第二十三話 合言葉
不良のような言葉遣いでヤミヤミはバロルを責める。バロルは怯え、声がでない様子だ。
このままではまずいと思い、アラジンはなんとか喉から声を出す。
「イフリートっていうのは何者だ?」
「われの弟じゃ。ある大罪を犯して精霊界最大の監獄にて捕縛されている」
「どんな罪を犯した?」
「……災厄の召喚士の願いを叶えたんじゃ」
「災厄の召喚士……?」
「11年前、この魔法界は1人の召喚士によって支配された。召喚士の名はグリム。グリムは100の悪魔と契約し、悪魔たちを世界各地に派遣して国々を手中に収めた。精霊界でもグリムの存在は危険視され、グリムを止めるためにイフリートは自らの誓約碑を魔法界へ落とした」
「イフリートも願いを叶える力があるなら、『グリムを倒してくれ』と願えば一発で問題解決なわけだ」
「そうじゃ。イフリートはわれとは違い、1つしか願いを叶える力がなかったが、その願いを使えばグリムを倒すことは容易じゃったはず。あとは善良な心を持つ召喚士に会うだけじゃったのに……やつはよりにもよってグリムに召喚された。そしてグリムの願いを叶え、何食わぬ顔で精霊界へ戻って来たのじゃ。当然、精霊たちは激怒し、イフリートを牢へと閉じ込めた」
「イフリートはどんな願いを叶えたんだ?」
「知らぬ。本人も口を閉ざして話さんかった。結局グリムは7年前にシンドバッドという召喚士に倒されたからよかったものの、一歩間違えれば魔法界が滅んでいた」
災厄の召喚士に手を貸した最悪の召喚獣。
そんな存在を野に放すなど、ヤミヤミが怒っても無理はない。
しかし、どんな事情があっても関係ない。アラジンにとってイフリートが祠に居るのは好都合だった。
「……でも、それならイフリートの力を借りればウンディーネを余裕で倒せる! 願えばいいだけだからな!」
「いいや、イフリートに願いを叶える力はもうない。われが略奪した。というかやつには魔法界へ降りる力すら残っていないはずじゃ。バロル、貴様……一体なにをした?」
「――お答えできません」
「貴様ッ!!」
アラジンは左腕を出し、ヤミヤミを制す。
「契約してみれば全部わかるだろ」
「アラジン……」
「お前も、あまり多くは語れないんだろ?」
「ああ」
「これ以上話しても時間の無駄だ。祠に入ろう」
「うぅむ、仕方ないのう……ただし! バロル! 貴様は精霊界へ帰ったらしばく!!」
「……ですよね」
バロルの声は震えていた。
◆
ヨルガオと合流して祠の扉を目指す。
アラジンとヨルガオは巨大な扉の前で足を止めた。
「商人の話だと扉の上に暗号があるって話だったな」
「あそこだ」
ヨルガオの指さす方を見る。
そこには文字が書いてあった。
「あれは……!?」
アラジンは文字を見て驚いた。
暗号でもなんでもない。
古代文字でもなんでもない。
ましてや異世界の文字でもない。
扉の上にはこう書いてあった。
『あいことばは ひらけごま』
願いの力で翻訳したわけじゃない。
それは――紛れもなく、
(日本語!? ひらがなじゃないか!!)
見知った文字。なのに受ける印象は不気味の一言。
アラジンとヤミヤミは無言で視線を交差させた。
「読めるのか?」
「あ、ああ……」
読める、だが、ためらわれる。
(最悪の精霊が眠る祠。祠の入り口には日本語で書かれた文字……嫌な感じだ)
「アラジン!」
ヤミヤミが心配そうに声を張り上げた。
アラジンは深呼吸する。
「……ここで止まるわけにはいかないだろ! ――『ひらけごま』!!」
重く、厚い扉は合言葉に反応し、勝手に開いていった。