応もらえると嬉しいです。