1.知らない森と世界の書
全くの素人です。誤字脱字、読みにくさなどなどあるかと思いますが、生温い目で見て頂ければありがたいです。作者は豆腐メンタルな上、素人です(大事な事なので2度言いました)。その為、厳しいご意見、感想はご遠慮ください。
作中、また今後従魔の中にいわゆるゲテモノ枠も入ってくる可能性もございます。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
家のチャイムが鳴り玄関を開けると宅配業者がいた。
「水神さんですね。お荷物をお届けに上がりました」
そう言われて受け取った荷物はずっしりと重く、しっかり踏ん張らなければよろけそうだった。
まあそれも仕方ない。なんせこの荷物は通販で購入した瓶に入った酒類なのだから。
受領書にサインをしてドアの鍵を掛けると思わずニンマリしてしまう。
食品から酒類まで様々な商品をこの一週間でネット注文して、これがその最後の荷物だったのだ。
これで今夜の独りパーティの準備に取り掛かれる。ウキウキした気持ちを抑えることなく、キッチンへ向かおうと振り向いた直後から私の記憶はない。
そして今、私の目の前には鬱蒼と茂った原生林が広がっている。葉っぱで遮られているのか、日は高いのに薄暗い。
「何で私、こんな所に?」
大きな木の幹に寄り掛って座っている状態で目を覚ました。
服装は変わっていないが、足元はスリッパを履いていたはずなのにスニーカーに換わっている。
誰かに誘拐でもされて森に棄てられたのか?
何の為に?
まさか、あの大石日奈子が誰か男を引っ掛けて私を棄てさせたのか?
いや、さすがにそんな犯罪行為はしないだろう。
私の記憶にも、家に誰かが入ってきた記憶はないし、襲われた記憶もない。
だとしたら今の状況はどう理解したらいいのか?
周りを見渡しても視界に入るのは木と草と見たことのない花のみ。
人の気配もなければ、動物の気配もない。
太陽は高い位置にあるようなので、恐らく12時前後位と推測される。
誰が何の目的で、私をこんな山奥に放置したのかは分からないが、じっとしていても埒が明かない。取り敢えず歩いてみれば景色も変わって何か分かるかもしれないと思い、私は立ち上がって歩き出した。
私の名前は水神陸華、38歳。中小企業に勤める普通のOLだ。
つい一月程前に結婚を間近に控えた婚約者から別れを告げられた。理由は元婚約者の浮気。しかも浮気相手は私の会社の後輩で名前を大石日奈子という。28歳だというのに、自分の事を「ひなねぇ」と名前呼びする痛い女だ。だが見た目は若く、庇護欲をそそる様なかわいい顔と華奢な体形で上目遣いで男に甘えれば、大抵の男はデレデレして彼女の為に働いていた。
大石日奈子は2年程前に中途採用で入社してきた。当初は私が彼女の教育係となり、仕事について一から教えた。日奈子は男に媚びる事と悪知恵は働くが、基本頭は悪い。しかもすぐ泣く(泣き真似なので涙は一滴たりとも出ていなかったが)。そんな女にどうしたら仕事を覚えてもらえるかと試行錯誤して、どうにか普通に仕事を振れるまでに教育した。
やっと私の手元を離れたと安堵していたら、いつの間にか仲良くなっていた上司に私に虐められていると泣きついたらしく、事情を聞かれた。さすがに普段の私の行いから、上司は私が本当にいじめをしているとは思ってなかったから良かったが。
本当にあの当時は他の同僚(ほぼ男性)にも睨まれ、暫くは仕事をするにも苦労したものだ。
数か月も経てば周りも落ち着き、普通に働けるようになった。
その頃に、日奈子にも極力関わらなくて済むように部署も移動した。滅多に顔を合わせる事もなくなったが、噂だけは聞こえていて、会社の中で男性といちゃいちゃしていただの、男性社員に甘えて仕事を押し付け自分はサボってばかりいるだの。
男に寄生し、その庇護の下で左団扇が日奈子の基本なのだ。
彼氏も年下と同じ年の二人いると聞いていたのに、まさか私の婚約者に手を出すとは思わなかった。
ある日元婚約者に呼び出されて喫茶店に行くと彼の横に日奈子が座っていた。その時点で察したが、一応は話は聞こうと席に座る。
「陸華ごめん!君は強い女性だから一人でも生きていけるけど、ひなはか弱い女性だ。僕が支えなければ生きていけないんだ。そして、これからは僕はひなと一緒に生きていきたい!勝手な事を言っているのは理解しているけど、ひなの為にも別れてくれ」
座った途端、そう切り出された。
懐かしのメロドラマの再現か?と思ってしまうくらい、チープで陳腐な台詞に笑いそうになったが、どうにか堪えた。
「先輩ぃごめんなさぁい。まさか先輩の婚約者だったなんてしらなくてぇ。彼女さんがいるのは知っていたんですけど、もう気持ちがとめられなくて・・・ひっく・・・私のせいで先輩を不幸にしちゃった・・・え~ん!」
「ひな、そんなに泣くな。悪いのは全部僕なんだ。ひなは何も悪くないんだよ!」
「だってぇ・・・ひなのせいで先輩がぁ、ひっく」
「ひな・・・君は優しいんだね」
そんな三文芝居が目の前で繰り広げられた。
手で隠してはいるが、日奈子の顔には涙の一滴も流れていない。完全な嘘泣きだ。
悲劇のヒロインぶりたいなら涙のひとつも流してほしいものだと思う。
目の前にある水をぶっかけたい衝動に駆られたが、どうにか理性で抑えた。
元婚約者に対して今まで持っていたと思っていた愛情も、裏切られたという絶望も、別れの悲しさもない。ただ、日奈子の態度にイライラした。
これ以上ストレスを溜めない為にも、このくだらない空間からさっさとお暇しよう。
きっと日奈子は裏切られた事を知って絶望し、婚約者に泣いて縋る私を見たかったのだろうが、そんな無様を晒す気なんて更々無い。
だから敢えて明るい声で言う。
「話は分かったわ。婚約は解消、結婚もなかったことにしましょう。式場のキャンセルの手続きはしておくから、キャンセル料は貴方が払ってね。当然でしょ?まあ、結婚前に貴方がこんな人だったと知れて良かったわ。大石さんもありがとうね、貴女のお陰よ。それじゃ、私はこれで失礼するわ。どうぞお幸せに!」
なれるものならな。とは言葉にせず、私は満面の笑みで二人にそう告げ席を立った。
二人はそんな事を言われるとは思っていなかったようで、ポカンとした間抜けな顔になっているが、無視して踵を返した。
ふと斜め向かいの席に座っていた20代後半位の女性と目が合う。
すると無表情で親指を立てられた。どうにもお仲間の気配がする。
私は眼だけで微笑んでその喫茶店を後にした。
数日後には、私の結婚が破棄された事は社内中に広まった。もちろん吹聴したのは日奈子だ。泣きながら自分のせいだと男性社員に話をしたらしい。
そして日奈子が何をどう話したかは知らないが、今回も悪者は私らしく、女性からは同情の目で、男性からは非難の目で見られるようになった。
いい加減うんざりしたので、1ヵ月後には退職した。
それなりのポストについていた私がいなくなって大変だろうが知ったことじゃない。
そして今日は、結婚資金の為の貯金を盛大に使って購入した高級料理やお酒類を並べ、新しい人生の門出に『今までお疲れ様パーティ(笑)』をする予定だったのに。
どうしてこうなった!!
歩き出してからかなりの時間が経った。慣れない山道は歩き辛く、数回木の根などに足を取られ転けて足や手に怪我をした。それでも人の手が入った所はないかと探しながら歩き続けているが、一向に景色が変わる気配はない。
本当にここは何処なのか。
8月に入って今年も猛暑が続くと天気予報では言っていた。そんな時期に、木々が生い茂っているので涼しくはあるが、ゆるっとした部屋着にスニーカーでの山歩き。日頃運動して鍛えているわけでもないアラフォー女の体力などあっという間に奪われるというもの。
手ぶらなので、水分補給もできず喉は既にカラカラだ。汗も全身から流れている。長い髪が肌に引っ付いて鬱陶しい。
頭もクラクラしてきた。
そろそろ本当に倒れるかもしれないと思っていた時だった。
いきなり場所が開け、薄暗かった森の中でそこだけ日の光があたり、キラキラと輝く泉が目に飛び込んできた。