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三色ゼリー

作者: ふくのかみ

思いつき。小さい頃の自分の話。

 わたしは寒天ゼリーが苦手だ。


 トラウマなどは全くない。ただ味が安っぽくて嫌いなのだ。

 小学生の頃『ソーダーゼリー』なるものが時々給食に登場していた。水色で曇ったガラスのような見た目だ。


 おそらく粉寒天や砂糖らしきものを混ぜるだけで手軽に完成するであろうこのゼリー。

シュワシュワするような舌触りもない。鼻水を垂らしているような当時の男子は何も考えず、喜んで食していたであろう。


 比較的グルメな両親のもと育てられた自分は、舌が肥えているのだ。思えば、よく休日に母と銀座や有楽町へランチを食べに行った。

 価格提示が全くない店内には異様な静けさがある。一等地で食べた握りたての寿司の味は、大人になった今でも鮮明に覚えている。ドイツのお土産にと初めてキャビアを食べたのは小学2年生のころだ。



 知識や人生経験はともかく、食に関してはそこいらの爺さんより断然グルメだったはずだ。

給食に関して下手なネーミングや見た目などで「子供扱いしないでほしい」と当時から強く感じていた。

とはいえ、所詮は小学生。

 常に全力で動き回った後の給食は、ある程度美味しくいただいていた。ワンタンスープやわかめご飯、冷凍みかんがメニューにある日は朝から楽しみで仕方なかった。


 当時は考えていなかったのだ。

子供たちの栄養バランスを考慮したメニューには、色々な方が関わっている。

 自分がここまで成長できたは給食のおかげだ。携わる全ての方へ心からの感謝を申し上げたい。



 ソーダーゼリーの他に自分を苛立たせる憎き宿敵がいた。

『三色ゼリー』だ。




 三色ゼリーとは、上から牛乳、イチゴ、抹茶の三層から成り立つ寒天ゼリーで見た目は異国の旗を思わせるような鮮やかさだ。抹茶を取り入れるセンスは実に日本人らしい。




 独自の感覚的なデーターから推測するに..

抹茶が苦手な小学生は恐らく半数ちかいはずだ。なぜ、あえて抹茶を一番下に敷くのだろう。

 一番上で展開されている、牛乳の層をほんの少しすくい、かじった。

体中の毛穴が開き、手から汗がジワジワと出る。体内に取り込むことを拒否しているのだ。

無理して食す必要はない。

苦手とかの話ではない、食べられない食品として認定されているのだ。以降、三色ゼリーの存在を無視し続けた。困ることは何一つなかった。



 3月3日、ひなまつりの給食。

ちらし寿司とともに主役のような顔をして三色ゼリーが登場した。

なんせ見た目だけは抜群にいいのだ。

「食べてみようかな..」

ふと、そんな気持ちになった。

食べられなかったら残せばいい。なんせ今日はひなまつりなんだ。



 近くにいる友達が偶然目に入った。

なんと、三色ゼリーをご丁寧に分解しているではないか。

びっくりしている私に「いちごだけは食べられるんだ..」とにっこり悲しい笑みが向けられる。



 そうか。その手があったのだ。

イチゴもイチゴジャムも大好物だ。


 なんでもっと早く気が付かなかったのだろう。

苦手な抹茶と白い部分に意識が集中してしまい、イチゴの存在を忘れていたのだ。

こうなると今まで散々、手を付けてこなかった分の三色ゼリーさえ惜しく感じられる。


「ここから、はじまるんだ」

自分に言い聞かせた。

 まず、丁寧に白い部分を削いでいく。

ここで手を抜いたら体の拒否反応が再び出てくるだろう。慎重に白い部分のみを取り除いた。



いよいよだ..



 高鳴る鼓動。

イチゴの部分をすくい口の中へ放り投げた。












..。







 体中の毛穴が開き、手から汗がジワジワと出てきた。

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