第三話 一つ目の願い
叶えてほしい願いはない。
そう言い放った荒神に対して、ヤミヤミは心底驚いた。
ヤミヤミは3000年前から願いを叶える遊びを始めた。つまり荒神が30人目に自分を呼んだ召喚士になる。
初めてだった。
自分に対し、願いがないと言う人間は。
「も、もしや、まだわれのことを疑っておるのか?」
「いいや、お前の力は本物だろうし、猿の手のようなケースを疑っているわけじゃない。ただ単に、俺には叶えてほしい願いがない」
「ああ、ありえん……人間とは欲深き生物! 願いのない人間なぞありえん!!」
ヤミヤミは部屋を見渡し、机の上に荒神が描いている途中のネーム(漫画の下書き)を見つけた。
ヤミヤミはネームを指さす。
「あれはなんじゃ?」
「俺が描いた漫画だ。俺の夢は100億部売れる漫画を描くことだからな」
「夢、あるではないか! われならばその夢を一瞬で叶えることができるぞ!」
「ふざけるな」
荒神は低い声色で言う。
「俺は俺の力で大成する。お前の力に頼る気はない」
「な、ならば金はどうじゃ? 金は誰だって欲しいじゃろ?」
「いらん」
「なら女はどうじゃ? われの力なら絶世の美女を用意できるぞ。そうじゃ! もしおぬしが願うのなら、この魔神ヤミヤミのナイスボディーを抱かせてやってもいい! おぬしぐらいの年頃だと性に飢えていることじゃろうに」
「いらん」
「き、貴様~~!」
ヤミヤミは荒神に飛び掛かり、馬乗りになって髪を引っ張る。
「ぐわっ!?」
「なぜなにも願いがないんじゃ! われは願いを叶えて感謝されたいんじゃ!! われに平伏し感謝する人間の姿を見るのが好きなんじゃ~!」
「やめろ魔神! 髪を引っ張るな!」
荒神はヤミヤミを引きはがし、服を正す。
「地位も金も女も、自分の力で手に入れてこそ価値がある! 登らずして頂上の景色を見てなにが楽しいか! 諦めろ!」
「い~や~じゃ! おぬしが願いを言うまで、われはここを一歩たりとも動かん!!」
ヤミヤミは両腕両脚をバタバタ動かし、ごねにごねる。
「ね~が~い! ね・が・い!!」
「こんな駄々っ子が魔神だとは……! ええい、やかましい! なら願いを言ってやる!」
「本当か!?」
「『帰れ』!!」
「断る!」
「お前、願いを叶えるんじゃないのか!?」
「うるさい愚か者! 心の底から感謝される願いでなければ、われは叶えん!!」
心の底から感謝できる叶えてほしい願い、そんなものは荒神にはない。心の底からの願いこそ、他人の力は借りたくないと荒神は思っているからだ。
(くそっ! これじゃ適当な願いで追い払うこともできん)
荒神の視界にある写真が入った。
それは家族写真だ。荒神と、両親、2人の兄。5人の写真。
「……なぁ」
「なんじゃ!」
「その願いで、人を生き返らせることはできるか?」
ヤミヤミは真面目な顔で答える。
「できる。じゃが条件が2つある。1つ、蘇生できるのは1つの願いで1人まで。2つ、蘇生できるのは死んでから49日以内の者のみ」
「なるほど、四十九日か。なら過去に戻ることは可能か?」
「過去や未来に干渉することも不可能じゃ」
「そうなると――やっぱり無いな、願いなんて」
「本当に1つたりともないのか……?」
「ない。欲しいものは自分で――」
荒神は本棚に視線を移した。
荒神は本棚に近づき、その中の“ファンタジー用語集”という創作用の資料集を手に取って読み始めた。
「おいコラ! われを無視してなにをしておる!」
荒神は資料集を眺めながら編集に言われたことを思い出す。
『どこかへ旅行に行くのもいい。そうだ、世界遺産でも見に行ったらどうだい?』
ならば。と荒神は笑う。
「世界遺産なんてちゃちなモノより、もっと良いモノを見ようじゃないか。明後日からは夏休み。時間はある……ふん、取材旅行というやつだな」
資料集の表紙をヤミヤミに見せて笑う。
「……魔神、願いごと、できたぞ」
「なんじゃと!?」
満面の笑みを見せるヤミヤミ。
荒神は一つ目の願い事を宣言する。
「俺をファンタジーの世界に連れて行ってくれ!」
「面白い!」
「更新楽しみ!」
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