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アラガミと魔法のオカリナ  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 アリババと1人の盗賊
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第六話 問題発生!

「とにかく飲める物を探さないとな。体中の水分がなくなって死んじまう」


 ヤミヤミに文句を言う時間を惜しみ、早々に荒神は砂漠を歩き始めた。


「おぬし、荷物に飲み物はないのか?」

「ない」

「食料は?」

「ない」

「なぬ? ではそのパンパンに膨れ上がったバッグにはなにが入っておるのじゃ?」

「ふっ、そんなの決まってるだろ。漫画を描くための道具だ」

「はぁ?」


 荒神は得意げな顔で、異世界へ持ってきた物を紹介する。


「つけペン、ミリペン、インク、原稿用紙、トーン。あとはボールペンと鉛筆とノート。どこでも絵が描けるように画板も持ってきた! 異世界の風景を撮るためにデジカメも入ってる。その他漫画用の道具一式だ」


 ヤミヤミは呆れを通り越して怒りを感じた。


「お、ぬ、し、は――アホかぁ!! 異世界に行くならば保存食や飲み物や武器になる物を持ってくるのが常識じゃろがい!!」


「………………一理あるな」


「百理あるわ!!」


「やかましい! お前にアホって言われる筋合いはない! 元はと言えば――かはぁ」


 荒神は大きく声を張り上げようとしたが、声は喉元で溶けて消えた。


「くそぉ、喉が渇いて声が掠れやがる……!」


 太陽をここまで憎いと思ったのは初めての経験だった。


「暑い……」


 とにかく水場を求めて歩くが、果たして水場に近づいているのかそれとも遠ざかっているのかわからない。

 体の水分が汗という形になって外に放出されていく。この汗が出なくなった時が、願いを使うラインだ。


「もう願いを使った方がいいのではないか? このままでは死んでしまうぞ」

「やかましい。こんな序盤で使ってたまるか……ん?」


 遥か先、微かに緑と青色が見えた。


「あれはまさか、湖か!」


 わずかに残った体力を使い、荒神は走り出す。


「間違いない! 湖だ! 水だ!!」


 林に囲まれた湖。枯れた地に咲くオアシス。

 荒神は湖に駆け寄り、顔面から湖に顔を突っ込んだ。ゴクゴクと飲む。

 湖の水は不味く温かい物だが、喉が渇き切った荒神にとってはなによりも美味しく感じた。


「くはぁ! 生き返った!!」

「水場があるということは、近くに街がある可能性が高いのう」


 ヤミヤミは10メートルほど空を飛んで周囲を見渡す。


「お! あったぞアラジン! 街じゃ!!」

「本当か!」


 荒神はヤミヤミが指さす方へ走り、林を抜ける。すると視線の先に干しレンガの城郭都市が見えた。


「街にも()かずリタイアという最悪の展開は回避できたな」


 水を飲み、余裕の出来た荒神は砂漠の負の部分ではなく、正の部分に目を向けた。


「改めて見ると、砂漠って凄いな……! 漫画とかでは何度も見たことあるけど、実物の砂漠はもっと広大で綺麗だ。これを肌で感じ取れただけでも異世界に来た価値はあったな。と言っても、砂漠を見るだけなら海外に行けば事足りるか」


 ぐーっと腹の音が響く。


「喉が潤ったと思えば今度は腹が空いたか?」

「そうみたいだ。街に急ごう。いや、その前に一枚だけ」


 荒神はカメラをバッグから出し、砂漠をレンズに合わせて撮影する。荒神がシャッターを下ろす寸前でヤミヤミはカメラの前に出てピースサインを作った。砂漠を背景にしたヤミヤミの写真が見事に一枚撮れたのだった。


「おい、邪魔するなヤミヤミ!」

「まぁまぁよいではないか」


 荒神は保存されたヤミヤミの映った写真を見る。


「お前……カメラには映るんだな」

「他の者がその写真を見ても砂漠しか映っておらんじゃろう。おぬしが三つ願いを叶えて、われが消えた時、おぬしの目にもわれの姿が映らなくなる。つまり、おぬしが旅を終えて元の世界に帰る時にはただの砂漠の写真になっておるということじゃ」

「そうか。ならもう一枚撮る必要はないな……今更だけど、お前の姿とか声って」

「おぬし以外の者には見えんし聞こえん」

「お決まりだな」


 荒神はカメラをしまい、街へ歩いて行く。

 荒神が街の入り口、城郭都市の正門につくと、2人の衛兵に行く手を阻まれた。


「■■■■、■■■■■■!」

「■■■■■■。■■■■■■■■」


 衛兵が喋った言語は荒神のまったく知らないものだった。


「なに言ってんだコイツら?」


 態度から『ここを通すわけにはいかない』的なことを言っているのはわかるが……。


「そうか」


 荒神はここで当たり前なことに気づく。


(異世界の人間が日本語や英語を喋れるはずがない。これはまいったな……言語が通じないというのは死活問題だ。今からコイツらの言語を覚えようとすればどれだけ時間のかかることか……!)


 ヤミヤミの方を見ると、ヤミヤミはニヤニヤと笑っていた。『ほれほれ♪ 願いを使わんかい』と思っているに違いない。


「タイム!」


 荒神は両手でTの字を作り、衛兵たちから距離を取った。衛兵はなんとなくだが荒神のジェスチャーが通じたようで門の前で待機した。


「……迂闊だった……言語問題が完全に頭から消えていた」

「なーに、簡単な問題じゃ。『この国の人間と会話できるようにしてくれ』と願うだけでいい」

「それは嫌だ」


 む。とヤミヤミは唇を尖らせる。


「言葉が通じないまま異世界を冒険するのは危険じゃ。おぬしにだってそのくらいわかるじゃろ? 今のままじゃこの街に入ることすら叶わんぞ」

「ああ、わかってる。願いは使うさ」

「おおっ!」

「ただし、『この国の人間と会話できるようにしてくれ』じゃもったいないだろう。もっと利口な使い方をしよう」 


 そう言って荒神は不気味に笑った。

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