ポーカーフェイス令嬢
「ソリティア・ポーカー! 君との婚約を破棄する!」
舞踏会場の中央で高らかに叫んだのは、私の婚約者ダイヤ・ロイヤルフラッシュ王子。
硬直する私を睨むダイヤ様。
「そう、その顔だ」
私の顔――
「ソリティア様、こんな時まで無表情ですわ」
「徹底したポーカーフェイスだな」
周囲の驚きと囁きが聞こえてくる。
そう、私はいつでもポーカーフェイス。
でも、心の中はいつだって感情豊かですのよ!
けれど、ポーカーフェイスな一族に生まれて。
気品が求められる王子の婚約者に選ばれてからは、このポーカーフェイスが思う存分活かせると思っていたのに。
「君のそのポーカーフェイスにはうんざりしたよ」
裏目に出てしまっていたなんて!
ダイヤ様は私を睨んだまま、傍らにいる可愛らしい令嬢を片手で示した。
「私はこの表情豊かで感情豊かなババヌキーヌと真実の愛を見つけた! 無表情無感情の君とは今日限りだ。二度とそのポーカーフェイスを見せないでくれ!!」
そ、そんなあああああ……
ひどいですわああああーーー!
嘆く心とは裏腹に、私の顔はポーカーフェイスのまま。
こんな私の心に気づいてなんて、無理難題ですわよね……
いくら婚約者でも、真実の愛の相手ではなかったならなおさら……
うわああああん!!
「嘆かないで! ソリティア!」
えっ!?
私に手を差し伸べたのは――
隣国のハートクイーンズランドから招かれたジャック・オープンフェイス王子。
「貴女はそのポーカーフェイスの向こうに豊かな表情と感情を隠し持っている。そうだろう?」
なぜ、そのことを?
当てずっぽうで言っていますの? それとも、特殊能力で心の中が読めるとか?
わからない、でも――
私のポーカーフェイスがピクリと動きましたわ。
この方に、見せたくなってきました。
「見せてくれ、貴女の心を!」
タイミングよすぎですわ! やっぱり、読めますの!?
でも、それでもいいですわ。
「お見せしますわ。私の心を知ろうとしてくれる貴方になら」
手をとると、自然と微笑みが交わせて。
ジャック様が、私の真実の愛の相手だとわかりましたわ。
我が家の言い伝えにありますの。
真実の愛の前ではポーカーフェイスでいられなくなる。
「さようなら、ダイヤ様」
呆然としているダイヤ様に背を向けると、
「なんて美しい微笑みだ! 待ってくれ、ソリティアー!!」
慟哭が会場中に響き渡ったけれど。
待ちませんわ。
ポーカーフェイスに踊らされて、真実の私を知ろうとしなかった浮気者の王子様なんて!