私の星座
「いつかあなたが大きくなって、彦星様が現れたら私達にも教えてね」
何の前触れもなく突然両親がこの世から去った。
死因は、「飲酒運転をした車が警察から逃走中、信号無視により運悪く追突した」という誰にでも起こり得る回避しようがないものだった。
感情の整理が追いつかないまま、親族の手助けにより葬儀も滞りなく全て終わった。
両親の貯金は、私が高校を卒業するまでは足りそうであったが、流石に一軒家を学生の私一人で生活するにしては持て余す為、賃貸物件にして収入が私に入るように親族が手配してくれた。
すぐに貸し手が決まりこの家を離れることが決まった。
家財にも思い出が詰まっているが全てを祖父母の家に持って行けないため必要最小限にする。
引っ越し前日、家の中はリュックと家庭用プラネタリウムだけしか残っていない。
仕事が忙しくなり家族三人で天体観測が出来ないからと、私の誕生日プレゼントとして貰った物だった。
家庭用プラネタリウムは、四季に合わせた星座を映し出す球体型で貰った時、幼かったこともあり「すごい物」としか感じていなかったが、成長した今ならこれがそれなりの値段がするものだとわかる。
和室六畳の部屋中心に装置を置き、電源コードをコンセントに刺しスイッチを押した。
「春のおおぐま座……夏のはくちょう座……秋のペガスス座……冬のオリオン座」
天井や壁一面に投影された星座がゆっくりと一定のリズムで変わるようすを寝転びながら一つひとつ確認するように呟く。
その度に両親と周りに灯りが少ない河川敷で見上げ、星座早見盤を手に星を探したことを思い出し涙がこみ上げた。
「あなたの名前の由来はね。どれだけ時間が経ち周りの環境が変わっても、見上げれば夜空を彩る星のように、自分の人生にも様々な華がある子に育って欲しいと願いを込めたのよ。……その顔を見るにまだ小さいあなたには難しかったかな」
頭を撫でるような優しい声音で隣の母が呟いた。
いつの間にか寝ていたようで、装置の電源は付きっぱなしなのに障子の外が明るくなっていた。
あれが夢だったことに気づき、幸せだった気分が一気に霧散してしまった。
「忘れ物ないよ。大丈夫」
全部屋を一通り見て回り親戚の呼びかけに返事をする。
「……私は貰ったこの『星華』という名前と共に二人の分まで生きていくよ。私にも彦星様が現れたら紹介するね。行ってきます」
玄関の鍵をかけ両親と過ごしたこの家から出発する。