なめとこ村の熊事件 解決編
謎は、解けた。 かな?
そう、その予想は当たっている。犯人は小十郎自身だ。
それでは順序立てて考えてみようか。
まずは元村長の虎1番、こいつはまあ小十郎をどうにかする動機はあるが
なんたって現在、小十郎に訴訟を起こそうとしてる。
今小十郎を殺しても金は入らない。殺すなら訴訟の結果が出てからでもいいわけだ。
次に祈祷師の熊六道だが、なんだか気の小さい小悪党って感じで
計画的に犯罪を進められそうな感じはしないのよね(作者の感想です)
鶴亀仙吉を見たって話は、言い訳にしちゃあいかにも中途半端だし、まあ本当に見たってことは信用してもいいだろう。
問題は熊十一番だな。
そもそも小十郎が自分で事故を起こしたことで処理しようとしたことも怪しい。
熊六道が鶴亀を目撃したと証言した時も、少し対応がおかしかったしな。
たださすがに駐在の身だから、自分で手を下したとは考えにくい。まあ協力者ってとこかな。
さて、カギを握る鶴亀仙吉だが
コイツは、元村長の虎1番から小十郎が訴訟を起こされていることを知り
小十郎と話を付けるか、最悪小十郎をクビにして、新しい薬売りに変えようと企んでいたんではないのか。
では事件の日のことを再現してみよう。
小十郎はその日自宅の小屋に帰って来た。おそらく家の近くの古木でもチェンソーで切っていたんだろう。
そこにいきなり鶴亀仙吉が訪ねてきた。アポなしだ。これは熊六道に目撃された通り。
例の熊1号の訴訟の件で、鶴亀は何とか丸く収めろという。小十郎はもとより一歩も引く気はない。
そのうち両方とも言葉に力がこもって来る。小十郎は先般の母親の件で鶴亀に恨みがあるからなおさらだ。
ある程度話した上で、鶴亀は匙を投げた。もういい、お前はもう用済みだ。別の薬運びを探す、くらい言ったんじゃないかな。
小十郎はなにおっ、てんでもみ合いになる。そんなら鶴亀の今までの悪事をバラしてやる、くらい言ったんじゃないかな。
しばらくのもみ合いの後、小十郎が鶴亀に、出てけ! ってんで一瞬背を向ける。
鶴亀は元々筋もんだ。こいつを始末しなくてはまずい、と思ったんだろうな。近くに置いてあったチェンソーを持っていきなり小十郎に襲い掛かる。闇から闇へ始末するつもりだったんだろう。
間一髪気がついた小十郎は何とか身をかわす。勢いあまってチェンソーを持ったまま土間に倒れ込んだ鶴亀は、作動したままのそのチェンソーで誤って自分の首を切り落としてしまう。まあ不慮の事故っていうもんだな。
呆然としている小十郎の所へ、熊十一番が駆け込んでくる。
熊十一番は、恐らくパトロールの途中にでも鶴亀を見かけたんだろう。で、小十郎の家まで尾行してきて、二人の話は途中から立ち聞きしていたんではないだろうか。
いきなり熊十一番に飛び込んでこられて肝を冷やした小十郎は、もはやこれまでと観念した。
ところがそこで熊十一番はとんでもねえ提案をする。
「小十郎。お前の服をこの鶴亀に着せて、お前はどっかに逃げちまえ」
「へえっ!?」
「小十郎、まあ聞け。お前はオレが言うのもなんだが、驚くほど実直に働いてる。だがな、お前のやっていることはそれ自体法に触れることだ。オレは今まで何度もこの仕事から足を洗うようにお前に言ってきたが。お前も今のしがらみから離れられない事はオレも良く分かっていた。オレはお前と鶴亀のやり取りを聞いていたし、先に襲い掛かったのは鶴亀だ。結果的にこんなことになったが、これは鶴亀の自業自得ってもんだ」
「……」
「ここでお前が自首するのはいい、オレも正当防衛だと証言してやってもいい。それでも裁判になればどう転ぶか分からねえ。小十郎。お前が殺人犯という事になっちまうかも知れないし。もしかしたら鶴亀の仲間がいて復讐に来るかもしれねえ」
「だって…… だったら…… どうすれば?」
「小十郎、お前はここで生まれ変わって、新しい道を歩くんだ。この鶴亀の死体をお前自身ってことにして。鶴亀はどこかに消えたことにしちまえばいいさ。小十郎。オレはお前の性根は真っ当であることを知ってる。じゃなきゃこんなことは言わねえ。悪いことは言わねえ。姿をくらまして、新しい人生を生きるんだ」
「熊十一番さん、でも、それであんたはいいんですかい?」
「法に曲がることは良くない。ただ、オレはオレの正義を信じる」
小十郎は大粒の涙を流し、熊十一番の提案をのんだ。
とまあ、分かっているのはここまでだ。小十郎が上手く第二の人生を歩めたのか、あるいは真相を知った鶴亀の手下にでも取っ捕まっちまったか、それは誰にもわかんねえ。
ただ、薬売りがいなくなっちまったこの村では、熊六番が代わりに薬売りの真似事をしているそうな、風の噂では。
おや、君、なめとこ村に入っちゃいけないったら。
〈了)
小ネタ① 通貨の「タゲニ」は、反対から読むと「逃げた」
小ネタ② 十一番は、「とう・ボウ」とも読める
小ネタ③ 小『十』郎と熊十一番だけに、熊十一番の方が一枚上手だった